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透明な絵の具

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  • 1:

    名無しさん

    薄いパーカーをはおり、フードを深く被る。
    小さな黒猫の腹を手の平で撫でる度に白髪に近い銀色の前髪が揺れ動く。
    人気の無い道路の端にしゃがみこみ、幼い黒猫の遊び相手になっていた少年は足元に置かれたビニール袋の存在を思い出し、黒猫の顎を人差し指の先でそっと撫でると静かに立ち上がった。

    2014-09-12 05:11:00
  • 2:

    りんた

    まだ遊び足りない様子の黒猫を背に歩き出した少年は左手に持ったビニール袋の中から透明な箱を取り出す。
    ジャラジャラと音を立てるのは箱いっぱいの画鋲。
    とあるマンションの駐輪場で足を止めると、目の前に置かれてある自転車のタイヤにゆっくりと画鋲を突き立てた。

    2014-09-12 05:22:00
  • 3:

    りんた

    適当に何台か選び、同じ動作を繰り返す。
    その作業に飽きるのに時間はかからなかった。
    画鋲の入った箱の蓋を開け、逆さにする。
    地面に叩きつけられた画鋲は音を立てて自転車の周りに散らばった。
    虚ろな表情の少年は何事も無かったかのようにその場を去る。
    大通りに出ると閉店した後の居酒屋を何軒か見つけ、入口近くに置いてあるごみ箱を足の裏でゆっくりと押してみたところ大きな音を立てて転がり、中のごみ袋が飛び出した。

    2014-09-12 05:36:00
  • 4:

    りんた

    つまらない、と思う。
    こんなことをしている自分にも、こんな人間のいる世の中にも嫌気がさした。
    それと同時に物足りなさも感じる。
    小さな悪戯では気持ちが落ち着かなくなっていた。
    少しずつ歪んでいく感情。

    ふと、小さな黒猫の姿が脳裏に浮かんだ。

    2014-09-12 05:50:00
  • 5:

    りんた

    "帰ろう"

    少年は目の前に転がったごみ箱に冷たい視線を向けた後、ゆっくりとフードを持ち上げる。
    銀髪が月明かりに照らされて揺れた。

    2014-09-12 05:57:00
  • 6:

    りんた

    仕事からの帰り道、自宅であるアパートの入口付近にしゃがみこむ小さく丸まった背中を見つけた。
    フードを深くかぶっているので性別まではわからないが子供の背中にも見える。
    歩くスピードを落とさないまま道路の反対側からしゃがみこんだ人物の手元を覗き込むと幼い黒猫の姿が見えた。

    2014-09-12 06:02:00
  • 7:

    りんた

    『あ!子猫!』

    思わず声が出た。
    しゃがみこんでいた人物がこちらを振り返る。
    少し伸びた前髪の間から覗く瞳。
    中性的な顔をしているが恐らく男の子だろう。
    銀色に染めた髪の毛がやけに目立つ。

    2014-09-12 06:09:00
  • 8:

    りんた

    『猫、好きなんですか』

    少年は柔らかい表情で口を開いた。
    見た目よりも低い声に少し戸惑ったものの、ゴロゴロと喉を鳴らす子猫の存在を思い出して少年の元へ歩み寄る。

    『大好き!まだ小さいなぁこの子』

    2014-09-12 06:15:00
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