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FTM

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  • 1:

    名無しさん

    1999年、秋
    彼のメッセージは、録音されたたくさんの男たちの声に埋もれていた

    2006-06-30 07:26:00
  • 2:

    ◆yITSNv0Kls

    美大に入学したその年の秋、「受験を乗り越えるため」の絵画に染まりきった私は、自分の絵をいつのまにか忘れ、本来描きたかった絵が何だったかに悩み、いつしか悩むことを放棄していた。

    ある日マンションに帰るとポストに伝言ダイアルのチラシが入っていた。
    描きたいことをなくし、日々をただ何となく過ごすようになっていた私は、暇つぶしと「何か刺激があるかも」という好奇心とにかられ、そこに電話した

    2006-06-30 07:35:00
  • 3:

    ◆yITSNv0Kls

    初めて電話するそこは、地方別、出会いの目的別などに別れた、今で言う電話版出会い系サイトだった

    電話の向こうからは、真剣に出会いを求める声、ヤリモク、様々な男達の声が聞こえてくる
    「ブサイクばっかなんやろなあ…」
    こんなもんか、と思いながら、次のメッセージを聞くべく操作をする

    …そこに、「彼」はいた

    2006-06-30 07:40:00
  • 4:

    ◆yITSNv0Kls

    次の朝、私宛てのメッセージが彼から返ってきていないか電話をかけた。

    「メッセージが1件です」
    …来た!
    彼からのメッセージは、FTMについて説明すると長くなるから、非通知でもいいから電話してほしいというものだった

    2006-06-30 07:51:00
  • 5:

    ◆yITSNv0Kls

    急いで彼に電話する。
    トゥルルル、トゥルッ…
    「もしもし!」
    彼のあのハスキーボイスが聞こえてきた
    昔はやったベル友で、知らない人との電話なんて慣れてる。
    だけど伝言ダイアルなんて初めての事とあって、彼の声が聞こえてきた瞬間、変に気恥ずかしくて緊張してきた。

    2006-06-30 07:55:00
  • 6:

    ◆yITSNv0Kls

    「あの、伝言ダイアルでメッセージ残した者なんですけど…」
    「ああ!ごめんね、今長くなっても大丈夫なの?つーか番号教えてくれたらオレからかけるよ?」
    「や、いいよ、このままで」
    「ほんと?あ、オレ、名前キリね」
    「あたしレキ。名前似てるなあ(笑)」
    「ほんとだね〜(笑)」
    「キリどこの人なん?あたし京都やで」
    「まじ!?うわ〜、関西弁話す人と初めて喋った!何かすげえ!」
    「何がなん(笑)」
    ひと通り他愛ない会話をしたあと、「FTM」について聞いた

    2006-06-30 08:04:00
  • 7:

    ◆yITSNv0Kls

    「うーんとね、性同一性障害って知ってる?」
    「え、何それ?」
    「簡単に言うと、体の性と心の性が違うんだ。オレは…体が女で、だけど昔から自分では男だと思ってきた。」

    FTM…Female To Male
    文字通り女から男へ。
    今でこそ性同一性障害、GIDについてだいぶ世間に知れ渡ってきたが、当時まだほとんど知られておらず、レズビアン、ゲイ、バイの人間…下手すればGIDである本人たちですらなかなかその言葉を知らないという状況だった

    2006-06-30 08:12:00
  • 8:

    ◆yITSNv0Kls

    「オレはまだ勇気ないから、親にも言ってない。情けないけど友達にも、言っていなくなってしまうのが怖くて幼なじみの1人にしか言ってない。職場でも男にしか見えない女として扱われてる…」
    だけど将来改名したいこと、ホルモン注射を打ちたいし、性転換手術もゆくゆくはしたい…彼は語った。
    「そしていつか、法改正されたら、戸籍変更したいんだ。アメリカじゃできる州だってある。日本じゃまだまだ先だろうし、…生きてるうちは法改正は無理かもしれないけど…」

    2006-06-30 08:19:00
  • 9:

    ◆yITSNv0Kls

    「生きてるうちに、50でも60でもいい、どんなおっさんになっててもいいから、本当の男として生きてみたいんだ。」
    「子供を作るのは手術しても無理だけど、自分の女を幸せにしてやりたい。籍入れて、きちんとしてやりたい」

    FTMも、本人がどこまで男に「戻りたい」かで区分と呼び名がFTMTG、FTMTSなどのように変わること

    自分を男でも女でもあると考える人がいること、また男でも女でもないと考える人がいること

    アメリカじゃ今は手術してつけたペニスの先にクリをつけ、本来のペニスのようにお互いに挿入した状態でイケること

    ホルモン注射では太りやすくなるが、ヒゲや体毛が濃くなること

    親や友人などに自分のセクシュアリティ(ノンケ、ビアン、ゲイ、バイなど)やジェンダー(体の性でなく、自分自身で思う自分の性)などについて打ち明けることをカミングアウト(カム)ということ

    様々なことを彼は私に教えてくれた

    2006-06-30 08:35:00
  • 10:

    ◆yITSNv0Kls

    それから2ヶ月
    私たちはすっかり仲良くなり、毎日の電話とメールが日課になっていた

    あほっぽいけど、「今から?するし留守電つないで!」そうメールし、好きな曲を録音したりして遊んだりしていた
    時折、彼の「留守電つなげっつったじゃん!」が聞きたくてわざと?に出たりもした

    京都と東京

    私たちはまだ会うこともなく、まだ写メもなかったから顔も知らなかった

    キリに会いたい
    その気持ちが日々大きくふくらんでいた

    2006-07-01 07:11:00
  • 11:

    ◆yITSNv0Kls

    もう冬がやってきていた

    「キリ、…クリスマス何してんの?」
    「仕事だよ〜!年末まで休みなしだって、ほんとキツい!」
    会いたい、とは言い出せない自分がいた

    今ならまだただの?友メル友で済む

    顔も知らないのに会うために行ったり、来てもらうのはためらう

    ものっすごいデブとかブサイクなら一緒に歩きたくないし、多分気持ちもさめる、このままいいイメージのままでいてほしい

    かと言って好みだったら、もう完全に落ちる
    でもつきあっても、子供もできないし結婚できない。未来なんかほとんどない

    色々彼に言えずにいる理由を考えてはいたけれど、本当は気に入ってもらえないのが怖かったのだ

    2006-07-01 07:20:00
  • 12:

    ◆yITSNv0Kls

    私の中で、その頃にはもう、彼は完全に「男」だった

    イブ
    結局言い出せなかった私は、友人数人とパーティーしていた
    「な〜、レキそういえば気になる子できたとか言ってなかった?」
    「あ〜言ったで〜、今日も会いたかったんやけど、恥ずいし言えんかったぁ(>_

    2006-07-01 07:29:00
  • 13:

    ◆yITSNv0Kls

    ♪〜♪〜♪〜
    その時ケータイが鳴った

    「メール受信:キリ
    [なーなー、レキの家って京都駅?]」
    [えー何でなん?まさか会いに来るとか??]
    [んなわけねーじゃん、仕事だって!]
    [あーそうかぁ。家京都から地下鉄で●●ってとこやで。つーか何で?]
    [それは内緒やな!]
    [え、何そのウソ関西弁]
    [お前のマネじゃん(笑)]

    一瞬どきっとして、期待した。
    来るわけないよな…
    彼は配送の仕事をしていて、年末のこの時期特に忙しいと言っていた
    それでもこんなん聞かれたら期待するわなあ…

    2006-07-01 07:38:00
  • 14:

    なお

    今私の好きな人もFTMです (^O^)
    主サンがんばってくだ書いてさい☆応援してます!!
    私もその彼と付き合えるようにがんばります☆

    2006-07-02 05:04:00
  • 15:

    ◆yITSNv0Kls

    なおさん、ありがとうございます(*^_^*)
    文章固いし内容も…なんで、誰も読んでないかなぁと思ってたんで、めっちゃ嬉しいです(≧∀≦)
    しばらく忙しいんでなかなか書けなくなりますが頑張ります!

    2006-07-03 21:10:00
  • 16:

    ◆d4B6CdtQ4Q

    酒に酔うといつも、その時一番気になる事を思い出す

    キリ

    会いたい
    会いに行こうかともこの1ヶ月半何度も考えた

    会いたいけど
    でも恐かった
    幻想を壊したくない

    近くに「現実」の人間として接していないからこそ、彼を想えるのかもしれない
    実際会ってしまえば、イヤなやつかもしれない

    自分の気持ちをごまかそうとして私は会わないでいる理由を作っていた

    彼のことを男として見、男として想いながら、どこかで私はまだ「FTM」ということが引っかかっていた
    それを彼に悟られることも恐かった

    この時の私はまだ、GIDについて頭でしか理解していなかったのだと思う

    彼と知り合って惹かれるにつれ、私のマイノリティの知識や日本や世界の現状についての知識はどんどん増えていった

    「FTM」ということについて、単にGIDの知識があることや男として接することは、多分何かが「違う」んだと思う

    2006-07-03 22:18:00
  • 17:

    ◆yITSNv0Kls

    「あ〜っ、何か会いたくないけど、めっちゃほんまに会いたい!」
    叫び、友人に「どっちやねん!」とツッこまれた瞬間

    携帯が鳴った

    2006-07-03 22:22:00
  • 18:

    ◆yITSNv0Kls

    「もしもし!?」
    「メリクリ〜!お前今何してんの!?」
    「友達と飲んでるで〜」
    「寂しいオンナばっかだな(笑)」
    「うっさい!(●`ε´●)何なんよ?仕事終わったん?」
    「お〜、つーかどこでやってんの?」
    「友達ん家やで」
    「あ〜悪いんだけどさ、家帰ってくれない?」
    「………なんでなん」
    「…聞きたい?」
    「……うん」
    「(笑)……来ちゃった!」
    「……………」
    「もしもし?おい?」
    「キリ今どこなん」
    「京都駅!」
    「……まじで?…そこおって。行くわ」
    「迎え来てくれんの?」
    「うん、寒いしどっか入っといて。入ったら場所メールして」
    「わかった〜!」

    2006-07-03 22:31:00
  • 19:

    ◆yITSNv0Kls

    「レキどしたん?」
    「ごめん行くわ!ヤツが来たって!」
    「まじで!?」

    乙女プレゼントやーん!頑張れよ〜!
    友人たちの声を背に、私は外へ飛び出した

    2006-07-03 22:44:00
  • 20:

    ◆yITSNv0Kls

    タクシーを拾い、京都駅へと急ぐ

    白川通り、百万遍、鴨川沿いに走る

    2006-07-03 22:45:00
  • 21:

    ◆yITSNv0Kls

    あ〜…あたし今頃あの子らのネタやで!
    ありえへん、めっちゃ恥ずかしい!

    でもでも
    何かめっちゃにやける…

    2006-07-03 22:51:00
  • 22:

    ◆yITSNv0Kls

    抑えきれない嬉しさに、だんだんと実感がわいてくる

    あ〜…
    ほんまにあたし会いたかったんや…

    2006-07-03 22:55:00
  • 23:

    ◆yITSNv0Kls

    京都タワーの白いシルエットが眼前に現れる

    2006-07-03 22:58:00
  • 24:

    略なくしてほしいです

    2006-07-03 23:03:00
  • 25:

    ◆yITSNv0Kls

    海さん
    すみません、略のなくしかたわからないんで、長文ならないよう気をつけます(>_

    2006-07-03 23:09:00
  • 26:

    ◆yITSNv0Kls

    駅の改札付近を見渡すと、彼に聞いた通りの服装の男がいる
    白いダウン、ジーパン、シルバーのラメがかった黒のキャップ…彼だ

    2006-07-03 23:13:00
  • 27:

    ◆yITSNv0Kls

    「…キリ?」

    その時の彼の横顔を、周りの光景を、7年たった今も克明に覚えている

    あたしたちはあの時始まったんやね

    彼はゆっくり左側にいた私の方へ振り向いた

    2006-07-03 23:16:00
  • 28:

    ◆yITSNv0Kls

    「あ〜レキやぁ…(笑)やっと会えた!」

    彼のくしゃくしゃになって笑った顔は、その時からずっと私の一番好きな顔になった

    2006-07-03 23:22:00
  • 29:

    もこみちLOVE

    読んでます。改行を5回以上にすると略になっちゃうから、4回にすれば略にならないよ♪

    2006-07-03 23:23:00
  • 30:

    ◆yITSNv0Kls

    「歩いて帰ろうよ!」
    駅から私の家まで、タクシーで20〜30分強。
    「…歩いたら1時間とかかかるかもやで…」
    「いいじゃん!観光しながら帰れるじゃん!」
    「わかった…」

    2006-07-03 23:28:00
  • 31:

    ◆yITSNv0Kls

    もこみちLOVEさん、ありがとうございます!気をつけてみますね(^-^)

    2006-07-03 23:31:00
  • 32:

    ◆yITSNv0Kls

    八条口からタワーの方へまわると、「すげえ!これ京都タワー!?ちっちぇー!かわいいなあ!」
    はしゃぐ彼の隣で、私も見慣れたはずのタワーを何だか新鮮に感じた

    2006-07-03 23:38:00
  • 33:

    ◆yITSNv0Kls

    烏丸から三条へ、寒い寒いと言いながら、やっと会えた嬉しさと恥ずかしさで、私たちは妙にはしゃぎながら歩いた

    2006-07-03 23:41:00
  • 34:

    ◆yITSNv0Kls

    三条のローソンで缶ビールと肉まんを買い、私たちは加茂川へ降りた
    「あ〜、京都ってこんな寒いんだ、びっくりした。でも星キレイだな」
    「家の方まで歩いたら星もっとキレイやで」

    2006-07-03 23:46:00
  • 35:

    ◆yITSNv0Kls

    河原に座り、「こんな寒いのにおかしいやろ!」と言いながら笑いあう
    どうということもない事なのに、電話越しでしかなかった彼が隣にいるというだけで、全てが幸せに感じられる

    2006-07-03 23:48:00
  • 36:

    ◆yITSNv0Kls

    「急に来ちゃって…ほんとごめんな。しかも初対面で泊めてもらって」
    年内に会ってみたかった。クリスマスを過ぎると、年末に向けより忙しくなり、京都まで来る時間がなくなるから。

    2006-07-03 23:53:00
  • 37:

    ◆yITSNv0Kls

    彼はそう話した。
    「いいよ、あたしも会ってみたかったけど、なかなか行くって言えへんかってん。ありがとう…」
    川上に向け歩きながら、水面を照らす灯りに逆光になった彼を見上げた

    2006-07-03 23:57:00
  • 38:

    ◆yITSNv0Kls

    「明日、どこ行く?京都初めてならお寺とか行こっか」
    「お前、寺好き?」
    「うん、絵描くのに行き詰まったらぼーっとしに行くで」

    2006-07-04 00:01:00
  • 39:

    ◆yITSNv0Kls

    「ババくせえな(笑)ホントに18?(笑)」
    「うるさいな〜」
    「…お前がいっつも行く寺、一カ所つれてってよ。あとはお前が遊んだりするとことか好きなとこ連れてって」

    2006-07-04 00:03:00
  • 40:

    名無しさん

    おもんないもうやめろ

    2006-07-04 00:05:00
  • 41:

    ◆yITSNv0Kls

    「わかった、マニアなとこ満載やで(笑)楽しみにしといて」「わかった」

    そうして家にたどり着いた

    2006-07-04 00:05:00
  • 42:

    名無しさん

    だからおもんないねんきずけや

    2006-07-04 00:11:00
  • 43:

    名無しさん

    おもしろいし?

    2006-07-04 00:26:00
  • 44:

    名無しさん

    面白いっ!完結が気になるっ(ノ^^)八(^^ )

    2006-07-04 10:14:00
  • 45:

    名無しさん

    頑張り?

    2006-07-04 10:58:00
  • 46:

    名無しさん

    なんか切なさが伝わってきます。頑張って下さい

    2006-07-05 05:16:00
  • 47:

    ◆tnuaeqIXn.

    43・45さん、すみません、おもしろくないとは思いますが、完結させたいので書きます

    46・47・48・49さん、本当にありがとうございますm(_ _)m頑張ります!

    2006-07-05 19:26:00
  • 48:

    ◆tnuaeqIXn.

    ↑アンカー間違えました(>_

    2006-07-05 19:28:00
  • 49:

    ◆RlEoA6pPYI

    その夜、互いのこれまでのこと、これからのことを語り尽くした。

    2006-07-07 12:43:00
  • 50:

    ◆RlEoA6pPYI

    「どうにもならない自分を、いっそ嫌いになれたらあきらめもついてラクだと思ったんだよな…」

    だけど自暴自棄になったところで現状は変わらない、変えられないと気づいたこと。

    そしてキリは24歳になり、東京・足立の下町で、私と?を通じ出会った

    2006-07-07 12:59:00
  • 51:

    ◆tnuaeqIXn.

    私は2週間後に20歳の誕生日を控えていた。

    2006-07-07 13:01:00
  • 52:

    ◆tnuaeqIXn.

    「あたしは…」

    生まれてすぐ心疾患が見つかり、5歳まで入退院を繰り返した。5歳の夏、手術をするその日まで、もともとの引っ込み思案な性格もあり、友達もほとんどできずにいた

    2006-07-07 13:04:00
  • 53:

    ◆tnuaeqIXn.

    本来友達との関係を通じ育まれる感受性、気持ちを表現する方法、伝える方法を絵を通じ身につけた

    2006-07-07 13:08:00
  • 54:

    ◆tnuaeqIXn.

    表に出さなければ整理できない気持ちは、表現してやらなければ人はパンクしてしまうと思う。
    それを周りに人がいながら誰にも言えなかったキリは、グレたり逃げたりすることで、誰もいなかった私は絵の中に閉じ込めることで。
    方向こそ違ったけれど、互いにそうして気持ちに折り合いをつけてきた

    2006-07-07 13:13:00
  • 55:

    ◆tnuaeqIXn.

    「基本ネクラだな、お互い(笑)」
    「精神的にヒッキーやからな(笑)」
    初めて会ったけれど、親近感と、この人だ、という気持ちが湧き上がっていた

    終電のなくなる時間帯なのに、会えるか確証もないのに、東京から来てくれたキリ

    2006-07-07 13:17:00
  • 56:

    (○´ω`○)ノ

    自分も性同一性!!ワラ
    おなべとして生きてるよ☆
    主さん頑張ってな♪

    2006-07-07 13:54:00
  • 57:

    ◆tnuaeqIXn.

    暗闇の中で握りしめていた手綱を離しても、キリが進むべき道を照らしてくれているような、そんな気がした。
    まだお互いを知らないのに、こんなにも絶対の安心感をくれた人は今までいなかった。
    「なあ、星みたくない?」

    2006-07-07 21:02:00
  • 58:

    ◆tnuaeqIXn.

    >>60色々改正されてきて、生きていくことが楽しみになりましたね。
    完結まで頑張ります

    2006-07-07 21:04:00
  • 59:

    ◆tnuaeqIXn.

    「星?」「うん、寒いし天気いいし、多分キレイやで」

    近くにある、ホタルで有名な小川へと向かった
    傍らにある路石に2人腰かける。

    2006-07-07 21:08:00
  • 60:

    ◆tnuaeqIXn.

    「レキ、冬休みどうすんの?」
    「あたしなあ、まだ行ってなかったけど、インド行くねん」
    「…は?」
    「インド。夏にチベット行ってんけどな、ハマったんもあるけど、帰ってからすごい人の気持ちを近くに感じるようになって。何か大学入る前に思ってたのとは違うけど、自分の気持ちがどこに向いてるんかがちょっとだけわかった気がしたねん。だからもう一度行って、もっとそれを掴みたいねん。何か、変な言い方やけど…」

    2006-07-07 21:14:00
  • 61:

    ◆tnuaeqIXn.

    「何かオレらってほんとに育った方向違うよな。」「うん、だから知り合えて良かった」
    「…出発いつ?」
    「1月の末やで。あと1ヶ月ないくらい」
    「1ヶ月かあ…、ちゃんと帰ってこいよ」
    「うん」

    2006-07-07 21:17:00
  • 62:

    ◆tnuaeqIXn.

    その日は2人、手をつないで寝た
    イイ年した2人が…って感じやけど、それでもそれが本当に幸せだった
    眠りにつく直前まで、とめどない話を繰り返した

    2006-07-07 21:20:00
  • 63:

    ◆tnuaeqIXn.

    それからの日々はあっという間だった。

    カウントダウンは?で2人でした。

    そして後期試験を終え、出発の日

    2006-07-07 21:24:00
  • 64:

    ◆tnuaeqIXn.

    朝6時。10時の便で発つ私は、準備を終え、空港に向かおうとするところだった

    2006-07-07 21:25:00
  • 65:

    ◆tnuaeqIXn.

    ♪♪♪「着信:キリ」
    「おはよう。どしたん?」
    「どしたん?って…今日だろ?」
    「うん」
    「行ってきますくらい言えよ(笑)」

    2006-07-07 21:27:00
  • 66:

    ◆tnuaeqIXn.

    「ああ…空港でかけるつもりやったわ」
    「絶対ウソだろ(笑)」
    タクシーを拾いながら話す。
    「あのさ…帰ったら言うつもりだったんだけどな」 「何?」

    「…帰ったら付き合ってほしいんだ。だから無事に帰ってこいよな」
    「…うん」

    そうして私は旅立った

    2006-07-07 21:31:00
  • 67:

    ◆tnuaeqIXn.

    ニューデリーまで12時間、いや18時間?
    ともかくは無事インドの首都へ無事降り立った。
    時差もあり着いた時にはすっかり夜中、空港を出るとオレンジ色の街頭があたりを照らすだけだった。
    リキシャ(タクシーの小型バイク)を拾い、旅行者が集まる通りへ向かう。ぼったくり宿が多い中、3軒目に決めた。

    2006-07-07 21:39:00
  • 68:

    ◆tnuaeqIXn.

    ベッドに横たわると、朝言われた言葉が思い出される。
    「あ〜…あれほんまやんな…」
    飛行機の中でも考えてはいたけれど、周りに人がいた分、実感はなかったが、こうしていると妙にリアリティを帯びて感じられる。

    2006-07-07 21:43:00
  • 69:

    ◆tnuaeqIXn.

    フロントでもらった地図を見ると、すぐ近くに?ボックスがある。
    「かけに行こ…」

    2006-07-07 21:44:00
  • 70:

    ◆tnuaeqIXn.

    実際行くと、地図上では歩いて1分ほどだったが、実際には5分
    「さすがテキトー大国インド…」
    こんな夜中に怖いっちゅーねん!と思いながらかける。観光客の多いこの通りも、夜中になれば静まり返る。治安の悪いインドでできれば夜中はあまり歩きたくない

    2006-07-07 21:48:00
  • 71:

    ◆tnuaeqIXn.

    そんな事を考えていると、寝ぼけた声でキリが出る
    「…もし…」「おはよ。今そっち何時?」「朝…時間わからん。つかそっちは?」「こっちは2時やで」「危なくないの?早くホテル戻れよ」「わかった」「?ありがとな。またかけてな。そっちが昼間の時間なら何時でもいいからさ」「うん」
    「朝ちゃんと言えなかったけどさ、オレ、レキの事ほんとに好きだから。ついてこいとはこんなだしまだ言えないけど、お前にいてほしい」
    「うん、ついておいで。あたしが幸せにしたるわ」「何でやねん!(笑)」

    2006-07-07 21:55:00
  • 72:

    ◆tnuaeqIXn.

    それからの2ヶ月、現地で知り合った友人の家に2週間泊まったり、チベット難民キャンプへ行ったりと行きたかった場所全てへ、興味の向くまま旅し続けた
    途中迎えたバレンタインでは空輸でチョコと、キリの好きなものをセットにしたものを送った。
    余談だが、着いた時には検疫でチェックされたのか、明らかに封を開けられた跡があり、チョコは一度溶けたらしくぐちゃぐちゃになって固まっていたらしい(笑)

    2006-07-07 22:01:00
  • 73:

    ◆tnuaeqIXn.

    そうして3月の頭。
    インドで書いた手紙は、その土地土地で送ったが、最後の日に書いた手紙と、かけまくったテレホンカードを持ち、成田へ着いた

    「…レキ!こっち!」
    2度目の対面は、帰国のその日だった

    2006-07-07 22:04:00
  • 74:

    ◆tnuaeqIXn.

    久しぶりに会う彼は少しやせ、伸びかけていた髪を短く切っていた
    ちょっとかっこよくなっていた彼
    反面私は、1人旅のためにバックパック、タンクの上に向こうで買った超アジアンなカーデ(しかもずっと着ていたから汚い)、極めつけは最後に泊まったホテルがシャワーなしだったため、今日で4日お風呂に入っていない…
    「ごめんな、向こうから直やしあたしめっちゃ汚いカッコ…」

    2006-07-09 22:04:00
  • 75:

    ◆tnuaeqIXn.

    「汚くないよ、気にしすぎだろ(笑)」
    気にしすぎとかじゃないやろ…と思いながら下を向く
    「お帰り。元気で帰ってきてくれて良かった」

    2006-07-10 23:07:00
  • 76:

    ◆tnuaeqIXn.

    その言葉に上を向くと、彼は右手を伸ばし私の頬に触れる
    そのまま彼はゆっくり口づける

    私の視界は彼一色になる
    目を閉じると彼の体温が優しく優しく伝わってきて、何だか泣きたくなる

    2006-07-10 23:12:00
  • 77:

    ◆tnuaeqIXn.

    彼といると、彼にふれると、いつもいつも泣きたった。
    7年経った今でも、本当に不思議に思う

    2006-07-10 23:17:00
  • 78:

    ◆tnuaeqIXn.

    生まれて「今」までずっと、幸せだったことも悲しかったことも、全てをそのまま優しく包む
    何を言うわけでも何をするわけでもないのに、それら全てを癒してくれる

    2006-07-10 23:20:00
  • 79:

    ◆tnuaeqIXn.

    キリ、…キリはきっと、自分だけのしんどさだけじゃなく、私のしんどさも全てあなたが背負ってくれてたんやね
    あなたはあなたの背負うものだけで押しつぶされそうだった時も、私の分も引き受けてくれてたんやね…

    2006-07-10 23:23:00
  • 80:

    ◆tnuaeqIXn.

    どれくらい時間が経っただろう
    そっと唇を離し、キリは私の右手をつかむ
    「行こっか」

    空港から外へ、キリの横顔を斜め後ろから見つめながら歩いていく

    2006-07-10 23:28:00
  • 81:

    ◆tnuaeqIXn.

    トランクにバッグを積んで車に乗り込む
    「こないだは案内してもらっかたら、今日はオレに任せてな。行きたいとこは明日つれてってやるからさ」

    2006-07-10 23:32:00
  • 82:

    ◆tnuaeqIXn.

    キリが大好きだという上野・浅草をまわり、軽く晩御飯をとる
    車に乗り込んですぐこそ、久々の再会に緊張したが、夜になる頃にはすっかり打ち解けていた

    2006-07-10 23:40:00
  • 83:

    ◆tnuaeqIXn.

    「さ〜!ホテル行く前に最後のとこ行くぞ〜!」
    「え、どこ行くん?」
    「それは内緒やな!」
    「あ〜また…」
    「久々に関西弁使ったわ(笑)」

    2006-07-10 23:43:00
  • 84:

    ◆tnuaeqIXn.

    しばらく走った頃、キリは車を止めた
    「オレが京都行った夜、お前が言ったこと覚えてる?」
    「何?」

    2006-07-10 23:52:00
  • 85:

    ◆tnuaeqIXn.

    「公園行ったじゃん?」
    「うん」
    「お前さ、星が見たいって言ったじゃん」
    「…うん」
    「…だから、ここ。これが東京の星だよ。オレがいっつも見てる星だよ」

    2006-07-10 23:54:00
  • 86:

    ◆tnuaeqIXn.

    「…くさいけどな」
    「ほんまや(笑)めっちゃくさい(笑)…でもありがとう」
    「いーえー(笑)」
    目の前にはレインボーブリッジと、観覧車と、走る車のテールランプと…本物ではないけれど、夜も明るい空に浮かび上がるそれらは、星だった

    2006-07-10 23:59:00
  • 87:

    ◆tnuaeqIXn.

    遊歩道に横になり、2人空を見上げる
    「…こうしてたら、空に落ちそうにならへん?」
    「空が落ちるじゃなく?」
    「空に…」

    2006-07-11 00:02:00
  • 88:

    ◆tnuaeqIXn.

    それからしばらく、海岸沿いにある赤やオレンジの鉄骨のやつが、キリンに見えるとか、本当にしょうもない話しをし続けた
    「…行こうか」

    2006-07-11 00:04:00
  • 89:

    ◆tnuaeqIXn.



    ホテルに入ると、この間も2人で部屋にいたにも関わらず、変に緊張した

    2006-07-11 00:07:00
  • 90:

    ◆tnuaeqIXn.

    「先シャワー使う?」
    「ん〜、後ででいいわ」
    「…お前何テレてんだよ(笑)」
    「テレてないし(●`ε´●)」
    「じゃあ先入るけど、覗かないでね(^з^)-☆」
    「キモイ〜(>_

    2006-07-11 00:10:00
  • 91:

    ◆tnuaeqIXn.

    シャワーを終え、ビールを飲みながらまたくだらない話しをしながら、電気を消す

    2006-07-11 00:11:00
  • 92:

    ◆tnuaeqIXn.

    キリがそっと私に触れ、キスしてくる
    キリの舌が遠慮がちに入り、指先でうなじや耳を撫でられる
    「…んんっ…」
    「耳、弱いの?」
    そのままキリの舌が耳の中まで舐めてくる
    「や…っ」

    2006-07-11 00:16:00
  • 93:

    ◆tnuaeqIXn.

    耳からうなじ、鎖骨、胸へとキリの唇が下がる
    バスローブの上から触っていた右手が、胸元を割り、直接触れてくる
    「んんっ、…っあ…」

    2006-07-11 00:21:00
  • 94:

    ◆tnuaeqIXn.

    「気持ちいいの?」
    「や…っだ……ぁぁっ…」

    耳元で囁かれると、ぞくぞくしてどんどん濡れてくるのが自分でもわかる

    2006-07-11 00:24:00
  • 95:

    ◆tnuaeqIXn.

    キリの赤い舌が、私の右の乳首を舐め、咬んでくる。
    「やぁっ…」

    2006-07-11 00:27:00
  • 96:

    ◆tnuaeqIXn.

    左の乳首もつままれ、右手は下着の上からクリをゆっくりとなぞる
    「あっ、やっ…」
    ふとキリが口元を胸から離す
    「これが手術した跡?」

    2006-07-11 00:30:00
  • 97:

    ◆tnuaeqIXn.

    私には、鎖骨の真ん中から1?ほど下の位置から、すっかり肌の色となじみ、けれど膨らみでそれとわかる腺が、肋骨の下まである
    それをいやらしく舐めながらキリは聞いてきた

    2006-07-11 00:34:00
  • 98:

    ◆tnuaeqIXn.

    「いつ手術したんだっけ?」
    「んんっ、…ご…っさ…」
    「何?はっきり喋れよ」
    「ご…さ…っ」
    その瞬間、指先が直接クリに触れた。キリの少しざらざらした舌で舐められながら乳首を痛いくらいつままれる。

    2006-07-11 00:41:00
  • 99:

    ◆tnuaeqIXn.

    「やぁ…っ」
    「すっげ濡れてんじゃん、何だよおとなしそうな顔してるくせに」
    「…っなこと、っ…言わ…っとい…てよぉっ…」
    「はっきり言わないとわかんねーって」
    「む…りぃっ…」

    2006-07-11 00:48:00
  • 100:

    ◆tnuaeqIXn.

    そのあとはもう、気持ちよさに我を忘れ、ほとんど覚えていない

    ただ、終わってからキリが傷跡をそっとなでながら「生きててくれて、ありがとうな」と、そう言った事だけはおぼろげに覚えている

    2006-07-11 00:50:00
  • 101:

    名無しさん

    おもろい(´∀`)ノ?

    2006-07-13 01:44:00
  • 102:

    名無しさん

    あげ??

    2006-07-16 11:35:00
  • 103:

    ◆tnuaeqIXn.

    106、107さんありがとうございます(*^_^*)
    ゆっくりですが更新していきますね

    2006-07-17 00:05:00
  • 104:

    ◆tnuaeqIXn.

    それからの私たちは、月に1〜2度のペースで東京と京都を行き来した。
    日々のメールや?で、お互いの行ってみたい場所や、お互いの土地ならではのお土産物をリサーチするのもまた楽しかった。

    2006-07-17 00:10:00
  • 105:

    ◆tnuaeqIXn.

    寂しさや会えないもどかしさはなかったわけではない。
    もっと会えたなら…そう思うこともたびたびあった。些細なすれ違いやケンカ、相手が悩んでいたり辛い悲しい夜、毎回毎回そう感じた
    「会いたい」その気持ちが苦しくて、大学や仕事をやめて一緒に住もうかと話すことすらあった

    2006-07-17 00:15:00
  • 106:

    ◆tnuaeqIXn.

    最初の夏、キリはGID専門に診れる大学病院へ行った
    ホルモン剤投与のためだ。民間の(美容)整形外科でもそれはできたが、いずれ訪れる改名や戸籍変更のためには、日本では3つの大学病院のうちのいずれかでカウンセリングや治療が必要と当時されていた。

    2006-07-17 00:20:00
  • 107:

    ◆tnuaeqIXn.

    最初のカウンセリングの後、キリは言った。
    公的な受け入れ体制のある病院の少なさから、関東以北の手術以降を望むGIDが全て集まる。
    「だから受付から受診まで、半端じゃない時間がかかるんだよ。仕事もあるしそこまで時間もかけられないし、将来不利かもしれないけど、民間に行こうと思うんだ…」

    2006-07-17 00:25:00
  • 108:

    ◆tnuaeqIXn.

    その言葉は私にとってショックだった
    子供だった私は、よく話した、「手術が終わったら2人で住もうか。改名が終われば、親にもお互いきちんと紹介できるよね。戸籍変更ができたら、結婚しよう」…そんな一筋の将来の光が、また遠のいた気がしたのだ

    2006-07-17 00:29:00
  • 109:

    ◆tnuaeqIXn.

    キリからすれば、遠い遠い、いつ来るかもわからない将来より、まずは少しでも日常の苦しみや「女だとバレるかも」という不安から逃れる事が先決だったのだろう

    結局のところ、そういう意味では、当時私は彼の親身にはなりきれなかった

    2006-07-17 00:32:00
  • 110:

    ◆tnuaeqIXn.

    彼とセックスの最中、話すようになったことがある
    「オレが将来ペニスつけたらさ、入れれるじゃん?でも精液は出ないだろ?…代わりに一回でいいからしたいことあるんだ」
    「なに?」
    「…しょんべん、一回だけ出させてほしいんだ」
    「長い射精やな(笑)…いいよ、あんたから出るものならあたしの中に出して」

    2006-07-17 00:36:00
  • 111:

    ◆tnuaeqIXn.

    彼が男がして当たり前のことを、当然ながら全てしたがった
    トイレも男子トイレ、胸はナベシャツと呼ばれるガードル状のもので締め付けて目立たなくし、青姦をしたがった。
    男の象徴である射精もしたがって不思議はなかった。
    余談だが、尿管に通して立ちションができるようにするチューブがある。一時それを買おうか彼は悩んだが、それはさすがに止めた。そんなことで尿道にばい菌が入って入院にでもなれば、当然女子室に入れられてしまう。ギリギリで保っている男のプライドずたずただ

    2006-07-17 00:44:00
  • 112:

    ◆tnuaeqIXn.

    男のプライドと言えば、彼はあくまでノンケであろうとした。
    多くのGID特にFTMの人間は、やはりわかちあえる仲間と出会いたいという気持ちがある。
    そのためビアンバーやMIXバー、マイノリティのクラブイベントへ出入りする。
    けれど普通の男なら、そういう場所へは出入りしない

    2006-07-17 00:48:00
  • 113:

    ◆tnuaeqIXn.

    「だから絶対そんな場所へは行きたくない」
    仲間を作ることで、逆に自分が女だと認識しそうなのが怖い。そう言った。
    一人だからこそ感じる孤独はきっとあっただろう。不安もあったと思う。
    それでも自分がどうしたら自分であり続けられるか。
    それをきちんと把握できるところやある種のそんな強さも、私はすごく好きだった

    2006-07-17 00:53:00
  • 114:

    ◆tnuaeqIXn.

    大きく話はずれたが、ホルモン注射をめぐって、初めて私たちは真剣に話し合いをした
    「そんなんして、もしそのせいで手術できんくなったらどうするん?胸はそりゃ美容整形でできるけど、下はできひんやろ?それに戸籍変更とか改名には、医大での資料必要なるやん!」
    「わかってるよ!わかってるけど、医大だったら月一しか注射できないんだよ。美容整形なら初期段階に有効って言われてる月2もできるし、時間と金が許せば毎週だってできる。したらヒゲだって早く生えるかもだし、声だって早く低くなるんだよ!」

    2006-07-17 01:02:00
  • 115:

    ◆tnuaeqIXn.

    「…わかるよ、わかるけど…」
    あなたが一番ほしい将来に向けて、確実な場所で受けてほしい…
    私だってあなたがそうしてくれることで、ついて行くことに対して時折感じる不安が減るのに…私の不安も軽くしてほしい…

    2006-07-17 01:06:00
  • 116:

    ◆tnuaeqIXn.

    その2つが心の中で叫ぶほどあったが、とても言葉にはできなかった。
    私のエゴでしかないことは何より自分自身一番わかっていたし、彼が本当に望む将来とは別に、今感じる苦痛から逃げたいという気持ちも痛いほど感じていたからだ。
    そして彼に対してそれを言ってしまえば、彼の、気持ちの逃げ場であるはずの私が、彼にとってそうでなくなってしまうのだろうことも想像がついた。

    2006-07-17 01:14:00
  • 117:

    ◆tnuaeqIXn.

    そして言い止まってしまった一番の理由は、彼が「そんな風に思うのは、オレが男でなくGIDだからだ。オレが女だからだ」…そう捉えてしまいかねないと思ったからだ
    うまく言い表せないが、私にすれば「男だから」将来を考えたいと望み、そう進んでいきたいと思うからこそそんな不満が出てきた

    2006-07-17 01:19:00
  • 118:

    ◆tnuaeqIXn.

    けれど彼からすれば、イコール女として見られているから、なのだ。
    オレが女なばかりにごめん。ちゃんとした男じゃないばかりにごめん。
    言葉にこそしないけれど、彼がそんな風に感じていることはまま伝わってきた
    私たちの望み。それは本質的には同じなのに、立場の違いから、物事の捉え方は大きく異なった
    彼との付き合いで最も苦しかったことは、その一点に尽きる。

    2006-07-17 01:24:00
  • 119:

    ◆tnuaeqIXn.

    キリ、今も昔も変わらず言えることがある。
    あんたはトランスであることで苦しんできたし、あたしをも苦しめてると思ってたやん?
    確かにトランスであるからこそ、社会的に将来どうなるんやろうかとか、ホルモン注射で体壊したり早死にしやすいって話聞くから不安はある
    やけどあたしは、あんたがトランスなことも含め、あんたがあんたであることそのものを、愛してる

    2006-07-17 01:30:00
  • 120:

    ◆tnuaeqIXn.

    あたしにいつか言ってくれたように、あんたも苦しみの中、あたしと出会ったあの日まで生きてきてくれたことに、感謝してるねん

    生まれてくれて、生きてきてくれて、…ほんまにありがとう

    2006-07-17 01:33:00
  • 121:

    名無しさん

    応援してます!

    2006-07-19 14:12:00
  • 122:

    ◆tnuaeqIXn.

    125さん、ありがとうございます!

    2006-07-19 14:55:00
  • 123:

    ◆tnuaeqIXn.

    一週間ほどの話し合いの末(なんせお互いに「こう!」と決めたら頑固なもんで…)、ヒゲが生え始めるまでは美容整形で注射する。
    生えたら医大での治療に切り替える。

    2006-07-19 15:00:00
  • 124:

    ◆tnuaeqIXn.

    ハイペースでの注射が、どんな副作用を彼にもたらすか私は不安だった
    一般に♂が♀ホルモンを、♀が♂ホルモンを投与し始めると、ホルモンバランスが崩れ、骨密度が低下する。副作用は個人差はあるが、症状は必ず現れる。
    そして一旦投与し始めると、その後は定期的に一生投与し続けなければならないと言われていた。
    それはすなわち副作用との一生の付き合いになるということと、それによる寿命の短期化を意味した

    2006-07-19 15:06:00
  • 125:

    ◆tnuaeqIXn.

    その頃の私は、絵画に変化が現れ始めていた
    もともと自分の心疾患や震災(実家は神戸です)もあり、「生きる」ということに興味はあったが、それをどう表せばいいかや、それに対して伝えたい何かがあったわけではなかった。
    キリとの出会いや旅行(夏はギリシャとトルコでした)を通し生まれた感覚が、徐々に自分の中でイメージとして形になってきていた

    2006-07-19 15:14:00
  • 126:

    ◆tnuaeqIXn.

    夏の終わり、私は以前は苦手としていた人物画を描きあげた
    顔は描かない

    2006-07-19 15:28:00
  • 127:

    ◆tnuaeqIXn.

    体育座りのような態勢で足とお腹や胸がくっつくようにし、横から見ると、不思議なラインがそこにできる。
    密着した時のラインが主役の絵だ。背景はそのラインを作り出した体そのもの。
    キャンパスは一面隙間なく背中、腕、太ももや足、胸、腹で覆われている。けれど全身でなく、また正面からでもないこと、全体の色のトーンから、これが人体とはひどくわかりにくい。
    ラインが最も象徴するもの、それは脂肪と水分。自然と全体に白っぽく、温かみのあるブルーや薄いピンクが主体となった。

    2006-07-19 15:33:00
  • 128:

    ◆tnuaeqIXn.

    「water&fat」というあまりにもまんまなタイトルのその絵で、私は苦しみ続けた受験絵画からようやく脱皮できた。
    後にこの絵が、また私にとっての転機となるが、この時はまだそんなことを想像もしない先の話だ。

    2006-07-19 15:39:00
  • 129:

    ◆tnuaeqIXn.

    夏の終わりのある朝、キリから?が入った。
    「おはよ、今日早いやん!どしたん?」
    「聞ーてよ〜!ひ、ひげ生えた!」
    「えっまじで!?」
    「2本だけだけどね、ちょろーっと!」
    「うわ〜っ、ついにやな!おめでとう!」

    2006-07-19 15:44:00
  • 130:

    ◆tnuaeqIXn.

    待ち望んでいた男性化への一歩だ。
    また、この頃には無理に声を低く出さなくても、自然と低い声で話せるようになってきていた。

    2006-07-19 15:48:00
  • 131:

    ◆tnuaeqIXn.

    翌週のキリの誕生日、彼は京都へ来た。
    久しぶりに会う彼は少し痩せ、心なしか精悍な顔立ちに変わっていた
    「うわ〜何か雰囲気変わったなあ」
    「ほんと?男前になった?」
    「うん、かっこよくなった…(笑)」
    「お前笑いながら言うからウソくせーんだよ!ヾ(`Д´)ノ」

    2006-07-19 15:55:00
  • 132:

    ◆tnuaeqIXn.

    今まで私はデート気分を楽しみたくて、会うときは食事は全て外食だった。
    だけど今日は兼ねてからのキリのリクエストもあり、夕飯とケーキを作っていた。
    彼の好きなもののオンパレードだ。ミートソースパスタに肉じゃが、角煮、カレー、おでんに出汁巻きにチンジャオロース、味噌汁
    めちゃくちゃな取り合わせだし半端でない量だが、キリは大食いだしまあ問題ない(笑)

    2006-07-19 16:00:00
  • 133:

    ◆tnuaeqIXn.

    「えっ、お前料理作れたんだ!」
    「いつもは作ってるってだから言ってたやん」
    「だって絶対作ってくれないんだもん、絶対ウソだと思ってた…で、これどこで買ったの?(笑)」
    「しつこい!」

    2006-07-19 16:03:00
  • 134:

    ◆tnuaeqIXn.

    おいしいおいしいとキリは出されたもの全て平らげた
    またデブるよ、と言ったらキリは、少し悩んで「いいや」と答えた

    お互いを素直に信じて笑いあえていたこの頃が、一番幸せだったと思う

    2006-07-19 16:06:00
  • 135:

    ◆tnuaeqIXn.

    秋に入った頃から、キリは頻繁に腹痛を訴えるようになった

    これが副作用の始まりだった

    2006-07-19 16:08:00
  • 136:

    ◆tnuaeqIXn.

    最初は一瞬の激痛が走る程度だったのだ
    それが日に何度も起こるようになり、痛みのある時間が長引くようになってきた

    2006-07-19 16:11:00
  • 137:

    ◆tnuaeqIXn.

    「病院行っておいでよ」
    「大丈夫だって、それに呼ばれる時、名前呼ばれるじゃん…」
    「そうやけど…副作用じゃなくて何かの病気やったらどうするん」
    「だーいじょうぶだって!オレぁ不死身だし!」

    2006-07-19 16:14:00
  • 138:

    ◆tnuaeqIXn.

    そう言ってキリは頑なに病院へ行こうとはしなかった

    2000年問題でいよいよ世間がわき返るようになってきた秋の終わり、ある?が入った

    2006-07-19 16:16:00
  • 139:

    名無しさん

    それは東京の市外局番から始まる、見知らぬ番号だった。
    とてもイヤな予感がしたのを今でもはっきりと覚えている

    2006-07-19 16:20:00
  • 140:

    ◆tnuaeqIXn.

    「…もしもし?」
    「こちら●●病院救急科で、受付の○○と申します」

    2006-07-19 16:22:00
  • 141:

    名無しさん

    きになる(*_*)

    2006-07-19 17:03:00
  • 142:

    ◆tnuaeqIXn.

    146さん、リアルタイムで読んでくれてた…のでしょうか??

    2006-07-20 01:36:00
  • 143:

    ◆tnuaeqIXn.

    キリは給油中トイレに立ち寄り、そのままそこで倒れたらしかった。
    免許不携帯で、ちょうどお揃いで買ったばかりのドッグタグに刻んであった私の?しかわからず、連絡してきたらしい。
    「実家の?今から言いますから、一旦そちらに連絡してもらえますか?」
    そのまま病院の最寄り駅と行き方を聞き?を切った

    2006-07-20 01:42:00
  • 144:

    ◆tnuaeqIXn.

    ぎりぎりまだ新幹線の終電はある。
    この時間帯、タクシーより電車の方が早いかな…と財布とケータイ、タバコだけ持ちながら一瞬考え、家を出る

    2006-07-20 02:22:00
  • 145:

    ◆tnuaeqIXn.

    新幹線の二時間がいつにも増して遅く感じる
    東京に着いてからの乗り換えが少しでもスムーズにいくよう、電車内でも移動する。
    「容態とか聞いとけば良かった…」

    2006-07-20 02:26:00
  • 146:

    ◆tnuaeqIXn.

    ドッグタグからしか連絡先がわからなかったくらいだから、まだ意識が戻らないのだろうか?
    注射の副作用?でも今は月一でのはず、そこまで急激に強烈に出るものなんだろうか?まさか。
    違うなら他の病気だろうか。
    「ムリにでも病院行かせれば良かった…」

    2006-07-20 02:29:00
  • 147:

    ◆tnuaeqIXn.

    考えても仕方ない想像と嫌な考え、後悔の念が止まらない
    「死なんといてやぁ…」
    窓ガラスに反射し、一瞬映った私は眉毛が下がりひどくぶさいくな顔になっていた

    2006-07-20 02:34:00
  • 148:

    ◆tnuaeqIXn.

    病院に着き、夜間入り口から案内された部屋に入ると、そこに点滴につながれたキリがいた

    2006-07-20 02:35:00
  • 149:

    ◆tnuaeqIXn.

    「キリ…」
    「レキ、来たんだ…」
    意識があることにほっとし、次には、意外と元気そうで、でもやっぱり顔色の悪いキリを見て、何だかわからない感情が押し寄せる

    2006-07-20 02:38:00
  • 150:

    ◆tnuaeqIXn.

    「何があったん?大丈夫なん?」
    「ごめん」

    2006-07-20 02:39:00
  • 151:

    ◆tnuaeqIXn.

    キリは私に嘘をついていた。
    月一の注射を医大で受けながら、別に毎週2回美容整形で受け、その上輸入ホルモンサプリまで飲んでいたのだ。
    加えて少しでも痩せればラインがシャープになり、もっと男らしくなると考えた彼は、最近では食事もほとんど接っていなかった。極めつけはナベシャツを一回り小さいものにしていた。(普通サイズですら、呼吸するにも十分胸が膨らみきらず苦しいようなものなのに…)
    「……あほ……?」

    2006-07-20 02:47:00
  • 152:

    ◆tnuaeqIXn.

    何やってんの…という気持ちと、それでも無事でいてくれて良かったという気持ちがせめぎあう
    「オレばかだな」
    そう言いながらキリが手を伸ばし、私の左手に触れた

    2006-07-20 02:49:00
  • 153:

    ◆tnuaeqIXn.

    その腕につながれた点滴の痛々しさと、それでも暖かく伝わってくる彼の体温に、抑えていた不安と安堵、怒りとそこまでしてしまわずにいられなかった彼の心へのやるせなさに、張りつめていた心がぷつりと切れた

    2006-07-20 02:52:00
  • 154:

    名無しさん

    今日ずっとリアルで読んでます?頑張って下さい☆

    2006-07-20 02:54:00
  • 155:

    ◆tnuaeqIXn.

    涙が出て止まらなかった。彼の手を握りしめ声を殺して泣く私に、彼は体を起こして抱きしめてくれた
    「…〜っ!!」
    「ごめんな、レキごめん…」

    2006-07-20 02:55:00
  • 156:

    ◆tnuaeqIXn.

    1時間後、2本の点滴を終えて帰宅することになった。
    ちょうど彼の母親が来た時には意識も戻っていたことと、点滴量の多さに時間がかかることもあり先に帰宅してもらっていたらしい。
    「お母さんにはカムしてなかったんちゃうん?」
    「してない…」
    「バレんかったん?大丈夫なん?」
    「あんま食ってなかったことだけ伝えたから…」

    2006-07-20 03:02:00
  • 157:

    ◆tnuaeqIXn.

    「そっか…」
    「…レキさぁ、今日家泊まるだろ?…紹介とカム一気にしちゃっていい?」
    「…」

    2006-07-20 03:04:00
  • 158:

    名無しさん

    考えたいとだけ言い、病院から家まで20分の距離を手をつないで歩く

    「…紹介もカムも、今日はやめとかへん?」

    2006-07-20 03:08:00
  • 159:

    ◆tnuaeqIXn.

    「え、何で?」
    「お母さん今日それでなくても心配しはってんで…。それにキリ、怖いんやろ…?」

    2006-07-20 03:12:00
  • 160:

    ◆tnuaeqIXn.

    カムも紹介も、する方はすごく勇気がいる。
    けれど彼の母親からすれば、もっと精神的な体力がいる話だ。
    彼女からすれば、いくら男っぽいとはいえ、昨日まで「娘」と信じていた子供(しかも3人兄弟で唯一の娘…)だ。
    「実は自分は男です。体を男に戻すために今日倒れちゃいました。そしてこの子が彼女です」なんて突然言われたら。

    2006-07-20 03:16:00
  • 161:

    ◆tnuaeqIXn.

    しかも彼は年がいってからの子供のため、母親も今や結構な年だ。
    ただでさえ受け入れにくいだろう話を、そういくつもするには酷だ。
    絶縁されてもおかしくはない。泣かれるのはもっと不思議はない。
    何よりその反応を彼が怖がっているのを、うすうす感づいていた。

    2006-07-20 03:20:00
  • 162:

    ◆tnuaeqIXn.

    言葉足らずな部分のある彼は、もしかしたらそのフォローを私に期待しているのかもしれなかった。
    けれどこんなにもデリケートな問題に、ほとんど初対面の私がからんでは、母親も素直な気持ちは言えないだろうし率直な話し合いは期待できないだろう。
    「きちんと話し合うためにはあんたがまずベストな状態でないとあかんやろ?もしそれで話し合いうまくいかんかったらあたしがフォローするから。やから一回目の話し合いは2人でしぃ」

    2006-07-20 03:25:00
  • 163:

    ◆tnuaeqIXn.

    159さん、イッコイッコ時間かかってしまっていてすみません(>_

    2006-07-20 03:30:00
  • 164:

    ユゥ☆

    159です?ぉつかれサマです?

    2006-07-20 03:39:00
  • 165:

    名無しさん

    上のものです。リアルタイムでよんでました 笑 でも更新早くてとてもうれしいです

    2006-07-20 11:31:00
  • 166:

    名無しさん

    読んでるょ?頑張って?

    2006-07-22 14:59:00
  • 167:

    名無しさん

    ????????????????????????

    2006-07-22 22:21:00
  • 168:

    名無しさん

    更新楽しみ?

    2006-07-23 15:34:00
  • 169:

    名無しさん

    あげ?

    2006-08-02 02:04:00
  • 170:

    ◆tnuaeqIXn.

    ユウさん、170〜174さん、長いことすみませんでしたm(_ _)m
    更新は明日昼過ぎ〜夕方頃行いますね(>_

    2006-08-02 14:39:00
  • 171:

    名無しさん

    お願い?

    2006-08-24 15:48:00
  • 172:

    名無しさん

    かかへんの!?まってます?

    2006-08-25 16:38:00
  • 173:

    ◆tnuaeqIXn.

    主です(>__

    2006-09-09 01:01:00
  • 174:

    ◆tnuaeqIXn.

    キリの母。その人は、正直あまり尊敬できたり人から好かれたりするタイプの人ではない。
    来客があっても挨拶にすら出ず、娘たちが帰宅してもお帰りすらない。料理も洗濯も、掃除も大嫌いな人だ。
    キリが人当たりが良く温厚な性格に育ったのは、だから少し不思議だ。時折垣間見る情緒不安定な所は、FTMということが原因なのかと思っていたけれど、もしかしたら少しは母親から受けてきた影響もあるのかもしれない。

    2006-09-09 22:22:00
  • 175:

    ◆tnuaeqIXn.

    秋も深まったその夜、二人で手をつなぎ横になりながら窓から星を見ていた。
    東京にもかかわらず、キリの家からは星がきれいに見えるのだ。
    …あまりにもむちゃくちゃでアホ過ぎる原因だったけれど、とにかく無事でいてくれて良かった。
    またこうして一緒に同じ星を見ることができて良かった。

    2006-09-09 22:30:00
  • 176:

    ◆tnuaeqIXn.

    「もうムリせんといてな」
    「うん。ホントに心配かけてごめんな…」

    あなたが無事でなくちゃ、意味が何もないものばかりになってしまうよ…

    2006-09-09 22:50:00
  • 177:

    ◆tnuaeqIXn.

    それから2週間。23回目のキリのバースデイがやってきた。
    ケーキとプレゼント持参、料理すらできないと思っていたキリだから、絶対むちゃくちゃ驚くんだろうなあ…

    キリのリアクションを想像してニヤニヤしながら、いつもの待ち合わせ場所、八重洲南口へ。ここのレンガ造りの駅舎が、情緒あって好きだ。

    2006-09-09 22:53:00
  • 178:

    ◆tnuaeqIXn.

    右手を見ると、すでにキリの車があった。名前は忘れたけれど外車でセダン、小柄なキリにはちょっと渋すぎる感じだ。車はかっこいい。車は(笑)
    「お待たせ〜。」そう言って先にケーキを置こうと、後部ドアを開ける。「そこに箱あんべ。やるよ。」「え、何々??」
    箱だけ取って、前に乗り込む。開けると、指輪が出てきた。
    以前キリに言ったことがある。「一緒に指輪しようよ」
    だけど恥ずかしいから、「誰とおそろい」と会社の人に聞かれると困るから、と断られてしまった指輪。
    「…どしたん」
    「サイズでかいかもだけどな〜」

    2006-09-09 23:00:00
  • 179:

    ◆tnuaeqIXn.

    「答えなってないし!!」「…なんか!な!…こないだのことでさ!!俺にはお前がぴったりなんだなって思ったんだよ。」
    俺の今までの彼女ってさ、わりとこう、自分のことだけみたいなやつが多くてさ。俺のこと考えてしてるみたいなことでも、結局自分のためだったりするわけだよ。そんな中でお前がホントに見返りなしで俺のそばにいてくれる気がしたんだよ。

    2006-09-09 23:05:00
  • 180:

    ◆tnuaeqIXn.

    「だからそんな周りのことばっか気にしてちゃだめだなって思ってさ…。お前が欲しがってた指輪くらい一緒にしたいなと思って。それと…なんつーの?…やっぱマーキングしときたいじゃん…」
    「マーキングて!!(笑)」
    嬉しくて恥ずかしくて、テレながら笑う。
    お前笑いすぎ!とキリは頬を膨らませながら、車を出した。

    2006-09-09 23:08:00
  • 181:

    ◆tnuaeqIXn.

    どこ行こうか〜、と話しながらご飯を食べてからドライブ。横浜行きたい、中華食べて山下公園でデートみたいなベタなことしたい!そう言うと、「だっせーよ!!」とキリは笑った。

    もう秋の夕方だし、暗くなってきたからライトアップしてるかな〜と言いながら、いったん東京タワーを見て、そして横浜へ向かう。
    おりしもこの時、台風上陸。夜が深まるにつれ、雨風が強くなってきていた。

    2006-09-09 23:14:00
  • 182:

    ◆tnuaeqIXn.

    キリ、キリ、…

    この頃が幸せだったね。
    この後もたくさんたくさん、色んなことがあったけど、それでも二人でいられたから幸せだったね。
    あなたがいれば、あなたさえいれば、私は幸せだったよ。
    あなたはどうだった?
    あなたも幸せだと感じてくれていた?

    もう今となってはあなたに確かめることすらできないけれど…

    2006-09-09 23:16:00
  • 183:

    ◆tnuaeqIXn.

    横浜の夜。風がごうごううなってはいたけれど、私は観覧車に乗りたい!!と駄々をこねた。
    「まーじムリ!!だって見てよ!あれ!観覧車あれジェットコースターみたいになってんじゃん!!」
    確かに観覧車は前後左右に激しく風に揺られている。
    もともと絶叫系が苦手なキリは、絶対ムリだ…
    「けち!!」そう言うと、「けちでいい!あんなの乗ったら俺絶対もらすから!!」
    必死の形相でいうキリがとてもかわいかった

    2006-09-09 23:20:00
  • 184:

    ◆tnuaeqIXn.

    …ここまで私が書いていなかった、私のもうひとつの趣味。写真。旅行はもちろん、日常生活も常に持ち歩き、東京に来るときももちろん持ってきていた。
    この台風の様子をファインダーに収める私を見て、キリは撮りたいと言い出した。
    操作を教え、キリはシャッターを押す。
    あなたが残してくれた、あなたの面影のひとつ。

    2006-09-09 23:22:00
  • 185:

    ◆tnuaeqIXn.

    久々の更新は、今日はここまでです。また読んでくれる方いたらメッセージくださいね。

    2006-09-09 23:24:00
  • 186:

    名無しさん

    俺もFtMです。応募してるので更新頑張ってくださいね。

    2006-09-10 00:35:00
  • 187:

    ◆tnuaeqIXn.

    キリの体調は一時に比べ回復していた。
    うるさいくらい「投与量守って!!」って言ってたから。

    2006-09-28 05:07:00
  • 188:

    ◆tnuaeqIXn.

    …秋が深まるにつれ、キリには口癖が増えた
    「お前もどうせ男のとこ行くんだろ?」
    「ホントにオレのとこいていいのか?ホントに幸せか?」

    2006-09-28 05:10:00
  • 189:

    ◆tnuaeqIXn.

    学生時代の友達が、結婚したり出産したりが続いたことが、原因のひとつだったんだと思う
    「あたしはキリがいたらそれが幸せやで」
    初めはああ、不安なんだな、仕方ないよね、安心させてあげたい…そう思って返事していたけれど、いつも返ってくる返事は決まっていた
    「自分の幸せちゃんと考えろよ」

    2006-09-28 05:15:00
  • 190:

    ◆tnuaeqIXn.

    1ヶ月が過ぎる頃、私は何と言えば安心させてあげられるのかがわからなくなってきていた
    「あたし何て言ったげたらいいんかもわからんくなってきた」「キリのこと好きやのに…、何回もそうやって言われたら、ほんまにそうなんかなって不安になってきてしまってる部分あるねん」
    そう友達に洩らすようになっていた

    2006-09-28 05:19:00
  • 191:

    ◆tnuaeqIXn.

    そんな中、キリが京都へと来た
    普段気まずい雰囲気になりつつあったけれど、せっかく久々に会っている今、ちゃんと仲直りしたい…
    「なあ年始旅行行かへん?」

    2006-09-28 05:22:00
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