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大阪心中24時50分

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  • 1:

    NN

    携帯電話ってものが存在してるのに 人と人の距離は全く埋まりそうにない それどころか日々遠のいているような感覚にさえなる どうしてだろう どうして携帯電話ひとつでここまでひどく憂鬱な気持ちになるのだろう 寂しい夜は 電話で声が聞きたいんじゃない 抱きしめたいんだと 強く思った

    2005-12-16 15:49:00
  • 2:

    NN

    ◆「人間だから嘘や矛盾なんていくらでもある。」そう思って生きてきた。平気で嘘をついてきた、それは自分を守るための嘘ばかりだった。人は生きている間にどれだけ人を深く愛せるのだろう。そしてどれだけ傷つけてしまうのだろう。この街で窒息死してしまいそうになる。最近、少し息苦しい。そんな夜は君をグッと抱きしめる。言葉はいらない。君の体から全部伝わってくるから。だからー..。

    2005-12-16 15:50:00
  • 3:

    NN

    ド派手なネオン街。競い合うかのように看板は過激化してる。ピンク、黄色、赤。チカチカ光って目が痛くなる。深夜0時。「おはよう」から始まる一言は、朝も夜も変わらなくって何だかおもしろい。その中でも一際ド派手な看板を抱えた風俗店があった。ラブタイムジュールだ。この街でも3本指には入るだろう有名風俗店。

    2005-12-16 15:51:00
  • 4:

    NN

    店の近くの案内所や、風俗雑誌にバンバンと顔を載せ指名も稼ぐと呼ばれる風俗のアイドル、いわいる有名フードルが多数在籍している。あたしも半年前、この店のドアを叩いた。自分が載った風俗雑誌を見るたび笑いがとまらないのは、今も昔も変わらない。

    2005-12-16 15:52:00
  • 5:

    NN

    「得意プレイは?」「うーん、今勉強中やで!何でも好きやし頑張る!」「性感帯は?」「全部!すごい感じやすいねんっ」ハイ、バカ丸出し。バカでえっちなキャラクター・ジュリはあたしのもうひとつの顔。雑誌のインタビューは、うちの店の店長が作り上げる。ヤラセみたいなものだ。たまに店長がどんな顔してあんなバカ女キャラを考えてるんだとうかと思うと笑える。だけど雑誌に出ることで客は増えるし、あたしはきっとこれからも出続けるんだと思う。

    2005-12-16 15:53:00
  • 6:

    NN

    「今週、ジュリすごい反響あったなぁ。昨日今日と予約で全部埋まったし、ある意味有名アーティストのコンサートチケットみたいなもんや。数分で完売する、みたいな感じやな。」満足気に店長が微笑む。「そんないいもんちゃうよ」私が笑う。店長は嫌いじゃない。年齢は42歳。「コデブ」なルックスと、のんびりした性格
    い。何か憎めない。

    2005-12-16 15:54:00
  • 7:

    NN

    ↑すみません訂正です。正しくは ○のんびりした性格、何か憎めない です

    2005-12-16 15:56:00
  • 8:

    NN

    「風俗店に勤めたきっかけは?」とよく客に聞かれる。ここで「エッチが大好きやねん!」と言えば客は喜ぶんだろうか?だけどメチャクチャにやられそうで、私は口が裂けてもそんなことは言わないようにしてた。「学費やな」といい子ぶっていたら、店長に「ジュリはバカエロなキャラやねんから!」と少し怒られた。きっかけは..やっぱりお金。お金はいくらあっても困らないものだと思う。

    2005-12-16 15:58:00
  • 9:

    NN

    家も出たかった。あたしの家庭はあんまりいい家庭じゃない。寮付きだったしお金もいいし、もともとセックスは嫌いじゃなかったし、風俗の求人雑誌を見て「なんとなく」流されるようにして始めた。そして「なんとなく」続けてる。特にといって風俗にいる理由、目標がない。「じゃあ明日も頼むで」店長は私に茶色の封筒を渡す。今日は日曜日だった。学校がない。オーラス出勤してたから、封筒の中はいつもよりも断然、お札が多かった。「うん、お疲れ」私は封筒をカバンの中に入れると、タクシーに乗り込んだ。

    2005-12-16 15:59:00
  • 10:

    NN

    風俗って仕事は目標もなく、ダラダラと続けるなんて意味のないこと。それならはっきり辞めた方がいい。って、よく誰かが言ってる。だけどはっきり辞めることも、私にとっては意味のないようなことに思える。

    2005-12-16 16:00:00
  • 11:

    NN

    ねぇユウちゃん。ユウちゃんはあたしの希望の光やった。ちっぽけで汚らしいあたしの体の中に、ユウちゃんの優しさが伝わってきたとき、胸が痛くなったの。だから、いつも素直になれないで、ユウちゃんを傷つけた。人って愛する相手にほどワガママいって傷つけてしまうものなんだって。人間は恋愛をすると今まで自分の知らなかった感情まで振り乱して、時には狂気に狂い、愛する相手なのに殺してしまうってこともあるんだと何かの本で読んだ。

    2005-12-16 16:01:00
  • 12:

    NN

    もしそうだとすれば、人間である時点で、人には、満され合う愛なんて存在しないのかもしれないよね。だけどあたしは、それでもいいよ。ユウちゃんと愛し合えないなら人間になんてならなくっていい。あたしはユウちゃんの「モノ」になりたい。そうしたらユウちゃんを傷つけず、殺さずにすむ

    2005-12-16 16:02:00
  • 13:

    NN

    ◆翌日、あたしは夕方の4時半に目覚めた。何だか最近眠りが浅い気がする。あたしは冷蔵庫から水を取り出し、ペットボトルに口をつけ一気に飲みこむ。授業は5時半から始まる。あたしは化粧を済ませ、時間割を確認してタクシーに乗り込む。うちの学校は私服だ。スエットのコもいれば、お姉系・お兄系全開でキッチリ決めてくるコもいる。学校には仲のいい友達は、正直いない。1、2年で学校に行かなさ過ぎて、友達を作るタイミングを失ってた。学校で1人でいることには慣れた。別に無視されてるわけじゃない。特別仲のいいコがいないだけだ。

    2005-12-16 16:03:00
  • 14:

    NN

    1限は英語だった。あたしがノートを取っていると、横から声をかけられる。「安藤さん」あたしは横を見る。金髪の髪の毛を綺麗にセットしてまさにホスト!みたいな髪型をした男の子。このコ名前なんやったっけ..あたしは一瞬考え込んだ。「あんな、安藤さんって今彼氏とかおるん?」真剣な顔をしてあたしにつぶやく。ああ、確か名前田村だっけ。そんな感じだった気がする。「いいひんけど..」困惑するあたしの表情を見て、田村は微笑む。「そーなん!よかった。やったらさ、西野ちゃん、のことどう思うん?」西野ちゃん?あたしは首をかしげる。

    2005-12-16 16:05:00
  • 15:

    NN

    「そこ!うるさい」先生の視線がとまる。「あーごーめんごーめん!先生気にせんと続けて!」田村が先生をシッシッと追い払う。お調子者タイプとはこういう奴のことなんやろう。「ごめん西野ちゃんって誰?」あたしがそういうと、田村が、あ、知らんの!?と声を大きくする。知るわけない。今、一番クラスでうるさい男・田村の名前をやっと思い出せたのに。クラスメイトの顔と名前が完全に一致しない。

    2005-12-16 16:06:00
  • 16:

    NN

    「ほんま知らん!?ずっと同じクラスやん!」知らないことがすごくおかしいみたいな言い方をする田村の言葉が妙に気に触った。「知らんわ」少しキツイ言い方になってしまった。田村はそれを察してか、少し低姿勢に出た。「まぁ怒らんといてや」「怒ってへんよ」そんな掛け合いをした時、教室のドアが開く。「西野!お前また遅刻か」「すみません」田村の斜め後ろに西野が座る。明るい金髪と茶色のメッシュが混ざり合った派手な髪の毛。ああ、この人が西野くん。ああ、この人知ってる。

    2005-12-16 16:07:00
  • 17:

    NN

    やたらに男子に人気がある男子..そんな響きがちょっと虚しい。男子に人気があるってゆっても、筋肉がスゴイ!とかスポーツができる!とか、すごい男前!とかそんなんじゃないと思う。見る限り、色は白いし、身長は175?ぐらいで背丈としてはまぁまぁだけど、ガリガリで細いから、叩いたらボキっと折れちゃいそうだ。けして不細工じゃないけど、目が細くって派手な顔立ちじゃない。むしろ、顔が薄い。「西野君はルックスはまぁまぁだけどへたれそう」と、女子の間でも一時話題になった。多分、彼は3、4番目タイプなんだと思う。男としてこれから色々苦労しそうだなと他人事ながら思う。

    2005-12-16 16:08:00
  • 18:

    NN

    へたれそうだし。よく田村がちょっかいかけてるの見る。「この人?」あたしが小声でいうと田村は「そや!」と声を大きくした。後ろで男子と西野くんの会話が聞こえた。「お前年中肌白いやんなぁ焼かねぇの?」「白いのいやなんけど・・俺なぜか焼けへんねん。」男子の言葉を気にしてか西野くんはカッターの袖をめくる。本当に白い。「やばいって西野ちゃん、白すぎやから!」「うおえー西野ちゃん白い白い!」「っーか西野ちゃん昨日のエンタメ見た?」

    2005-12-16 16:10:00
  • 19:

    NN

    だけど西野君って不思議な人だと思う。学校にはいつも遅刻。だけど来た途端、男子の群れに囲まれる。みんな西野ちゃん西野ちゃん、と、西野君の周りに集まる。遠くから聞いてる限り、だけど、西野君は口下手そうだし、話が特におもしろいってわけでもなさそうだ。なのに不思議と男子は集まる。このクラス、男子15人。西野君、男子人気、No1。へたれそうでどうもスキじゃない。

    2005-12-16 16:11:00
  • 20:

    NN

    「あ、安藤さん、メアドと番号教えてぇや、今後のために。あとジュリちゃんって呼んでええ?」「いいけど..」田村に半分強制的にあたしの携帯の番号を登録する。今後のためにって何やねん..そう思いつつ、初めての学校での男友達?男の知り合い?だし..と登録した。

    2005-12-16 16:13:00
  • 21:

    名無しさん

    ャッパこの人文ぅまぃね

    2005-12-16 18:29:00
  • 22:

    ファンィチゴゥ

    ァゲ?

    2005-12-17 02:52:00
  • 23:

    ひなこ?

    NNさんの小説ゃァ?待ってましたゾ?

    2005-12-17 03:36:00
  • 24:

    マリナ

    新作待ってましたぁ〜??今回も期待してます??

    2005-12-18 00:57:00
  • 25:

    NN

    たくさん感想ありがとうございます!!年末でちょっと仕事が忙しいので更新が遅れることもありますが、見守っていただければ嬉しいです。本当にありがとうございます。

    2005-12-18 02:02:00
  • 26:

    NN

    時計は9時過ぎ。下校しようとした時だった。「安藤さん」背後から声をかけられる。「あの」そこには西野君が立っていた。黒いトレーナーに薄い色のGパン。髪の毛は派手やけどカジュアル系..なんかな。「なに?」あたしがそいうと、西野くんは顔を真っ赤にした。ちょっとかわいく見えた。「俺、西野優介っていうんやけど..」ああ、優介っていうんだ。あたしは心の中でつぶやいた。

    2005-12-18 02:04:00
  • 27:

    NN

    「これ、よかったら読んでくれん!」そういってあたしに白い小さな紙を押し付け、走り去ってしまった。今時青春ドラマでも見ない光景。あたしはあっけにとられた。あたしはタクシーの中で紙を開けた。すると、メアドと番号が書かれてるだけで、文がなかった。一体あの西野くんは何がしたかったんやろうか..あたしはメモを小さくたたみ、かばんの中にしまう。するとすぐに携帯が鳴る。画面を見ると「田村くん」..一体今日は何の日なんだろう。

    2005-12-18 02:05:00
  • 28:

    NN

    あたしが携帯に出ると「ジュリちゃん、西野にメアドもらったやろ?」とイキナリ聞かれた。「もらったけど」短く返事をすると「あいつめっちゃうれしそうに渡せた!ゆうて喜んでてん」「そうなん..でもメアドと番号かいてあるだけやってんけど」そういうと、連絡したりーや!と田村に言われた。何であたしが西野君に連絡しなくちゃいけないのだろうか..あたしはうん..と適当に返事をして切った。同時に西野君ってほんっとヘタレやなぁと思った。そういえば女の子とあんまり話してるとことか見たことないし、シャイそうやしへたれだし..色々考え込んでる間に店の前についた。

    2005-12-18 02:06:00
  • 29:

    NN

    あの時のあたしはきっと愛することも知らず、人を想うという感情さえ知らない女だった。そんなあたしが色んな男の性欲を処理して、彼らの性にまみれたほんの少しの愛を気がつかなかった。愛することを知っていたなら、あたしはもう少しこの仕事を、性欲だけじゃなくって彼らの愛だって同時に受け止めてるんだよって、少しだけ胸をはって言えたかもしれない。

    2005-12-18 02:07:00
  • 30:

    NN

    プレイルームに入ると「ジュリー久しぶりだね」予約客第一号・前田さんが微笑む。前田さんは42歳。職業は謎..。だけど腕に光る時計が彼の「ステイタス」みたで、相当金は持ってるんだと思う。東京から長期の出張できた、という話通り、前田さんはバリバリの東京弁。2週間前に雑誌を見てやってきてくれたのだけど、彼は絵に描いたような「紳士」客。風俗で遊びなれてるというか、無理矢理なプレーや本番を頼んでくることもない。アッサリした人。前田さんはいつもロングコースだし取り分もいい。そんな人ばっかりだとこの仕事も少しは楽なんだろうなとフッと思った。「また綺麗になったんじゃない?」「またまたーうまいんやから」あたしは笑ってタイマーをセットする。

    2005-12-18 02:08:00
  • 31:

    NN

    マニュアル通りのことを繰り返す。体を寄せ合って愛撫して..。仕事してる時、あたしはあたしじゃない。風俗嬢ジュリになりきる。ふと、頭の中に西野君の顔が浮かんだ。その瞬間、あたしは前田さんの体から反射的に離れた。「どうしたの?」「あ、ごめん。なんでもないわ」あたしはプレーを続ける。どうして今一瞬西野君の顔が浮かんだのだろうか。「ねぇジュリ」前田さんはベットの上でつぶやく。「何?」あたしが顔を上げる。「なんでもないよ」そう微笑むとタイマーが鳴り、プレイ終了を告げた。その日は予約分を全部こなして体がヘトヘトだった。

    2005-12-18 02:09:00
  • 32:

    NN

    あたしはクローズした店内の待機室に座り、かばんを開ける。「お疲れさん」他の女の子は着替えたり化粧直しをしている。あたしはかばんから、紙キレを取り出す。西野君のメアドと番号。彼はあたしに好意を持ってくれているのだろうか?西野君はあたしの学校での顔しか知らない。裏をめくれば風俗嬢..。結局、仕事を恥ずかしいと思っていたのは、自分自身だったのかもしれない。家に帰れば時計は深夜3時を回っていた。また、紙を開けてみる。今メールするのも遅いし非常識かなと思った。だけど何であたしが西野君に連絡するはめになってるんやろうか。結局その日あたしは西野君に連絡をすることはなかった。

    2005-12-18 02:10:00
  • 33:

    NN

    翌日、夕方いつものように校門をくぐると、門の真横で原付きを止めてたまっているヤンキー集団みたいな集まりと目があう。「安藤さん!」ヤンキーグループの真ん中でしゃがみこんでいる田村に声をかけられる。正直ゲッと思った。「昨日西野ちゃんに連絡したったん?」単刀直入だ。「ごめんしてへん」あたしは声を小さくする。と、いうか何であたしが謝らなくちゃいけないんだろう。「えっこの人が西野ちゃんの好きなオンナなん?」変な色のスエット着た男があたしを指差す。「そやでー」田村が軽快に答える。「キレーやん!」「西野ちゃんて面食いねんなぁー」と次々あたしに言葉を浴びせる。さすが西野君。スゴイ男子人気。「昨日安藤さんから連絡こなくてすんごい落ちてたんやであいつ」トドメを刺すように田村がつぶやく。

    2005-12-18 02:12:00
  • 34:

    NN

    そんなこと言われたって..。はぁ。あたしは小さくつぶやき、教室へと向かう。すると正面から西野君が歩いてきた。不意にあたしは背中を向ける。「不意」にではなく、「モロ」、だったかもしれない。「安藤さん!」それを見てかあたしの方へ駆け寄ってくる西野君。あたしは内心ゲッと思った。「なんか、ほんまっごめんっ」そしてイキナリ頭を下げた。「なんか迷惑かけて、でも、俺、安藤さんが好きねんか」

    2005-12-18 02:14:00
  • 35:

    NN

    は?あたしは硬直する。突然の告白?宣言?何これ?「やから、あの、前から大人っぽくてキレイやなって思ってて、俺なんて相手してもらえへんってわかってるねんけど」顔を真っ赤にさせてうつむき気味にボソボソと言葉をつぶやく西野君に、あたしの鋼鉄だった心臓がその瞬間「ときめき」を覚えたのは事実だ。

    2005-12-18 02:15:00
  • 36:

    名無しさん

    2005-12-18 07:27:00
  • 37:

    NN

    「あっありがとう」突然の告白にあたしが声を詰まらせると「いきなりでごめんっ!でもほんっま前から綺麗やなぁって俺なんか全然つりあわんってわかるんやけど好きねん」西野君は必死になってあたしに「想い」をぶつけてくる。恥ずかしそうな顔して目をそらしてはまた、あたしの目を見る。ドキドキした。初めて人の心臓が自分に伝わることを知った。「話したことないし、俺かっこわるいし。ふられるのわかってるし俺なんて全然あかんと思うしでも想いだけでも伝えたかってん!」そういうとまた顔を赤らめた。「ふふ」あたしは声を小さくして笑う。

    2005-12-19 00:44:00
  • 38:

    NN

    「あたしも西野君を知りたいと思った、今」そう笑うと、西野君は「ほっほんまに!?」と目を大きく開いた。あたしは正直、興味本位からOKを出した。だけどもしかして、あたし、この時の時点でもう、西野君が「光」に見えてたのかもしれない。「よかったら安藤さんっ今日一緒に帰ろうっ」西野君はまだ顔を真っ赤にさせたままあたしを見る。「今日?」今日はこの後仕事だ。「あっあ、無理やったらいいから」「ごめん今日はちょっと..明日なら」「あっうん、ぜんっぜんいい!!」西野君が言葉を詰まらせながら顔を大きく縦に振る。メッシュの髪の毛が左右に柔らかく揺れる。

    2005-12-19 00:46:00
  • 39:

    NN

    「じゃあね」軽く手を振ると西野君はあっうん!と声を大きくさせた。1限は男子は体育。別の教室だ。「おいおい、西野ちゃんやるやーん!!ばっちり見たで!!」いつからいたのかわからない田村がいきなり顔をのぞかせる。「うん!」「よかったなぁー西野ちゃんほんっまよかった!」2人がじゃれているのが遠くからうっすら見えた。

    2005-12-19 00:47:00
  • 40:

    NN

    ◆「あたしも西野君を知りたいと思った、今」そうやって安藤さんが俺の前で笑った時、ドラマじゃないけど、頭の中で耳元で大好きな歌が流れたような錯覚がおこった。いつから好きやったんだろう。多分、1年ぐらい前からすごく彼女が気になってた。スラっとした細身のスタイル、切れ長の目元、明るい栗色の髪の毛が胸まで伸びている。とにかく女の子と話すのがすごく苦手で自分から話しかけるなんて絶対できないし、クラスでもほとんど誰かと話してるのを見たことがない、安藤さんは謎だらけだった。

    2005-12-19 00:48:00
  • 41:

    NN

    男子が集まりいっせいにバスケを始める。今日の1限は体育。いつもなら少し張り切る俺だけど、今日は夢心地で顔がニヤけたままだ。「今日から安藤さんが西野ちゃんの彼女かーうらやましいわ。あんなキレーな子。」右手にボールを抱え田村が笑う。「あっほんま色々協力してくれてありがとう」「ええってことやん、俺ら友達やん」よいっしょ、と、軽くジャンプし投げたボールはゴールにスッポリ入った。

    2005-12-19 00:50:00
  • 42:

    NN

    田村は男から見てもすげぇカッコイイし、うちの学校の女子にも一番人気だ。毎日違う女を連れて歩いていて、女をとった!とかなんとか上級生とよくトラブルになってるのを校内でも見る。やけど、いい意味でも悪い意味でも、どんな時にでも自分のスタイルを貫く正直な田村の姿が、羨ましくもあった。だけど安藤さんの横の席っていうのが、一番の羨ましいところだったわけやけど。

    2005-12-19 00:51:00
  • 43:

    NN

    ◆男子が体育をしている時、女子は保健だった。ボケっと黒板を眺めていると、最後に彼氏がいたのはいつだろう。ふとそんなことを考えた。そういえばあたし、「ちゃんと」男の子と付き合った記憶が最近ない。処女を捨てたのは13の時。なんとなく同じ学校の年上と流れるようにセックスした。そのセックスには「愛」も「理由」も存在しなかった。そんなセックスをその男と繰り返してたら1年経ってた。恋人関係なんかじゃなかったと思う。今思えばセフレっていうのだろうか。かろうじて男の名前と顔はうっすら覚えてるけど、セックスに関しては何ひとつ記憶にない。触れ合った体の体温も、重ねあった唇の感触も、何ひとつ覚えてない。

    2005-12-19 00:52:00
  • 44:

    NN

    「あっ、あっ安藤さん、バイバイ!!今日、絶対電話するから!!」9時、下校しようとしたあたしに、西野君が手を振る。隣には田村とそのツレのヤンキーがいる。本当に西野君と田村君って仲いいんやなぁと思いつつ、派手な外見に中身も派手なイケイケ田村と、派手な外見にシャイでへたれな中身を持つナヨナヨ西野君は、中身は全くアンバランスで友達としてはいいバランスなのかもしれないと冷静に思った。一生懸命手を振る姿が何だか愛しく思えた。

    2005-12-19 00:54:00
  • 45:

    NN

    あたしは細い道に入るとすぐにタクシーを捕まえた。「今日は深夜から雪が降るんだって」と、タクシーの運転手がミラー越しにあたしを見る。「ほんまに?いややな、雪なんて。寒いし。」あたしは小さくつぶやきタバコに火をつけた。

    2005-12-19 00:55:00
  • 46:

    NN

    ◆店に着けばあたしの「影」が目を覚ます。今あたしは風俗嬢ジュリ。風俗嬢.ジュリ。西野君や田村が知ってるじゅりじゃない。店に着くと一本目から「なぁ本番やらしてや」を連呼する客にあたりイライラした。だけどあたしだってそんな客は毎日見てる。うまくかわす。「いいやん、こんな仕事してるんやし、エッチ好きなんやろ?」断ると客は笑いながらあたしにそう吐き捨てた。こんなことはよくある。こんなかえされ方もある。今、あたしは「影」だ。負けそうなればあたしは何度だってそう言い聞かす。仕事。あたしは今、じゅりでなく「ジュリ」なんだから。傷ついちゃ駄目。あたしは自分でこの仕事を選び、今、自分の意思でこの仕事を続けているのだから、、、。

    2005-12-19 00:56:00
  • 47:

    NN

    あたしは仕事を終えると、店長から日給をもらう。「今日も人気者やったねジュリ!」店長が微笑む。あたしもつられて笑う。笑った、つもりだったけど、鏡にうつった自分が苦笑いになってたことに気がつかなかった。ボケっとしたまま、ロッカールームへ戻る。何となく気が重かった。壁に貼られている女の子のパネルを横目で見る。この中の女の子のどれだけが、このパネルの中で本当の笑顔を見せてるんだろう?あたしはこれからも人に嘘をつき続けるのだろうか?風俗を辞める日が来たとき、「過去」を「空白」にすりかえて…。

    2005-12-19 00:57:00
  • 48:

    NN

    近頃あたしは作り笑いだけがうまくなってしまった気がする。あたしは風俗で働いていたのは寂しいからじゃない。理由なんてなかった。なんとなく足を踏み入れた世界に溺れ、抜け出す勇気さえなかった。いつから「あきらめた」が口癖になってしまったんだろう。死に物狂いで戦ったことなんて一度とさえなかったくせに。結局、「あきらめた」って言葉は自分へのいいわけだ。ロッカールームに入ると、携帯で大声で話してる金髪の女の子と目が合った。ユウナだ。あたしと同期で、ユウナとは店で一番よく話す。「お疲れー」ユウナが携帯片手に小声でつぶやく。「おつかれ」あたしも小声でつぶやく。

    2005-12-19 00:58:00
  • 49:

    NN

    バックから携帯を取り出す。着信2件。ん?珍しい。あたしは画面を開ける。22時01分、0時05分。同じ番号から2回。自慢じゃないけど、あたしは電話もメールも全然使わない。携帯は時計がわりに使ってる状態だ。頻繁に連絡を取り合うような仲のいい友達もいない。あ、たまにユウナから電話がくるぐらいだ。着信のほとんどが店という寂しい携帯だ。それにしても近くて見たことのある番号..あたしは携帯の画面を凝視した後、リダイヤルを押す。3コールで電話は繋がる。「もしもし?」あたしは低い声でつぶやく。「もしもし!」あ。あたしはハッとする。西野君だ!これ、西野君の番号だ。あたしってば番号もらったまま携帯にも登録してなかった..画面を見ると時間は2時。一般的に真夜中..という時間だ。

    2005-12-19 00:59:00
  • 50:

    NN

    「ごめんね!?遅くに連絡して!寝てたやんな?」あたしが必死に謝ると「ううん、ううん、ぜんっぜん大丈夫やで、起きてたから、俺こそ何度も連絡してごめん!」と、逆に謝り返された。と、いうか西野君は「ぜんっぜん」が口癖なんだと気がついた。今日も何度か言ってた。あたしは携帯を握り締める。「電話してくれたのにごめんな。あの、寝てて..」とっさにあたしの口から嘘が出る。何してたの?も聞かれてないのに、いきなりいいわけ。あたしって本当にうそつきオンナ体質だ。

    2005-12-19 01:01:00
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