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  • 1:

    ◆qrlDpe3WiM

    友情と愛情 
    どっちを取るって    聞かれたら           
    今ならそう          
    あたしは
    迷わず答えれるのに―…

    2007-05-30 22:21:00
  • 2:

    ◆qrlDpe3WiM



    2007-05-30 22:23:00
  • 3:

    ◆qrlDpe3WiM

    煌びやかなネオンが、今日も街で輝く。その光は、きっと月よりも眩しい。  そして、そこで働く女達と男達。その数は、きっと星の数より多い―。         
    そんな夜の世界で生きている人々。あたしも、その中の一人。この世界に入ってもう3年になる。         
    "月奈(ツキナ)"      あたしは、そう呼ばれた。

    2007-05-30 22:32:00
  • 4:

    ◆qrlDpe3WiM

    もちろん、これは源治名というやつであって。本名は別にある。3年前、あたしがこの世界に入るキッカケを作った当初の店の代表が付けてくれた。        
    理由は、十五夜の日に入店したから…。なんとも単純な理由だった。だけど、あたしはこの名前が嫌いじゃない。いろいろな意味で思い出深いこの名前を、あたしは3年経った今でも変えられずにいる。          
    もしかしたら、また出会えるかも知れないなんて。 叶うはずのない願いをこの名だけに託して―。

    2007-05-30 22:57:00
  • 5:

    ◆qrlDpe3WiM

    3年前、あたしは大切な人を失った。自らの手で、手放した。選んだ道は間違ってなかったかなんて、今更誰に問い掛けても答えなんて見つかるはずもなく。     
    ただ、忘れられないでいる。季節の巡りは肌でこんなにも感じれるのに、あたし一人だけ時間があの頃から止まったままのような気がして。 

    ねぇ、花梨。
    聞こえてる?あたしはいつまで光の射さない朝に怯えて、生きていくんだろう…。

    2007-05-30 23:08:00
  • 6:

    ◆qrlDpe3WiM



    2007-05-30 23:10:00
  • 7:

    ◆qrlDpe3WiM

    3年前―。       あたしは、実家である神戸を離れて大阪で一人暮らしを始めた。理由は、些細な事だった。フリーターとしてアパレル関係のバイトをして、適当に彼氏とも付き合って、そんな当たり前すぎる毎日に少し刺激が欲しかったから。
    加えて…言えば、二十歳にもなって実家にいる肩身も正直狭かった。親とは仲が悪い方ではなかったけど、あたしが一人暮らしをすると言っても引き止める事も理由を聞く事もなかった。

    大阪に出てからは、初めは経験のあるアパレルの仕事を続けるつもりだった。 だけど、なかなかいい所が見つからず…ミナミの街を真っ昼間から渡り歩く。

    2007-05-30 23:25:00
  • 8:

    ◆qrlDpe3WiM

    夏も終わりなのに、今日の大阪は異常に暑い。まだ、半袖の人もちらほらいた。歩き疲れて自販機でお茶を買ってベンチに座って、しばし人間観察…。       
    前から、スーツ姿の男が歩いてくるのが見えた。茶色い髪の毛に、所々から光るシルバーアクセサリー。 サラリーマンではないのは一目瞭然だった。       
    ホスト…かな?どこをとって見ても、真っ昼間にはふさわしくない風貌だ。

    2007-05-30 23:34:00
  • 9:

    ◆qrlDpe3WiM

    「…あっついなー。俺にも一口くれへん?それ。」 目の前で立ち止まった男は、あたしの手にある烏龍茶を指差し言った。    『横に自販機あるけど。』初対面の男に、飲みかけの烏龍茶を渡すのはさすがに気が引ける。  
    「あ、ほんまやー(笑)ありがとっ。俺も休憩しよ。」あたしの隣に腰掛け、男は買ったコーラをすごい勢いで飲みほした。         
    だいぶ年上かと見えた容姿は、近くで見ると意外と若く、20代前半だろう。

    2007-05-30 23:45:00
  • 10:

    ◆qrlDpe3WiM

    「ぷはぁ…やっぱ暑い日はコーラに限るな!ってか、自分こんなとこで何してるんー?人待ち!?」   こっちに顔を向けて、笑顔で聞いてくる。     『いや、職探し…。』  「職探し?仕事何もしてないん?」
    『つい最近、引っ越してきたとこやからさー。』  烏龍茶を口に流し込みながら、街行く人を見渡す。   
    返事がない男を不思議に思い隣を見ると、何か少し考えたような後、とびきりの笑顔で言った。     「じゃあ、自分うちで働きいや!?決定な!」

    2007-05-30 23:57:00
  • 11:

    ◆qrlDpe3WiM

    『はい…??』     状況がまったく掴めてないあたしに、彼は手際よく説明を始める。ホストだと思っていた男は、どうやらキャバクラの黒服のようだった。
    【キャバクラ】。アパレルの仕事をしていた時に、仕事仲間が掛け持ちをしていると言っていた。話や愚痴は良く聞いた。だけれど、やはり未知の世界…。     
    『そんなん無理やわ。夜の仕事とかした事ないし。』あたしは、彼の誘いをアッサリと断った。

    2007-05-31 00:04:00
  • 12:

    ◆qrlDpe3WiM

    《月奈っ、あたしはあんたの事を想って――ッ…!》《違う!花梨は結局自分の事しか考えてないやん!》《なんで・・?なんで分かってくれへんの――ッ?なぁ、月奈ぁぁ…ッ!》      
    ねぇ花梨、あなたに伝えなければいけない事が。  伝えなければいけなかった事が。

    まだ、たくさんあるんだ。

    2007-05-31 01:57:00
  • 13:

    ◆qrlDpe3WiM



    2007-05-31 01:58:00
  • 14:

    ◆qrlDpe3WiM

    あの日から一週間後、結局あたしはあの男に電話をかけた。思い通りに仕事も見つからず、興味本位のままに、その名刺に書かれた番号にダイヤルしていた。 「…もしもーし?!どちらさん?!」   
    彼はすぐに電話に出た。 『あっ……あの、あたし』そう言えば、あたし名前言ってないやん。どうしよう…。覚えてるわけないよなぁ…。         「…あー。あっ、もしかして烏龍茶の子!?一週間くらい前ミナミにいてた?」『覚えてたんや…。』  驚いた。声で分かったのだろうか。それとも、彼はスカウトが本職ではないのかもしれない…。     「電話くれたって事は、うちで働く気になってくれたん!?」
    嬉しそうに聞く電話ごしの声。      
    『とりあえず、話だけでも聞きたいな…って思って』

    2007-05-31 02:07:00
  • 15:

    ◆qrlDpe3WiM

    あたしが答えると、すぐにでも会って話をしたいとの事で、今日の夜早速会う事になった。待ち合わせは、前に会ったミナミの自販機の前に7時…。     どんな格好をするべきか分からず、まぁまだ働くと決めたわけじゃないし。適当にいつも通りのカジュアルな格好で家を出た。     
    「おー久しぶりやんっ!」 待ち合わせ場所に着くと、彼はもう自販機の前にいて相変わらずコーラを片手に飲んでいた。      『ごめん…!待たせた?』慌てて時計を見ると、まだ7時10分程前だ。    「いやいや、俺が早めに着いただけやから気にせんとってー!時間間違えて一時間前に着いたねん(笑)」 思わず、笑ってしまった。彼の足元には、コーラの缶が二本も置いてあった。

    2007-05-31 02:17:00
  • 16:

    ◆qrlDpe3WiM

    適当にその辺りにあった喫茶店に入り、話を聞く事にした。何でも頼んでいいと言われたので、とりあえずコーヒーを頼んだ。   「…で、まず、名前やん!俺、名前知らんし。俺の名前は知ってるやんな?」 『え…?知らんけど?』 「名刺渡したやん!どうやって電話かけてこれたんよ、君は(笑)」      あ、ほんまや・・。電話番号しか見てなかったから、名前なんてちゃんと目を通してなかった。     『ごめん…。名前ちゃんと見てなかった…。』   正直に、答える事にした。「正直やから許したる(笑)俺の名前は、藤堂 拓美やから覚えといてな!一応、Candleの店長やから。」 『えっ・・・』     店長やったんや…。若いし軽快な感じだっから、普通のボーイさんだと思ってたあたしは少し驚いた。

    2007-05-31 02:33:00
  • 17:

    ◆qrlDpe3WiM

    「なんのえっ!やねん(笑)」『いや…店長なんやね。ちょっとびっくりして。』 だから、普段はスカウトとかしなかったんだろうな。「あー良く言われるから、もう慣れてるわ。」   そう言って拓美は笑った。  
    「んで、本題に入るけど…」拓美は、お店の事をある程度詳しく説明してくれた。店名【Candle】     ミナミの中じゃそこまで大きなお店ではないらしいけど、常連のお客さんが多く暇な日はあまりないらしい。時給は、面接の際に決まる。待機カットはなし。

    2007-05-31 02:40:00
  • 18:

    ◆qrlDpe3WiM

    夜の仕事に何の知識もなかったあたしは、話を聞いていてもそのくらいの事を理解するのでいっぱいいっぱいだった。    
    「とりあえずー…さっ、いきなりやけど今日体入してみーひん!?」
    『体入って?』     「1日体験入店やで。」  『えっ…いきなり??』 「だって説明だけ聞いても分からへんやろ?働くか働かないかはそれから決めてくれたらいいから☆」 
    正直、こんなに展開が早いとは思ってなかったから急に不安になってきた…。 「大丈夫やって!俺が一緒におんねんから!」   どんな理由やねん。とか…思いながら、結局は拓美の押しに負けてしまい。あたしは、体験入店をすることになった。

    2007-05-31 05:15:00
  • 19:

    ◆qrlDpe3WiM

    「じゃ、早速案内するわー!もうすぐちょうど開店時間やから。」  
    『うん…。』 
    不安で重たい気持ちと、重たい腰をゆっくりあげる。「あ、肝心なこと聞き忘れてたわ。君、名前なんてゆーん??」       『…き。』       「え!?聞こえんから(笑)」『…佐久間 雪。』      
    「りょーかいっ!ほなら雪ちゃん行きますかー☆」 大阪に来て、二週間。行きずりで出会った男に仕事を紹介され着いていく。  あたしって、こんなに行動力あったんやなぁ……。

    2007-05-31 05:24:00
  • 20:

    ◆qrlDpe3WiM

    【club Candle】    拓美に連れられ緊張した足取りでお店に入ると、店内にはもうちらほら女の子が出勤していた。華麗なドレスに、綺麗にセットされた髪。どの女の子も、キラキラと輝いて見えた。   店内は想像していたよりも広く、カウンターにBOX席が六席ある。真ん中には、煌びやかなシャンデリアがぶら下がっていた。      
    「雪ちゃん、代表が面接して下さるみたいやからこっちおいでー。」     呆然と突っ立っていたあたしに、拓美が声をかける。なんだか、ますます不安になってきた。こんなん絶対世界が違いすぎるわ―…。   
    事務所のような部屋の中に入ると、代表と呼ばれる男の人がソファーに座っていた。          「初めまして。Candle代表の谷上 蓮です。どーぞおかけ下さい。」  あたしに気付くと爽やかな笑顔で、挨拶を交わす。   
    夜の仕事の人間は、みんな若く見えるのだろうか。 この人が代表・・?経営者って事やんね?     その男の人は、どう見ても20代で。ピシッと決まったストライプ柄のスーツが良く似合っていた。

    2007-05-31 05:43:00
  • 21:

    ◆qrlDpe3WiM

    「この仕事は初めてなんやんね?何か聞いておきたい事とかある?」 
    『あ…いえ……。』   聞いておきたい事なんて考えれる余裕すら、あるわけなかった。緊張で、顔も強ばっていたと思う。   「名前は雪ちゃん、でいーんかな?そんな緊張せんでも大丈夫やでー(笑)」  笑いながら、代表は言う。その笑顔に少しだけホッとした。この人の笑顔は、 なんだかすごく安心した。    
    「雪ちゃん、源治名どーする?何か付けたい名前とかってある?」 
    源治名。どうしよう…  『特には…ないです。』 「そっかぁ、んーそうやなぁ……。あっ!今日って何日やったっけ?」    『え?15日です…かね?』「よし!(笑)決まり!」  『?』   
    「月…月…月奈。うん、これや!十五夜やから月奈やな!決定!」

    2007-05-31 07:47:00
  • 22:

    ◆qrlDpe3WiM

    なんて単純な……。思わず唖然としてしまったけど、あたしはこの瞬間"月奈"になる事を決めた。    なんとなく、やってみたいと思った。この世界で、この人達の住んでいる世界を、少し見てみたいと思った。
    「月奈?なんでまた?」  『代表が決めてくれた。今日…十五夜やから月奈。』「あははっ単純やな。代表らしいわ(笑)」     拓美は、あたしに貸衣装のドレスを選んでくれた。 淡い黄色のロングドレス。   
    「めっちゃえー名前やん。月奈にちなんで、記念すべき初日は黄色の衣装で☆」『ありがとう…。』       
    拓美の選んでくれたドレスを着て、水割りの作り方など基本的な事を教わり、フロアに足を踏み入れた。 あたふたと接客をこなしながらこの日、無事に体入を終えてあたしは正式にclubCandleのキャストになった。

    2007-05-31 08:08:00
  • 23:

    ◆qrlDpe3WiM

    仕事を初めて1ヶ月、ようやく接客の基礎が身についてきた気がする。だけど、指名をとるのは素人のあたしにはやっぱり難しい。 特別美人でも可愛くもないあたしは、熟練された容姿や接客スタイルを持つ周りの女の子達に…かなうはずもなかった。      「月奈ぁ〜、お前またそんなとこでふてくされて。」『ふてくされてないし…』事務所の端っこで、携帯を充電しながら触っていると拓美が声をかけてきた。 「営業メールしてるん?」 『んー…ちょこちょこ。』連絡先交換したお客さんと、連絡のやり取りをする。もともと性格がマメじゃないあたしには、少し苦痛だった。だけど、指名を取る為にはきっと一番大事な事なんだろう。      「まぁ…それはいいとして。月奈、お前もしかして人見知りするタイプ?」  『へ…?なんでまた?』 「お前、女の子達と全くしゃべらんやん?んーなんてゆうか…仲いい子作るとか上辺だけでもいいから少しくらいコミュニケーション取ってた方が自分の為やと思うで??」  
    拓美は、心配してくれてるんだろう。まだ新人のあたしがいつもお店で一人でいる事を。

    2007-05-31 08:25:00
  • 24:

    ◆qrlDpe3WiM

    『…んー分かった!もっと話し掛けてみるわぁ。』 特別、友達が欲しいわけじゃなかった。拓美の言う通り、あたしは人見知りが激しい。だけど、せっかく心配してくれている拓美の気持ちを素直に受け取りたかった。
    「了解…☆頑張れよ!あ、そーいや今日から花梨復帰するから仲良くしーや!」『花梨って?』     「うちのもとナンバーワンの子やで。しばらく休業してたんやけど、今日から復帰するねんよ。」    ナンバーワンか……。きっと、美人で気が強い感じなんやろな。現に、今のナンバーワンの"未来さん"はそんな感じだし。 
    『分かったー。挨拶くらいしてみるわー。』    「花梨はええ子やから大丈夫やで。まぁ、そう心配すんなって!(笑)」  
    "はいはい"と適当に愛想笑いをすると、拓美は笑顔で仕事に戻っていった。

    2007-05-31 08:36:00
  • 25:

    ◆qrlDpe3WiM

    花梨と始めて出会った日。あたしは、まだ全然この世界に歩き始めたばっかりで。この先、こんなにもあなたに救われていくなんて全く予想もしなかったんだ。

    《月奈ぁぁ…。信じてや?あたしはッ……あんたを守る為に… 裏切ってなんかないからッッ!あたしは…》《言い訳なんか聞きたくないっ!…花梨だって、同じなんやろ?ほんまはあたしが…邪魔やったんやろ?》

    ねぇ、花梨。あたしはあなたに救われた。何度も何度も、救われて生きてきた。自ら手放してしまったその手を…あたしはまだ忘れられずにいる。

    2007-05-31 08:48:00
  • 26:

    ◆qrlDpe3WiM

    「おー花梨久しぶりやん!相変わらずチビやなぁ(笑」「たっくんー久しぶりっ!チビは余計やで!(笑)」 しばらくして事務所の入り口から、声が聞こえた。 ガラッ――。     
    「おはようございまーす!」中に入ってきた女の子と、一瞬目が合う…。 
    『あ…おはようございます。』
    拓美の言ってた花梨って、この子の事だろう。第一印象は、"ちっちゃ!!!" 花梨にこの話を後から言うと、"ひどいわー(笑)"と怒られたけど。        
    でも、そのくらい花梨はちっちゃかった。小柄というか、なんというか。華奢で小顔で、まるでお人形さんのようだった。

    2007-05-31 09:02:00
  • 27:

    ◆qrlDpe3WiM

    実は同じ年だったあたしと花梨。この日から、次第に仲良くなりあたし達はお店で会うたびにいつも話すようになっていた。  
    花梨は、声だけじゃなくて性格にも本当にギャップがあった。黙っていたら、まるでお人形なのに…性格はサバサバしてて、男女問わず接客中も自分を作ったりなんかしない。     この子がナンバーワンだった理由は、きっと見た目だけじゃないと確信できた。

    2007-05-31 09:22:00
  • 28:

    ◆qrlDpe3WiM

    『花梨ーッ。どうやったら指名取れるん〜!?』  今日は出勤前に、花梨とご飯を食べに来ていた。お店の近くの小さな居酒屋だ。あたしは、花梨に泣き付いていた。
    「月奈、営業メールとかはしてるん!?」
    『うん…最近はマメに。』「じゃあ、大丈夫やって!あたしが見てる中じゃ、月奈の接客は良く出来てるしお客さんからも、イイ噂良く聞くし☆」
    『じゃあ、なんで本指に返ってこないんやろぉ…』 はぁぁ…と、溜め息をつきながらあたしは目の前のビールを一口飲んだ。   「この仕事はな、すぐに結果に出る人と、努力を溜めて後から結果になる人の2パターンあるねん。月奈はきっと後者やわ!花梨が保障するから!」     花梨は笑顔で言った。  『花梨〜。。ありがとっ』経験豊富の花梨に保障してもらえるなら、なんとも心強い。―…確信なんかなくても、励ましてくれる花梨の気持ちが嬉しかった。

    2007-05-31 10:51:00
  • 29:

    ◆qrlDpe3WiM

    『そういや、花梨って彼氏とかいてるん!?』   花梨とは、恋愛話をした事がなかった。いないわけはないと思ってたが、興味津々に聞いてみる。    「…んー彼氏かぁ。一応、いてるよ。うまくいってないけど(笑)月奈は?」  『あたしはこっち引っ越す時に別れたぁ。なんかマンネリしてたしさ!花梨やっぱ彼氏いるんやー。どんな人?どんな人?』    花梨の彼氏やったら、やっぱり男前やろなぁ。      
    「…優しくて…冷たい人、かな。」
    『…え?なんか矛盾してるやん(笑)』
    「うん。矛盾ばっかりの人やねん(笑)」      そう言って、花梨は笑った。この時に一瞬見せた悲しい目の意味を、あたしはまだ気付くわけもなかった。

    2007-05-31 11:07:00
  • 30:

    ◆qrlDpe3WiM

    《月奈…あたしな…》  《聞きたくない!花梨の話なんか…ッ。もう信用出来ひんねんッ!もうあたしに関わらんといて!!》  《……ごめん…ね。》      
    花梨、気付いてあげれなくてごめん。あの時、あたしが花梨の話を最後まで聞いていれば―。あなたはまだあたしの隣で、あの頃みたいに笑ってくれた?      
    なぁ、花梨。
    あんたは何処にいるん…?

    2007-05-31 11:14:00
  • 31:

    ◆qrlDpe3WiM

    「おっす!チビっ子族!今日も元気かぁー!?(笑)」能天気な顔をして、拓美が更衣室に入ってきた。  「こらこら、着替え中やわっ!たっくん変態!(笑)」『誰がチビっ子族やねん』あたしと花梨は、ふざける拓美の背中を押してカーテンの外に追い出す。   「おまえらいつの間に仲良くなってん!ずるいぞー。俺も中に入れてやー!」  「…たっくん"中"の意味違うやろ!アホか(笑)」   「誰がアホや誰が!(笑)」 花梨と拓美は仲がいい。 拓美はこのキャラクターだから、店長といえども女の子誰とでもフレンドリーに話していたけど、花梨とは特に仲が良かった。       
    「あー……前、担当やったからちゃう?年も近いし」担当というのは、出勤確認などをしてくれる自分を担当してくれるボーイさんの事。   
    『店長やのに、拓美も担当持つ事あるん?』    実際、拓美にスカウトされて入ったあたしの担当でさえ違うボーイさんだった。

    2007-05-31 11:27:00
  • 32:

    ◆qrlDpe3WiM

    「うん。前は、普通にあったよ!今は仕事が忙しくなったから…担当いないみたいやけどなぁ。」    『なるほど!そっかー。』   
    「花梨、月奈、着替えれたかー!?五番の新規待たせてるから、用意出来たら接客いくでー!」     まぁ、拓美も仕事中は違う顔をしている。やっぱり店長としての、毅然としたオーラが出ていた。       
    さぁ、今日も頑張ろう。 「さて行こかー」『了解!』あたしと花梨は鏡で最終チェックをして、フロアに足を踏み入れた。

    2007-05-31 11:34:00
  • 33:

    ◆qrlDpe3WiM

    ボーイに案内された席に向かうと、今時の若者といった風貌の二人組の男が座っていた。―これが、【良太】との出会いだった。     
    『「失礼しまーす!」』  花梨と声を揃えて、席に座る。 
    「初めましてー☆二人ともめっちゃ可愛いなぁ!?」花梨が座った側の男が、ハイテンションで言った。 「またまたウマイわー(笑)」花梨は笑いながら、それを返していた。
    花梨は、接客が上手い。お客さんのジャンルを問わずいつもどんな人とでも会話を盛り上げていた。

    2007-05-31 22:35:00
  • 34:

    ◆qrlDpe3WiM

    「きゃはは!翔くんめちゃ面白いなぁ!(笑)」
    花梨さすがやなぁ…。もう打ち解け合ってる。あたしも頑張って接客しないと。退屈させたらアカンわ。 『あ…名前何ていうんですかぁ!?』
    「俺?俺は良太やでー。」 『…良太くんかぁー!』 ・・・。
    か、会話終了!?ど、どうしたらいいんー!?       
    「…名前、月奈ちゃんやっけ?新人さんなん??」 あたしがしどろもどろしていたら、良太が聞いてきた。

    2007-05-31 22:45:00
  • 35:

    ◆qrlDpe3WiM

    『あ…えっと、入って二ヵ月くらい…です!』   「そうなんやー。俺こういう店初めてやねん。やからそんな緊張せんでも大丈夫やでー。…俺もバリバリの新人やから(笑)」    そう言うと、良太は笑顔で"何でも好きなもん飲みー"と言ってくれた。       
    良太の年は、あたしの一つ上の21歳。市内で建築の仕事をしているらしい。  一見クールなのに笑った時に見える八重歯が、その笑顔にギャップを作るのが印象的だった。

    2007-05-31 22:54:00
  • 36:

    ◆qrlDpe3WiM

    その日は花梨のリードのおかげもあり、あたし達は二人とも場内指名を貰える事ができた。       帰り際、良太に携帯番号を聞かれたので交換した。 「今日はありがとう!初体験やけど、めっちゃ面白かったわ。月奈ちゃんのおかげやな!(笑)」     『あたしこそありがとー!めっちゃ楽しかったぁ!』「また遊びに来るわー!」 良太は、笑顔で手を振りながら帰っていった。       
    普通のお客さんと、普通のホステス。後にも先にも、その関係は変わる事はない。そう思っていた。 
     
    少なくともあたしの中では。

    2007-05-31 23:14:00
  • 37:

    ◆qrlDpe3WiM

    待機中に携帯が震えた。 見てみると、良太から早速メールが来ていた。   【今日はありがとー!月奈ちゃん気に入った!(笑) また翔と顔見に行くわ☆】素直に嬉しい内容だった。【ありがとう☆あたしも、楽しかったよー!また話せたらいいな(*^_^*)】  送信――‥  。        
    携帯を閉じてボーっとしていると、事務所に花梨が入ってきた。
    「月奈〜お疲れっ!なんか良太えらい月奈の事気に入ってるみたいやでぇ(笑)」花梨は、冷やかしの目で嬉しそうに言ってくる。  『えー…花梨こそ、翔くんといい感じやったやん!』花梨は、"なんでやねんー(笑)"と言いながら携帯でメールチェックを始めた。     
    いい感じも何も、お客さんとして返って来てくれたらいいけど。きっと、花梨もそう思ってるだろうけど。

    2007-05-31 23:31:00
  • 38:

    ◆qrlDpe3WiM

    ガラッ――。 
    突然開いた事務所のドア。「おー、おはよーさん。」 中に入ってきたのは、入店当日以来会っていなかった代表の姿…。      『おはようございます!』とりあえず挨拶をした。 やっぱり、この人のオーラはすごい。若さの中にも、威厳がある。      「あれ?月奈かぁー?久しぶりやなー。最近、頑張ってるみたいやなぁ!拓美からちゃんと聞いてるで。」『いえ…まだ全然!』  「お前には期待してるから頑張れよ。」
    代表は笑顔で、あたしの頭もポンポンとした。   久しぶりに見た、この人の笑顔。やっぱりどこか安心する―…。           
    「あれ、花梨?お前、今日出勤やったっけ?」   携帯をひたすらいじっている花梨に、代表が声をかけた。

    2007-06-01 00:22:00
  • 39:

    ◆qrlDpe3WiM

    「……出勤ですよ。」   花梨は、携帯から目を逸らさずに言う。よほど大事なメールなのだろう。   「…そっか。まぁ、あんま無理すんなよ。」    代表は優しく言い、花梨の肩に手を置いた。        
    今まであまり店に顔を出す事がなかった代表は、最近になり頻繁にお店に来るようになった。あたしは、顔を見るたびに"頑張ってるか?"とか、"調子どうや?"など、些細な気を配ってくれる代表が好きだった。      
    あくまで上司としてだけど。

    2007-06-01 07:07:00
  • 40:

    ◆qrlDpe3WiM

    《なぁ花梨…もしもな、 好きな人と親友が二人とも病気で治す薬が一個しかないとするやんッ!?》
    《不吉な話やな〜(笑)》 《花梨やったら…どっちを助ける!?》
    《…あたし?あたしやったら―……》            
    なぁ花梨、あたし今なら 間違いなく答えれるねん。   
    あなたが答えたあの意味を今なら痛い程理解できる。

    2007-06-01 07:16:00
  • 41:

    ◆qrlDpe3WiM



    2007-06-01 07:17:00
  • 42:

    ◆qrlDpe3WiM

    「月奈ぁー聞いてやー!今日職場の親方がなぁ…泣」あれからというもの、良太は週1ペースで通ってくれるようになった。    「こいつ今日会ってからこればっかり…(笑)月奈ちゃん慰めたってやー。」  また、翔も花梨の事を気に入ったらしく必ず一緒に来てくれていた。     『もー良太…男やったらしっかりしなさーい!(笑)』良太は、年上とは思えない程の弟キャラ。見た目クールやのになぁ…。でも、なんだか憎めない。    「良ちゃん可愛いなー(笑)」年下の花梨にまで、こんな事を言われている。      
    良太と翔が来るのは、たいてい仕事が休みの前の日の金曜か土曜が多かった。 オープンから来て、ラストに近い時間までいてくれる。年が近いこともあり話していて楽しかったし、あたしと花梨にとったら本当にいいお客さんだった。

    2007-06-01 07:27:00
  • 43:

    ◆qrlDpe3WiM

    「月奈ぁ…今度マジデートしてやぁ。」      少しお酒の入った良太が、言う。茶色い髪の毛が、少しあたしの肩に触れる。 「良ちゃんが月奈口説いてるー。。(笑)」     花梨が、小声でそれを冷やかす。
    「こいつ、月奈ちゃんに惚れてるから!職場でもずっと言ってるもん。」   翔は、笑いながら手に持った焼酎に口をつけた。     
    『…良太ぁー大丈夫?今日酔ってるん??』    あたしは肩にもたれかかる良太に、優しく聞く。

    2007-06-01 07:35:00
  • 44:

    ◆qrlDpe3WiM

    「…酔ってないわー。アホ」すねたように、目を閉じながら答える良太。    誰がアホやねん、とか内心思いながらあたしは良太をそのまま肩に寝かせてあげた―…。    


    営業終了後、拓美があたしの元にやってきた。   「月奈っちー、シフト出して。シフトー!」    『…たまごっちみたいな言い方やめてよ。』    今日は週末。一週間置きに出すシフトを、あたしはまだ提出していなかった。

    2007-06-01 07:42:00
  • 45:

    ◆qrlDpe3WiM

    『シフトかー…。花梨は?何曜日休みなん!?』  やっぱり出勤するなら、花梨がいる曜日がいい。  「ったく…お前らほんま2個1やなぁー(笑)まぁ仲良くなるのはいい事やけど」拓美は、少し呆れたように笑う。 
    『2個1っていい響き!花梨やってあたしがおる方がいいに決まってる!(笑)』なんて、自信過剰な発言をしてみる。だけど、そのくらいあたしと花梨は仲が良かった。"こんなに仲良くなるなんてなー"なんて、拓美は驚いていたけれど。   
    花梨とは、初めて会ったあの日からフィーリングが合っていたのかも知れない。きっと花梨も、そう思っていてくれていたと思う。

    2007-06-01 07:50:00
  • 46:

    ◆qrlDpe3WiM

    「ヤバイ!めっちゃ面白いわー!ってか、仕事終わりにまたアルコールて(笑)」『間違いないね!(笑)』 冷蔵庫に冷やしてあったビールを飲みながら…店の愚痴や、お客さんの話題など、あたし達は他愛もない話をして盛り上がっていた。  
    その時、♪〜♪〜♪花梨の携帯が鳴った。     画面を見てから、少し考えたような顔をして    「…月奈、ごめん!ちょっと電話してくるわ!」  と、花梨は外に出ていった。 
    彼氏かな?なんとなく、そう思ったけど特に気にせずあたしは残りのビールを飲みながら、一人でテレビを見ることにした。

    2007-06-04 05:57:00
  • 47:

    ◆qrlDpe3WiM

    20分程経っても、花梨は戻って来ない。12月の朝方ということもあって、外はきっと寒いだろう……。  あたしは少しお腹がすいたのもあり家の目の前のコンビニに行くついでに、花梨に部屋の中で電話するように言おうと思った。     
    ガチャ――。 
    玄関のドアを開けた瞬間だった。 
    「…んたにッ!!関係ないやんッ……!ウッ…もう終わったんや…ろッ…!?もうほっといてや…ぁぁ…」  あたしは、花梨の声に驚いて立ち尽くしてしまった。

    2007-06-04 06:05:00
  • 48:

    ◆qrlDpe3WiM

    『か…花梨?どうしたん?大丈夫…!?』     目に涙をいっぱい溜めて声を荒げる花梨に、声をかけた。一体何ごとなん…  「……も…う連絡してこんとって…じゃあ……」  電話を切った花梨が、目の前で呆然とするあたしに 「ごめん…ねッ」と謝る。その瞬間、苦笑いした頬に涙が零れ落ちた。     『一体どうしたん…??』    

    花梨の、涙を初めて見た日。強くて、いつもしっかりしてて、そのちっちゃい体のどこにそんなパワーが?って思うくらいいつも明るかった…あんたの。     
    初めての弱い姿やった―。

    2007-06-04 06:18:00
  • 49:

    名無しさん

    ?

    2007-06-04 22:32:00
  • 50:

    ◆qrlDpe3WiM

    花梨に話を聞くと、前にいると言っていた彼氏と別れる別れないでモメているとのことだった。     そういえば、"あんまりうまくいってない"と、以前居酒屋で言ってたし…。    
    部屋に戻ってからも、携帯は鳴り続けていて真っ赤な目をした花梨はその電源を切っていた。      「月奈、ほんまにごめんなー(笑)…気にしんとってなッッ!!さて続きしよッ!」そう言って、花梨はテーブルの上にあるビールを勢い良く飲む。       『…うん。ほんまに大丈夫なん!?……何かあるなら何でも言ってなぁ?』  あたしも、同じようにビールに口をつける。    「……」
    少しの沈黙のあと"…ありがとう!!"花梨はそう言って笑った。          

    なぁ、花梨。あの時あんたが話してくれたら。   …ううん、あたしがちゃんと聞いていたら。    あんたは今も、あたしの隣で笑ってくれた―?

    2007-06-11 09:39:00
  • 51:

    ◆qrlDpe3WiM

    その細い肩で抱えてた辛さに、あたしは気付いてあげれなくて…。今でも、後悔してるねんで。          
    花梨、――そこからはどんな景色が見える?    あんたが望んでた幸せは、ちゃんと見つかった?       

    2007-06-11 09:45:00
  • 52:

    ◆qrlDpe3WiM



    2007-06-11 09:45:00
  • 53:

    ?◆78w2Zw203Q

    楽しみ?

    2007-06-11 10:17:00
  • 54:

    名無しさん

    ??あげ??

    2007-06-11 11:14:00
  • 55:

    ◆qrlDpe3WiM

    ありがとうございます。 頑張って完結させます☆

    2007-06-12 00:06:00
  • 56:

    ◆qrlDpe3WiM

    次の日お店に出勤すると、花梨はまだ来ていなかった。『おはよーございます』「あ、月奈ちゃんおはよー!」最近じゃ、女の子とのコミュニケーションもうまく取れるようになってきた。    
    「おっ、月奈おはよ!」  タイムカードを押しにリストへ向かうと拓美がいた。『おはよー。花梨は!?』「あー…あいつ今日休みやで。体調悪いかなんかで」

    昨日のこともあったから、あたしは急に心配になった。花梨が当欠なんて珍しいし…。    
    花梨にメールしてみよ。 あたしは更衣室に戻って、メールを打つことにした。

    2007-06-12 00:14:00
  • 57:

    ◆qrlDpe3WiM

    メールはすぐに返ってきた。風邪をひいて熱があるらしかった。昨日、外で電話してたからやろなぁ…。 とりあえず、"お大事に!安静にしとかないとアカンよ☆"―と、だけ返信してあたしはドレスに着替えることにした。

    今日もそこそこに忙しく、花梨のいない営業時間はやたらと長く感じた…。  『お疲れ様でしたー』  さっさと着替えて、早々に送りの車に向かう。   「…あ、月奈ちょっと待ってぇー!」       『えー?何?』     リストから、拓美に呼び止められた。       「代表が話あるみたいやから、ちょっとだけ待っといてくれん?」      代表が?なんの話やろ…   

    あたしは、不思議に思いながらも拓美に言われた通りに更衣室で待機することにした。

    2007-06-12 00:28:00
  • 58:

    ◆qrlDpe3WiM

    ガラッ―。誰もいなくなった更衣室に、しばらくしてようやく代表が入って来た。「おーお疲れさん。待ってもらってごめんな。」 相変わらずスーツが似合っていて、髪型もバッチリ決まっている。いつ見ても…本当に粗がない人だ。    
    『いえ、お疲れ様です。』向かい合わせのソファーに腰を掛けると、代表はタバコを取り出しパーラメントに火を付けた。     「…で、話やねんけどな。突然やねんけど、月奈撮影とか興味ない?」    『撮影です…か?』   なんの撮影なんやろう…。無知のあたしには、さっぱり分からなかった。   「いや、簡潔に言うとな。顔出しするってことやな」話を聞くと、この業界専門の雑誌と、ホームページにお店のスタッフとして写真を掲載しないかとのことだった。 

    顔出しなんか…。恥ずかしいよりも何も、あたしにはそんな自信がなかった。 代表も、それを見抜いたのだろう。        「月奈自身の、自信にも繋がると思うで。実際、顔出しはこの業界では確実にプラスになるからなー。」 灰皿に灰を落としながら、笑顔でそう言った。   「あ、ちなみに今回の撮影は"花梨"と"月奈"二人の予定やから。」      あたしは、花梨の名前に一瞬反応してしまった。  『…花梨も一緒なんですか???』        「一応、な。その予定やで。花梨も復帰記念を兼ねて、また名前売らなあかんからなー。」       花梨と一緒なら―。不安も緊張も取り除けなかったけど、花梨がいるというだけで心強かった。     「まぁ、考えといてや。来週までに答え聞かせて。俺自身も、月奈には期待してるから。」       代表が、あたしの目を見て言った。

    2007-06-12 01:40:00
  • 59:

    ◆qrlDpe3WiM

    『考えときます…。』  この人の目には、力がある。
    あの日、拓美に連れられてきたこの【Candle】で初めて逢ったあの瞬間。あたしは、この目についていきたいと思った。この人と同じ世界を見てみたい。   あの瞬間、あたしは"月奈"になると決めたんだ。     
    「…了解、頑張れよ!あ、月奈、送るから荷物持って下おいで。」    

    お店で会うたびに、声をかけてくれてた代表。あたしは、彼のこの"頑張れよ"って 言葉が好きだった。

    2007-06-12 01:51:00
  • 60:

    ◆qrlDpe3WiM

    《月…奈…あたしな……》《……分かって…る》  《月奈ッ…聞いて?最後のお願いやか……ら。》  《聞きたくない…あんたの話なんか…聞きたくない》   

    花梨、あたしな…    あたし…ほんとは……     

    2007-06-12 01:59:00
  • 61:

    ◆qrlDpe3WiM

    荷物を持って、代表の車に向かった。どこに乗るべきか迷っていたら、少し開いた窓から
    「月奈?何してるん?はよ前乗りよ。」      と言われたから、あたしは慌てて助手席に乗った。 「…家どこやっけ?俺、方向音痴やからナビ頼むで」代表はそう言いながら、 流れていたステレオのボリュームを少し下げる。    
    …緊張していた。いつもお店でしか話すことなんてなかったから。狭い車内で彼の隣にいることが、なんかものすごく不思議だった。  
    「えらい静かやん。今日は疲れた?」       ふいに声をかけられて、少しだけ焦る。      『…いえ、まぁ少し。』 「なんか緊張してへん?拓美とはいっつもはしゃいでんのに(笑)」      そんなの、拓美と同じように話せるわけないやん…。まぁ、拓美も上司には変わりないんやけど。        
    なんだか、違う。この人にはうまく自分を出せない。

    2007-06-12 02:10:00
  • 62:

    ◆qrlDpe3WiM

    「月奈って、本名確か雪、やんな?漢字珍しくない?なんで"雪"なん?」   『あ…なんか、生まれた時はあたし色が白くてひ弱だったらしいです。今、かなり健康的だけど(笑)で…冬産まれだから"雪"みたいな。単純な親なんで。』  漢字を、ううん、一回しか言ったことのない名前を覚えていてくれたことが。 素直に嬉しかった。   「…ふーん。今も、色白いやん。細っこいし。ちゃんと食わなアカンよ。」  代表は優しく笑って、あたしの頭に手を置いた。     

    ほら、また。全てを見透かしているようなその目に、あたしは動けなくなる。 代表のことは上司として、尊敬してる。上司として、信頼してるんだ―…。

    2007-06-12 08:38:00
  • 63:

    ◆qrlDpe3WiM

    「俺の名前、知ってる?」 『あ…谷上ですよね?』 「うん、下の名前は?」  『えっと…確か…』   "代表の谷上 蓮です"  『あ、そうや…レンさん!』あたしも人のこと言えない記憶力かもしれない。  まぁ、拓美の名前は全く覚えていなかったけど…。 「すごいやん。月奈って記憶力抜群やな〜。なんか嬉しいわ。合ってるし!」 代表は、時々子供みたいに笑う。         『"レン"って、どんな漢字なんですか?』  「……漢字は、蓮の花の蓮やで。分かる?」    『はい、分かります。』    
    ―少しだけ淋しそうな表情を見せたような気がした代表の目に、あたしは気付いていた。きっと、その意味は深いんだろう。だけど、聞かない。聞けるわけがない。彼は上司で、あたしはただの従業員だから。     
    『…綺麗な名前ですね!』あたしがそう言うと、彼はまたいつもの優しい目に戻って 
    「雪、もな。綺麗やで。」 と、言った。

    2007-06-12 08:55:00
  • 64:

    ◆qrlDpe3WiM

    「あ、雪ん家この辺であってるん?」 
    なんだか、変な感じがした。"月奈"の生みの親である代表に、"雪"と本名を呼ばれる。…なんだか、少しくすぐったい。      『はい、合ってます。あ、ここでいいです…ありがとうございました!』   あたしは荷物を手に持ち、会釈をして車のドアに手を掛けた。        「月奈、ちょっと待って。携帯教えといてくれへん?一応、俺も知っときたいから。」         それは、もちろん"店の経営者"として。当たり前だけど、"知っときたいから"どこかで舞い上がってしまった自分に少し恥ずかしくなった。      
    代表と番号を交換して、あたしは足早に車を降りた。   
    家に帰り部屋に戻ると一気に疲れが押し寄せてくる。今日は、ほんま疲れた…。早く寝ようと思い、すぐにお風呂に入ることにした。

    2007-06-12 09:07:00
  • 65:

    ◆qrlDpe3WiM

    お風呂から上がると、花梨からメールが来ていた。 【受信:花梨 月奈、撮影行くってほんま…??】 行くと決めたわけじゃないけど、花梨が一緒ならやってみてもいいと思ってた。【花梨が行くなら、行こうかなって思ってるよ☆】 メールを送信した後、花梨からは返事がなかったけどしばらくしてから    【わかった…月奈一緒なら考えとく(^-^)】    と、返って来た。  

    あたしは、携帯を枕元に置いて眠りに就くことにした。今日あったことを、色々考えながら。      "雪、も綺麗やで。"   代表の言葉を思い出しながら―…、ゆっくりと目を閉じた。

    2007-06-13 00:41:00
  • 66:

    名無しさん

    ????????

    2007-07-03 08:15:00
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