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1:
美桜◆a8LCXFMc7c
以前『銀の鎖』という小説を書かせていただいていた美桜といいます。
新しい小説を書いていきたいと思いますので、よろしければ読んで下さいm(_ _)m2006-08-01 22:40:00 -
2:
美桜◆a8LCXFMc7c
あの日、あなたの腕の中で私は本当の『私』に生まれ変わることができたよ。ねえ、賢二今でもあなたのことを愛しているよ。あなたに出逢えて本当に良かった…
2006-08-01 22:41:00 -
3:
美桜◆a8LCXFMc7c
Episode1 「さっさとテーブルの位置を決めろ!!」「はい!!」私、相沢舞が働くこの一流ホテルの宴会場は客前では華やかな仕事だが、一歩裏に回れば罵声が響く毎日。
2006-08-01 22:42:00 -
4:
美桜◆a8LCXFMc7c
「相沢!グラスとか用意できてんのか!?」「できてます!!」「時間ねえんだからさっさとセッティングさせろ!!」「はい!」
2006-08-01 22:43:00 -
5:
美桜◆a8LCXFMc7c
私は学生でバイトだが、それなりに仕事が認められてバイトの中では筆頭クラスだった。
2006-08-01 22:44:00 -
6:
美桜◆a8LCXFMc7c
たくさんの客たちの結婚式を私は見てきていた。けれど、私にとってこの仕事は結婚に対する夢を持つどころか、結婚という名の『束縛』をたくさん目の当たりにして、歳こそは若いけれど、正直結婚というものに希望を持てなくなっていた。
2006-08-01 22:45:00 -
7:
美桜◆a8LCXFMc7c
結婚どころか付き合う彼氏にすら希望を持てないでいた。
2006-08-01 22:46:00 -
8:
美桜◆a8LCXFMc7c
同い年の男の子たちは考え方が幼く一緒にいてもツマラナイ。大学も後一年で卒業だというのに、就職したくないだの、楽をして金を稼ぎたいだの、とにかく考え方が甘かった。
2006-08-01 22:47:00 -
9:
美桜◆a8LCXFMc7c
その点この職場の上司・先輩たちは『働く男たち』なので、周りの男の子たちよりは頼りがいがある。でも…
2006-08-01 22:48:00 -
10:
美桜◆a8LCXFMc7c
「相沢!マイクの用意はできたのか!?新郎新婦のお迎えは!?」少し気を抜いていると途端に怒鳴られた。怒鳴った相手を見る。…やっぱり。
2006-08-01 22:49:00 -
11:
美桜◆a8LCXFMc7c
「マイクの用意はできてます。お迎えは今から行きます!!」咄嗟に私はそう怒鳴り返した。私に怒鳴ってきた男は遠山賢二。このホテルの宴会サービス課のチーフだ。
2006-08-01 22:51:00 -
12:
美桜◆a8LCXFMc7c
180cmを越える身長に、細身の体つき。加えて俳優といっても通用しそうな整った顔立ち。どこからどうみても『いい男』なのだが、仕事に対して本当に厳しく仕事ができない人間は毎日のように泣かされている。
2006-08-01 22:52:00 -
13:
美桜◆a8LCXFMc7c
遠山のせいで辞めたスタッフが何人いるかわからないくらいだ。そして何故か私には必要以上にあたりが厳しい。
2006-08-01 22:54:00 -
14:
美桜◆a8LCXFMc7c
もうこのホテルに2年以上勤めている私は今さら仕事に関して怒られなければいけないようなことなど、ほとんどないといっていいのだが、この男と同じ宴席についた日には毎回のように何かとどやされる。
2006-08-01 22:55:00 -
15:
美桜◆a8LCXFMc7c
元々仕事に対して厳しい男だが、私は必要以上に怒られているような気がする…私は腹立たしい気持ちを抑えながらチャペルへ誘導するために新郎新婦を迎えに行った。
2006-08-01 22:56:00 -
16:
美桜◆a8LCXFMc7c
用意をすっかり整えた新郎新婦。この時ばかりは日頃見栄えのしない人たちでも華やかで格好良く見える。
2006-08-01 22:57:00 -
17:
美桜◆a8LCXFMc7c
そして二人は顔を上げ目を見交わす。初々しい表情だ。だがこの初々しさがいつまで続くのだろうと、新郎新婦を見慣れた私は心の中で意地悪くそう思う。
2006-08-01 23:00:00 -
18:
美桜◆a8LCXFMc7c
このホテルではここで披露宴を上げたカップルが1年目を迎えるころ、ホテルのサービスとしてホテルへ招待をしている。
2006-08-01 23:01:00 -
19:
美桜◆a8LCXFMc7c
そこで見る『新婚夫婦』の大半が生活に疲れているのか、ドレスを着ていた頃の初々しさもなく、まるで長年連れ添った夫婦のように落ち着いているどころか、いっそ余所余所しくあるほどだ。
2006-08-01 23:03:00 -
20:
美桜◆a8LCXFMc7c
そんなことを考えながら結婚式の説明を受けている新郎新婦を眺めていた。私自身は少し前に彼氏と別れたばかりだった。
2006-08-01 23:05:00 -
21:
美桜◆a8LCXFMc7c
付き合い始めた頃は大学を卒業したら建築士になりたい、オレ達の住む家をオレが建てる、などといっていたのだが、卒業を間近に迎え世間の厳しさを痛感させられたのか、『とりあえず就職ができれば……』というようになっていた。
2006-08-01 23:06:00 -
22:
美桜◆a8LCXFMc7c
別に夢を抱いて生きろ、とまでは言わないが、正直何が何でも夢を叶えたいという姿勢も見えず、彼自身がとてもつまらない人間のように見えて別れたのだ。
2006-08-01 23:08:00 -
23:
美桜◆a8LCXFMc7c
今回は比較的長く持ったほうだと思う。一年半。私にとってこの一年半彼だけ、というわけはなかったのだが、それでも私にすれば本当に長く付き合ったものだ。
2006-08-01 23:09:00 -
24:
美桜◆a8LCXFMc7c
そうして自分自身のことを考えてみると、本当に私は冷めていると思う。男を選ぶ基準は『金』『顔』『性格』の順。
2006-08-01 23:11:00 -
25:
美桜◆a8LCXFMc7c
いくら顔が良くてもフリーターだったり、新卒のサラリーマンだったりすると、とたんに『男』として見られなくなる。
2006-08-01 23:12:00 -
26:
美桜◆a8LCXFMc7c
この間別れた元カレを選んだ理由は学生ではあったが実家がお金持ち、という理由でいわば先物買いだ。
2006-08-01 23:13:00 -
27:
美桜◆a8LCXFMc7c
学校にしろバイト先にしろ本当につまらない人間が多かった。大学の友人たちの会話の内容は『男』のことか、『ブランド』のことのみ。
2006-08-01 23:15:00 -
28:
美桜◆a8LCXFMc7c
誰の彼氏が男前だの、あのブランドの新作はイケテナイ、などクダラナイ話ばかり。
2006-08-01 23:16:00 -
29:
美桜◆a8LCXFMc7c
そんな中で私はいつも一歩下がった位置から冷めた目で会話を聞いている。
2006-08-01 23:18:00 -
30:
美桜◆a8LCXFMc7c
バイト先の人間はそれに輪をかけてつまらない。男の先輩たちは私の顔を見ると『合コンしよう』というし、女の先輩たちはそんな私の様子を見て『ねたみ』仕事できつく当たる。
2006-08-01 23:21:00 -
31:
美桜◆a8LCXFMc7c
いい歳をして本当にくだらない女たちだと思う。そんなことだから二十代も後半になって彼氏のひとりもおらず、仕事に打ち込むしかないということに何故気付かないのだろう。
2006-08-01 23:23:00 -
32:
美桜◆a8LCXFMc7c
そんな職場で私がバイトを続けている理由といえば、『金』しかなかった。
2006-08-01 23:24:00 -
33:
美桜◆a8LCXFMc7c
世間では800円や900円が時給の相場だったが、このホテルへは派遣会社を通してきているので、1000円以上の時給があった。だからバイトとはいえ学生の身で月に20万以上稼ぐことができていた。こんなオイシイ仕事はそうそうないと思う。
2006-08-01 23:25:00 -
34:
美桜◆a8LCXFMc7c
そうこうしているうちにチャペルでの結婚式が始まった。式が始まればしばらく私の出番はない。
2006-08-01 23:26:00 -
35:
美桜◆a8LCXFMc7c
今のうちに休憩にいこうと思い、ひとまずこの後この新郎新婦が披露宴を上げる宴会場へスタンバイの進行状況を見に戻った。
2006-08-01 23:27:00 -
36:
美桜◆a8LCXFMc7c
どうやら私が新郎新婦をチャペルへ誘導している間に、残ったスタッフで宴会場の準備を整えてしまったようで、スタッフは誰もいなかった。
2006-08-01 23:29:00 -
37:
美桜◆a8LCXFMc7c
皆も今の間に休憩を取っているのだろう。休憩を取ろうと事務所へ行くとそこには遠山が一人でいた。これからの披露宴の進行表に目を通しているようだ。
2006-08-01 23:30:00 -
38:
美桜◆a8LCXFMc7c
(最悪……)そう思いながらも私は、「お疲れ様です。無事式は始まりましたので、今のうちに休憩に行ってきます」と遠山の方は見ずに、タイムカードを押しながら報告をした。
2006-08-01 23:32:00 -
39:
美桜◆a8LCXFMc7c
「…ん」遠山は進行表に真剣に見入っているようで、私への返事も適当だった。遠山と話をしたくない私は逃げるように事務所を出、休憩室へ向おうとした。
2006-08-01 23:33:00 -
40:
美桜◆a8LCXFMc7c
「あ、相沢!」呼び止められる。また何か仕事を言いつけられるのだろうか。「…はい」仕方なく私は振り向いた。早くタバコを吸いたいのだが、遠山はチーフだ。変に逆らうわけにもいかない。
2006-08-01 23:34:00 -
41:
美桜◆a8LCXFMc7c
「なんでしょうか?」「コーヒー買ってきて」と500円を私に差し出す。「お前の分も買っていいから」「…わかりました」
2006-08-01 23:36:00 -
42:
美桜◆a8LCXFMc7c
500円を握り締めて私は遠山を後にした。(コーヒーくらい自分で買いに行けっつーの!)そう思いながら休憩室前の自販機へ向う。
2006-08-01 23:37:00 -
43:
美桜◆a8LCXFMc7c
自販機の前に立ち、私はふと(そういえばどのコーヒーなんだろう…)といくつかあるコーヒーを眺めながら思った。
2006-08-01 23:39:00 -
44:
美桜◆a8LCXFMc7c
遠山のことだから自分の趣味ではないコーヒーを買って戻るとまた何か一言いわれそうだ。だがわざわざ聞きに戻るのも面倒だし……(これでいいや)500円玉を入れ私は自分がいつも飲んでいるコーヒーを買った。
2006-08-01 23:41:00 -
45:
美桜◆a8LCXFMc7c
文句が言いたければ言えばいい。きちんと銘柄を指定しなかった遠山が悪いのだから。
2006-08-01 23:42:00 -
46:
美桜◆a8LCXFMc7c
残ったおつりで自分の分のコーヒーも買う。休憩室でタバコを吸って行こうかと思ったが、遠山に『遅い』と言われるのも癪にさわるので、そのまま事務所へ引き返す。
2006-08-01 23:43:00 -
47:
美桜◆a8LCXFMc7c
事務所へ戻ると遠山はパソコンに向っていた。何を調べているのだろうと思い画面を覗くと、一ヵ月先の披露宴のタイムスケジュールの確認をしてるところだった。本当にこの男は仕事だけはできるのだが……
2006-08-01 23:45:00 -
48:
美桜◆a8LCXFMc7c
「お待たせしました」と声をかけると遠山はパソコンを使っていた手を止め、「悪いな」といってコーヒーとおつりを受け取った。その言葉が私には少し意外だった。
2006-08-01 23:46:00 -
49:
美桜◆a8LCXFMc7c
今まで遠山が私にかける言葉といえば、きつい言葉ばかりだった。だからたかがコーヒーを買ってきただけのことで礼を言われるとは思っていなかったのだが……
2006-08-01 23:47:00 -
50:
美桜◆a8LCXFMc7c
「てか、お前休憩は?」と更に私を気遣う言葉が続いた時には本当にびっくりした。「!!…コーヒーお待たせしちゃ悪いかなと思いまして…」
2006-08-01 23:48:00 -
51:
美桜◆a8LCXFMc7c
「なんだ。お前が休憩から帰ってくるときで良かったのに。ま、そこに座って一服でもすれば?」と遠山は空いてる椅子を示した。
2006-08-01 23:49:00 -
52:
美桜◆a8LCXFMc7c
「…はい」驚きながらも返事をし、遠山が示した椅子に腰をおろしタバコに火をつける。この男がこんなことを言うなんて私は予想もしていなかったのだ。
2006-08-01 23:50:00 -
53:
美桜◆a8LCXFMc7c
「お、お前よく俺の好みがわかったなぁ」と遠山は嬉しそうに言った。「?何がですか?」「コレ」と言って遠山は私が買ってきたコーヒーを軽く持ち上げて見せた。
2006-08-01 23:51:00 -
54:
美桜◆a8LCXFMc7c
「お前に買いに行かせてから、どのコーヒーか指定するの忘れたことに気付いてな。飲めないやつだったらどうしようと思ってたところだったんだ」
「…飲めないコーヒーなんかあるんですか?」2006-08-01 23:53:00 -
55:
美桜◆a8LCXFMc7c
「カフェオレと、ブラックのコーヒー」「…意外ですね。ブラックの方がいいかな、とも思ったんですけど」「飲めないわけじゃないけど、好きでもないな」そう言いながら遠山は缶を開けコーヒーを飲む。
2006-08-01 23:55:00 -
56:
美桜◆a8LCXFMc7c
「何でこれってわかった?」「わかったわけじゃなくて…私もそれしか飲まないから…」「何だ。気が合うな」そう言って笑った遠山の顔は今まで見たこともない優しい顔だった。
2006-08-01 23:56:00 -
57:
美桜◆a8LCXFMc7c
「…意外」思わず私はそう口にしてしまっていた。「何が?」遠山は不思議そうな顔で私に尋ねた。
2006-08-01 23:57:00 -
58:
美桜◆a8LCXFMc7c
「…いえ、遠山さんいつも私にはキツイことしか言わなかったのでてっきり嫌われているのかと思ってました…」と私が素直にそう言うと遠山は、「え?俺お前のことはずいぶん認めてるつもりだったんだけど」
2006-08-01 23:58:00 -
59:
美桜◆a8LCXFMc7c
「え!?」「だって仕事できないヤツにきついこと言ったところで泣いて終わり、だろ?その点お前はどれだけきついこと言ってもきちんと仕事するし、言ったこと以上に仕事こなしてくれるしな」「……」
2006-08-01 23:59:00 -
60:
美桜◆a8LCXFMc7c
「ま、これからもお前にはきついこと言うだろうけど、それは俺の期待ってことで頑張ってくれ」そう言って遠山は私の頭をポンと叩き、事務所から出て行ってしまった。
2006-08-02 00:00:00 -
61:
美桜◆a8LCXFMc7c
(何だったの?今の……)予想もしなかった展開に私は茫然としていた。遠山が私の仕事を認めてくれていた?あの遠山が……それにあんなに優しい顔が出来るなんて思ってもみなかった。
2006-08-02 00:01:00 -
62:
美桜◆a8LCXFMc7c
私は気持ちを落ち着けるために新しいタバコに火をつける。一口吸って深呼吸をするようにゆっくりと煙を吐き出した。
2006-08-02 00:02:00 -
63:
美桜◆a8LCXFMc7c
少し落ち着いて考えているうちに私は何だか嬉しくなっていた。確かに私は遠山を敬遠していた。
2006-08-02 00:04:00 -
64:
美桜◆a8LCXFMc7c
だが『仕事』という一面で見れば遠山ほど仕事ができる人間はいないとも思っていた。尊敬している部分もあった。
2006-08-02 00:05:00 -
65:
美桜◆a8LCXFMc7c
その遠山が自分のことを認めてくれていたなんて……私にとって『仕事ができる』と言われるのは男に可愛いと誉められるより嬉しいことだった。
2006-08-02 00:06:00 -
66:
美桜◆a8LCXFMc7c
この日から私は遠山のことをもっと知ってみたい、と思うようになった。そして私たちはこの日から急速に距離を縮めることになった……
2006-08-02 00:07:00 -
67:
美桜◆a8LCXFMc7c
今日の更新はここまでになります。お付き合いいただいてありがとうございました。読んで下さっている方がいれば感想是非お待ちしております。
2006-08-02 00:08:00 -
68:
名無しさん
すごい読み易くて、一気に読んでしまいました?是非完結して下さいね?
2006-08-02 00:17:00 -
70:
美桜◆a8LCXFMc7c
69番さんレスありがとうございます。
70番さんたくさんひよこを孵化させてくれてありがとうございます。
今日の分の更新をさせていただきます。2006-08-02 21:08:00 -
71:
美桜◆a8LCXFMc7c
Episode2 「お疲れ様です!!」「お疲れ様」スタンバイを終え、後輩たちが私に挨拶をし、先にあがっていった。
2006-08-02 21:09:00 -
72:
美桜◆a8LCXFMc7c
私はそれを見送り、やり残しがないか宴会場をもう一度チェックしに行った。ぐるりと宴会場を見渡す。特にやり残しはなさそうだ。
2006-08-02 21:10:00 -
73:
美桜◆a8LCXFMc7c
宴会場の電気を消し、私は自分もあがるつもりでタイムカードを押しに行った。事務所に入ると遠山がいた。
2006-08-02 21:11:00 -
74:
美桜◆a8LCXFMc7c
「何だ、お前まだ残ってたのか」「はい。最終チェックしてから帰ろうと思って」「そうか。もう帰れるのか?」「はい」「じゃあ飯でも食って帰るか」
2006-08-02 21:12:00 -
75:
美桜◆a8LCXFMc7c
あのコーヒーの一件から一ヶ月が経っていた。あれから私たちは仕事が終わってからよく一緒に食事をしに行くようになっていた。
2006-08-02 21:13:00 -
76:
美桜◆a8LCXFMc7c
私は大学へはもう週に一度通えばいいくらいだったので、週のほとんどをバイトで過ごすようにしていた。必然的に遠山と仕事をする機会は多くなる。最近ではほぼ毎日のように仕事後遠山と食事をしていた。
2006-08-02 21:14:00 -
77:
美桜◆a8LCXFMc7c
食事といっても、肩の凝るようなフレンチやイタリアンなどではなく、本当に小さな食堂や、遠山が以前からよく通っているうどん屋などごくごく庶民的な店が多かった。
2006-08-02 21:15:00 -
78:
美桜◆a8LCXFMc7c
それも私にとっては新鮮なできごとだった。今まで付き合ってきた男たちとは何かと気取った店に私を連れて行きたがったのだが、遠山は私が『女』であることを気にもせず食事へ連れて行った。
2006-08-02 21:16:00 -
79:
美桜◆a8LCXFMc7c
一緒に時間を過ごすようになり、自然と仕事についての会話なども増えた。仕事に対する遠山の考えはやはり尊敬できるものだった。仕事の話をしている遠山は本当にカッコいいと思う。
2006-08-02 21:17:00 -
80:
美桜◆a8LCXFMc7c
『男』として見てみると、とても可愛らしい一面があることにこの一ケ月で気付いた。いつも職場で見る遠山はどこか女を寄せ付けない雰囲気があり、クールなイメージがあった。
2006-08-02 21:18:00 -
81:
美桜◆a8LCXFMc7c
ところが遠山は意外と寂しがり屋で、酔うと『電話魔』になる。私も実際この一ヵ月の間に酔った遠山に何度か呼び出された。
2006-08-02 21:19:00 -
82:
美桜◆a8LCXFMc7c
呼び出したところで特に何をするわけでもなく、同じ店で酒を飲み遠山を家まで送って帰るだけ。
2006-08-02 21:20:00 -
83:
美桜◆a8LCXFMc7c
それだけなのだが遠山は誰かがそばにいるだけで安心できるらしい。酔うと男女問わず誰かに電話をしては後輩たちを呼び出していた。
2006-08-02 21:21:00 -
84:
美桜◆a8LCXFMc7c
普通に考えるとかなり迷惑な話なのだが、不思議と遠山は後輩たちに懐かれていた。特に男の後輩たちは遠山を心から慕っている。
2006-08-02 21:22:00 -
85:
美桜◆a8LCXFMc7c
遠山に呼び出されるたびに『面倒くさくないですか?』と何人かに聞いてみた。すると全員が『面倒くさいと言えば面倒くさいんだけど、なんかほっとけないんだよな〜』と苦笑しながら言っていた。
2006-08-02 21:23:00 -
86:
美桜◆a8LCXFMc7c
遠山には何か不思議な魅力があるのだろう。もちろん私も遠山の魅力に惹かれている一人だ。
2006-08-02 21:24:00 -
87:
美桜◆a8LCXFMc7c
「相沢どうした?元気がないな」食事をしながら考え事をしていた私は遠山に声をかけられて我に返った。「そう?そんなことないよ」「そっか。なら、いいが」遠山はさして気にする様子もなく前にあったビールを持ち上げ飲んでいる。
2006-08-02 21:25:00 -
88:
美桜◆a8LCXFMc7c
私は今日ささいなことで『お局様』方に文句をつけられ、少し落ち込んでいた。『お局様』方は最近私が遠山とよく一緒にいるのが気に入らないようで、以前にも増して小さなイヤガラセをされるようになっていた。
2006-08-02 21:26:00 -
89:
美桜◆a8LCXFMc7c
今日は仕事が何かと忙しく休憩を取る暇もなかったので、披露宴中スタッフスペースでタバコを吸っていたことで『お局様』の一人に嫌みを言われたのだ。
2006-08-02 21:27:00 -
90:
美桜◆a8LCXFMc7c
『休憩に行く暇も無かったのはわかるけど、少しは場所をわきまえたら?』と…しかしバックスペースは別に禁煙ではなく男性スタッフはよくタバコを吸っているにもかかわらず…だ。
2006-08-02 21:28:00 -
91:
美桜◆a8LCXFMc7c
しかも『遠山さんに可愛がられてるからって調子に乗らないでよね』とまで言われた。別に私自身遠山に可愛がられていることなど誰かに話したことはない。
2006-08-02 21:29:00 -
92:
美桜◆a8LCXFMc7c
そうやって誰かに何かを言われたからといって遠山の名前を出したこともない。彼女たちのしていることはツマラナイねたみなのだ。
2006-08-02 21:30:00 -
93:
美桜◆a8LCXFMc7c
でもわかっていることとはいえ露骨に現されると不愉快極まりない。更にそんなツマラナイことで言い返すのもくだらないので、私は大人しくはしているがストレスだけは溜まってしまう。
2006-08-02 21:31:00 -
94:
美桜◆a8LCXFMc7c
こんなことで遠山に泣き言を言うのも恥ずかしいので私は遠山には何も言わないと決めていた。
2006-08-02 21:33:00 -
95:
美桜◆a8LCXFMc7c
昔からそうなのだが、私は誰かに弱みを見せるのがひどく苦手だった。弱みを見せればつけいられるような気がしていた。
2006-08-02 21:34:00 -
96:
美桜◆a8LCXFMc7c
だから友人に対してでも滅多に泣き言を言ったことがない。誰とでもそんな付き合い方をしてきていたので、周りは私のことを『強い女』だと思っているだろう。
2006-08-02 21:35:00 -
97:
美桜◆a8LCXFMc7c
そう思われることは私のやり方として正解なのだが、時々ふと何もかも打ち明けたくなるときがあった。『私はそんなに強い女じゃない。本当は誰かに支えて欲しい』と。
2006-08-02 21:36:00 -
98:
美桜◆a8LCXFMc7c
だけどそんなことをして、もし誰かが私を甘やかしてくれたとしたら、私はきっと自分ひとりでは立っていられなくなるだろう。
2006-08-02 21:37:00 -
99:
美桜◆a8LCXFMc7c
私は人に甘えたことがない。だからこそ甘えられる人間ができてしまったら簡単に崩れてしまうだろう。それがわかっているから、私は今日まで『強い女』であることを貫き通してきた。
2006-08-02 21:38:00 -
100:
美桜◆a8LCXFMc7c
「相沢?帰るぞ」気が付けば遠山も私も食事を終えていた。どうやら考え事をしながらも、きっちり箸だけは動いていたようだ。「あ、はい」
2006-08-02 21:39:00 -
101:
美桜◆a8LCXFMc7c
会計を済ませ遠山の家へ向う。別に家に寄るわけではないのだが、何となく遠山と食事に行った後は遠山を家まで送り帰るのが常だった。
2006-08-02 21:41:00 -
102:
美桜◆a8LCXFMc7c
遠山は基本的にあまり話さない。だから二人でこうして歩いていてもほとんど無言で歩いているだけ。でも、遠山との間に流れる静かな時間は私にとって唯一安らぎの時間だった。
2006-08-02 21:42:00 -
103:
美桜◆a8LCXFMc7c
ぼおっと下を見ながら歩いていると「相沢!前!」と遠山の声が聞こえ「え?」と顔を上げると目の前に電柱があり、私は思い切り電柱にぶつかっていた。
2006-08-02 21:43:00 -
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美桜◆a8LCXFMc7c
「!!っつぅ!!」私は打った額を押さえ思わずしゃがみこむ。「いったぁ〜」涙目になりながら遠山を見上げると、「お前、コントみたいなことすんなよ」と遠山が苦笑しながら私に手を差し出してくれていた。その手を摑み立ち上がる。
2006-08-02 21:44:00 -
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美桜◆a8LCXFMc7c
「お前って結構天然な」「〜っ。あんま言われたことないけど…」「いや、間違いなく天然だな。電柱に激突するやつなんか初めて見たわ」遠山は腹をかかえんばかりに爆笑している。
2006-08-02 21:45:00 -
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美桜◆a8LCXFMc7c
「どんくさいんだからちゃんと前見て歩けよ?」そう言いながら遠山は私を置いて歩き出した。「見てるもんっ!!」私は遠山の背に向って叫ぶ。
2006-08-02 21:46:00 -
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美桜◆a8LCXFMc7c
「はいはい。って俺コンビニ寄って帰ろ」と目についたコンビニに遠山は入る。仕方なく私も痛む額を押さえながらコンビニに入った。
2006-08-02 21:48:00 -
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美桜◆a8LCXFMc7c
額を押さえながら店内を歩く私を店員は不審そうな顔で見ているので、何となく気まずくなり缶コーヒーだけ買って外で遠山を待つことにした。
2006-08-02 21:49:00 -
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美桜◆a8LCXFMc7c
缶コーヒーを開け、一口飲んだとたん、胃に痛みを覚えた。「いたっ!!」急に来た激痛に堪らずその場に座り込んだ。
2006-08-02 21:51:00 -
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美桜◆a8LCXFMc7c
元々私はストレスが溜まりやすいほうで、ストレスが溜まるとすぐ不眠や胃痛に悩まされる。多分今日の昼間の出来事が自分で感じていた以上にストレスになっていたのだろう。
2006-08-02 21:52:00 -
111:
美桜◆a8LCXFMc7c
さっき打った額の痛みと胃痛の両方とで本当に動くことができない私はその場に座り込んだまま遠山が出てくるのを待った。
2006-08-02 21:54:00 -
112:
美桜◆a8LCXFMc7c
「お待たせ。って、どうした?」私の様子がおかしいのにすぐに気付いた遠山が言う。「や、ちょっとお腹痛くて…しばらく動けそうにないから置いて帰っていいよ」経験上しばらくじっとしていれば痛みが治まるのがわかっていたので、私はそう言った。
2006-08-02 21:55:00 -
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美桜◆a8LCXFMc7c
すると遠山は「ふうん」と言いながら私の横に来て側に止めてあった自転車の荷台に座る。「?先に帰っていいってば。大したことないし」
2006-08-02 21:57:00 -
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美桜◆a8LCXFMc7c
「って言われてもなぁ。普通腹かかえてしゃがみこんでる人間おいては帰れないだろう」と言い買ったばかりのコンビニの袋からコーヒーとタバコを取り出した。
2006-08-02 21:58:00 -
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美桜◆a8LCXFMc7c
私は苦しいときに誰かに側にいてもらった経験があまりない。だからこんなとき何と言えばいいのかよくわからなかったがとりあえず、「ありがとう」とだけ言っておいた。
2006-08-02 22:00:00 -
116:
美桜◆a8LCXFMc7c
「ん」と遠山はこちらを見ずにタバコをふかしながら返事をした。そして何を思ったのか「生理痛?」と尋ねる。
2006-08-02 22:01:00 -
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美桜◆a8LCXFMc7c
「!!違うし!胃痛だよ!」例え生理痛だったとしてもそんなにストレートに聞かれて『はい、そうです』とは言いにくいだろう!?私は声には出さずそう思った。
2006-08-02 22:03:00 -
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美桜◆a8LCXFMc7c
「そっか」と遠山はまた大して興味がなさそうに返事をする。興味がないなら聞かなければいいのに…そこへ
2006-08-02 22:05:00 -
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美桜◆a8LCXFMc7c
「ま、あれだな。アイツらの言うことはひがみが半分以上だから気にすんな」「え?」前後の繋がりもなくそう言われ私は遠山が何のことを言っているのか分からずぽかんとした。
2006-08-02 22:06:00 -
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美桜◆a8LCXFMc7c
「胃痛の原因。ストレスだろ?」と遠山はさらりと言った。「お前気ぃ強そうに見えて結構もろいもんなぁ」「…な、なんでそんなこと!?」と私は心から驚いて遠山を見る。
2006-08-02 22:08:00 -
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美桜◆a8LCXFMc7c
「今日もお局に何か言われてたろ?お前凄い悔しそうな顔してたくせに何も言い返さないもんなぁ」見られてたのか!?
2006-08-02 22:10:00 -
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美桜◆a8LCXFMc7c
「何で言い返さなかったんだ?」「…だって、仕事中に喧嘩なんてできないし…それにあんなクダラナイことにむきになって返すのも格好悪いし…」
2006-08-02 22:12:00 -
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美桜◆a8LCXFMc7c
「まぁな。でも胃が痛くなるほど我慢してんだったらたまには言い返したほうがいいぞ?別にお前が悪いわけじゃないってことは俺はわかってるし」「って遠山さんだけがわかってても仕方ないじゃん?」
2006-08-02 22:13:00 -
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美桜◆a8LCXFMc7c
「それでも大事になったときには助けてはやれるだろう?」「そうだけど…」「あんまり我慢するなよ。間違ってない時は間違ってないって言っていいんだから」そう言って遠山は私の頭をポンポンと叩いた。
2006-08-02 22:15:00 -
125:
美桜◆a8LCXFMc7c
「って、おい!!」気が付くと私は涙をポロポロと流していた。遠山の言葉が嬉しかったから。今まで強い女を演じてきていてたせいで、誰も私を甘やかすような言葉なんてかけてくれなかった。
2006-08-02 22:16:00 -
126:
美桜◆a8LCXFMc7c
もちろんそれには自業自得と言われるだろうが、それでも私が間違っていない時にまで我慢をしなければいけないのは正直苦痛だった。
2006-08-02 22:18:00 -
127:
美桜◆a8LCXFMc7c
そんな私の気持ちを見透かすように投げられた遠山の言葉。本当に嬉しくて仕方がなかった。
2006-08-02 22:19:00 -
128:
美桜◆a8LCXFMc7c
「おい〜。カンベンしてくれよ。俺女に泣かれるのまじ苦手なんだから」と遠山は私の前でオロオロしている。「そんなに腹が痛いのか!?病院行くか!?」
2006-08-02 22:21:00 -
129:
美桜◆a8LCXFMc7c
どうやら遠山は私が苦しくて泣いていると思っているようだ。「…ちが…痛いんじゃなくて…」「じゃあ何だよ。俺何かお前泣かすようなこと言ったか?」と遠山は慌てている。
2006-08-02 22:22:00 -
130:
美桜◆a8LCXFMc7c
その様子があまりにも可愛くて私は思わず泣きながらも笑ってしまった。「んだよ、今度は。何がおかしいんだよ」と本当に困り果てたように遠山はぼやく。
2006-08-02 22:24:00 -
131:
美桜◆a8LCXFMc7c
「あ〜、まじ女ってわからねえ」「ごめん。遠山さんの言葉が嬉しかったんだよ」「え?」「ありがとう」私は生まれて初めてと言っていいほどその言葉がすんなりと口から出た。
2006-08-02 22:25:00 -
132:
美桜◆a8LCXFMc7c
「…よくわからないけど、嬉しかったんなら良かったな」と不思議そうな顔をしながら遠山が返す。「ってお前腹痛は!?」「あ…」
2006-08-02 22:27:00 -
133:
美桜◆a8LCXFMc7c
「あ、じゃなくて。治ったのか?」「うん。もう大丈夫そう」「じゃあ帰るぞ。ほら」そう言って遠山は私にまた手を差し出してくれる。その手を握り返し私は立ち上がる。
2006-08-02 22:28:00 -
134:
美桜◆a8LCXFMc7c
「ありがとうね」繋いだ手を離さずに私はそう言った。「ん。あんまり心配さすなよ」そう言いながら遠山も繋いだ手を離すことなく歩き出した。
2006-08-02 22:29:00 -
135:
美桜◆a8LCXFMc7c
私たちはそのまま手を繋いだまま遠山の家まで歩いて行った。繋いだ手から遠山の心配が流れてくるようで私は手を離すことができなかった。
2006-08-02 22:30:00 -
136:
美桜◆a8LCXFMc7c
あの時遠山はどんな気持ちで私の手を握ってくれていたのだろう…今となってはもうわからないけれど…
2006-08-02 22:31:00 -
137:
美桜◆a8LCXFMc7c
ねえ、賢二。あの時あなたは私のことを愛おしいと思ってくれていたのかな…
2006-08-02 22:32:00 -
138:
美桜◆a8LCXFMc7c
今日の更新はここまでになります。お付き合い下さいましてありがとうございました。
2006-08-02 22:33:00 -
140:
美桜◆a8LCXFMc7c
?さんレスありがとうございます?
たくさんの?もありがとうです?2006-08-03 13:30:00