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名もない隣人

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  • 1:

    滝川由貴子

    東京六本木ーーー

    ネオンの輝きが増す22:00頃滝川由貴子は確かにそこにいた。

    2007-02-12 22:28:00
  • 2:

    滝川由貴子

    右手にはシャネルのハンドバックを握りしめている。
    歩き疲れたのか足首の痛みが増していた。
    ーー滝川由貴子ーー

    頭にはそれだけがハッキリ浮かんでいる。

    2007-02-12 22:32:00
  • 3:

    滝川由貴子

    その名前は私なのだろうか?
    もしかすると誰か他人の名かもしれない。
    しかし今わかることは滝川由貴子と言う名だけだった。
    歩き続けるには限界にきていた為、その先の路地裏に面した所にひっそり立つ少し古びた旅館にチェックインすることにした。

    2007-02-12 22:38:00
  • 4:

    滝川由貴子

    名前の欄に滝川由貴子と記し、適当な番号を記入する。
    古い旅館だからか記入も少なかった。
    ギシギシと進む度に音を立てる渡り廊下をゆっくり進む。
    人の気の少ないこんな路地裏の旅館を迷わず進んできたのは、きっと今までに何度か足を運んでいたのかもしれないと思った。

    2007-02-12 22:43:00
  • 5:

    滝川由貴子

    フスマを閉めて、畳に座り込む。
    足は予想以上に腫れていた。
    財布を見れば免許証などが入ってるかもしれないとシャネルのバックを開ける。
    と財布どころか、太い札の束がざっと数えて300万ほど目に入った。
    「何なの?!」

    2007-02-12 22:50:00
  • 6:

    滝川由貴子

    つま先から全身に、一気に寒気が体を襲う。
    一体、数時間前までに何があったのだろうか。
    何度考えても思い出せない。
    人は度を超える恐怖を味わうと何もかも忘れてしまうと聞いたことがある。
    思い出してはいけないような気もしていた。

    2007-02-12 22:55:00
  • 7:

    滝川由貴子

    身なりからして夜の商売をしていたのだろうと悟った。
    歳は26、7といったところだろうか。
    目の下にくっきりできたクマをなぞりながら、ゆっくりと瞼を閉じる。
    何か危ない事に足をつっこんでしまったのではないだろうか。

    2007-02-12 23:00:00
  • 8:

    滝川由貴子

    その日は何かにとりつかれたかのように、眠りについた。
    そうとう疲れていたのだろう。

    旅館の女将さんらしき女性が部屋をノックして呼びかけてくる声で目が覚めた。
    「チェックアウトのお時間になりましたが。」

    2007-02-16 10:59:00
  • 9:

    滝川由貴子

    「すぐにでます!」
    寝ぼけながらも返事をし、軽くメークを済ませた。
    ーこの街を出ようー

    由貴子は昨夜のうちにそう決めていた。

    2007-02-16 11:03:00
  • 10:

    滝川由貴子

    この街を出て行くあてなどない。
    しかしこの街にはきっと私を知る者が誰かしら必ずいて、今この瞬間も私を探しているかもしれない。
    見つかってはいけないような気がした。
    記憶がとんだ今、由貴子は誰も知らない街で一から始めたい。そう考えていた。

    2007-02-16 11:08:00
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