小説掲示板ヒマワリのスレッド詳細|夜遊びweb関西版

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ヒマワリ

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  • 1:

    ガチャガチャ・・。玄関のドアが開いた。
    「お帰り〜♪」
    ゆりが帰ってきた。もうそんな時間か。

    2006-06-30 21:38:00
  • 2:

    「あぁ、ただいま。お疲れさん。」
    おかしな会話に聞こえるかも知れないが、俺達はいつもこうだ。
    仕事を終えて帰ってきたのは俺じゃない。
    俺は何時間も前に家に帰ってきて、既にお寛ぎスタイルだ。
    普通、仕事終わって、家に帰ってきたら、
    「ただいま。」って言うだろ?
    でも、ゆりは違う。
    家に帰ってきて、俺の顔を見ると、「お帰り♪」って言うんだ。

    2006-06-30 21:44:00
  • 3:

    俺達は生活時間帯が、全く逆だ。
    ゆりは、9:00〜17:00が拘束時間の、会社員。
    OLさんってヤツだ。
    俺の仕事は基本0:00から。
    でも、終わるのは何時かなんて決まっていない。
    状況によってまちまちだ。

    2006-06-30 21:48:00
  • 4:

    夜のお仕事。酒作って、飲んで、会話でお客様を楽しませる・・。
    そうそう、ホストだよ。
    「忙しかった〜?」
    「・・・あぁ、そうだな・・。」
    俺は携帯の画面を睨んだまま答える。
    「お腹空いたでしょ?すぐご飯作るからね。」

    2006-06-30 21:51:00
  • 5:

    ゆりは、スーパーの袋から、魚や、野菜を取り出して料理を始める。
    今日のメニューはなんだろう・・。
    ゆりが食事を作る間、俺は客にメールを送ったり、
    スタッフからの来客報告をまとめたり。
    俺はフロアマネージャーと言う肩書きを頂いている。
    役職だな。

    2006-06-30 21:55:00
  • 6:

    今の店に入店して・・・えっ〜と、あぁ、もう5年だな。
    早いよな、時間が経つのって。
    三流大学を出て、就職浪人。
    これといってしたい事もなく、毎晩クラブに出入りしてはしゃいでいた。
    ナンパもよくしたなあ。

    2006-06-30 21:59:00
  • 7:

    そんな毎日を過ごしていたある晩、
    ナンパのあてが外れて、夜の街をフラフラしていた。ら、
    「ねえ、君ホストしてみない?」
    と、店の代表にスカウトされた。
    仕事何もしていないし、タイクツだったから、
    「やります。」
    ってその場で即答した。
    それに、何かかっこいいじゃん。ホストって。

    2006-06-30 22:04:00
  • 8:

    「出来たよ〜。」
    メシが出来上がったみたいだ。
    城メシ、焼き魚、ゴマ和え、肉じゃが、味噌汁。
    これぞ和食って感じだよな。
    ありがたく、頂きます。と。

    2006-06-30 22:08:00
  • 9:

    「今日ね〜、うちの課長がね〜、
     ほら、おじさんってさ〜・・・。」
    ゆりの会社ネタが始まった。
    会社員になった事のない俺にはよく分からんが、
    どうやら、その課長さんとやらが、ゆりの今のツボらしい。
    ・・・課長さんって、どのくらい偉いんだ?
    まあ、とにかく「偉い人」なんだろう。

    2006-06-30 22:19:00
  • 10:

    ゆりの話は、あっちこっちに飛び回る。
    え?今その話、何か関係あるの?って、初めは戸惑った。
    しかし、最終的には無事に元の位置に収まり、
    話がちゃんと繋がっている。
    ・・・ある意味天才だよな。

    2006-06-30 22:24:00
  • 11:

    今日のゆりの、「課長さん」ネタは、要約するとこう言う事だった。
    ゆりは、入社した時、先輩にこう言われたらしい。
    「課長の後ろに立っちゃだめよ。下手すると大変な事になるから。」
    何のことだろう?ゆりは入社以来ずっと疑問に思っていたらしい。
    そして!今日、その謎が解けた。

    2006-06-30 23:19:00
  • 12:

    「今日ね、課長に付いて銀行回りしてね、
     ほら、社用車なんて・・・」
    えっと、ゆりは課長さんと地下鉄に乗ったらしい。
    地下鉄は、車両がホームに入ると、風が吹くだろ?
    ゆりは先輩の助言を忘れて、「課長さん」の後ろに立っていたらしい。

    2006-06-30 23:24:00
  • 13:

    「あ!いけない!」
    そう思った瞬間、足元から風が吹き上げて・・・
    「課長、カゲムシャみたいになったの!」
    ・・・カゲムシャ・・・?何の事だ?
    ポカンとしている俺に、ゆりはその時の状況を夢中で説明する。

    2006-07-01 12:52:00
  • 14:

    課長さんの髪が風で乱れ、短髪がロン毛になったらしい。
    襟足だけが、めちゃくちゃ長いロン毛。
    頭頂部は不毛地帯だった・・・。
    ・・・お前・・・それ・・・
    落ち武者だろ・・・。

    2006-07-01 12:57:00
  • 15:

    その後の課長さんの対処は素早く、
    一瞬にして、片手で髪を定位置に戻したそうだ。
    「鏡も見ないで、セットできるんだねえ〜。課長すごいよねえ〜♪」
    その後の課長さんのお気持ちお察しするよ。
    同じ男として、人事じゃねえ・・・。
    俺は鏡に映った自分の生え際に、チラリと目をやった。

    2006-07-01 13:07:00
  • 16:

    食事中、ゆりは一人でしゃべり続ける。
    俺はそれを、テレビを見るような気持ちで聞いている。
    仕事中俺はしゃべりっぱなしだから、
    家に帰ってきて、この状況はとても楽だ。
    「寝るよ。」

    2006-07-01 13:20:00
  • 17:

    「あ、うん。おやすみ♪」
    メシが終わると、俺は即爆睡に入る。
    俺が寝てる間に、ゆりは洗濯、アイロン。
    家事は一切、ゆりがこなす。
    俺が起きると、シャツにはしっかりとアイロンが掛けられ、
    テーブルには夜食が置いてある。
    脱衣所の洗濯物は靴下一枚も残っていない。

    2006-07-01 16:33:00
  • 18:

    よく出来た女だよな・・・。
    俺はめちゃくちゃ感謝してたよ。
    でも、そんな毎日が当たり前だと思ってたんだな。
    例えて言うなら、朝になったら太陽が昇るように、
    夏になったら、ヒマワリが咲くみたいに、
    不変的に繰り返していくものだと思ってた。
    ずっとこのままで居られるんだと思ってたよ。

    2006-07-01 16:56:00
  • 19:

    「一真さん、おはようございます。」
    事務所でパソコンいじってると、スタッフのナツロウが入ってきた。
    「あぁ、おはようさん。」
    「一真さんいつも出勤早いですよね。・・・あ、飲みます?」
    ナツロウはお茶を淹れ始める。
    「あぁ、頼むよ。お前も今日早いじゃないか。」
    「ええ、早く起きちゃったんで・・・。」

    2006-07-01 17:23:00
  • 20:

    ナツロウはカップをデスクに置いた。
    「お、サンキュ。」
    「いえ。」
    ナツロウは俺の隣のデスクの椅子に腰掛けてお茶を啜っている。
    「なあ、お前今月ナンバーやばいぞ。」
    俺はディスプレイから顔を上げてナツロウを見た。

    2006-07-01 19:21:00
  • 21:

    ナツロウはお茶を飲み込むとにかっと笑った。
    「ええ、難しいですね。」
    「おいおい、他人事みたいな事言うなよ。
     どうした?いつも10位以内に必ず入ってんだろ。」
    ナツロウはお茶を飲みながら何か考えている風だった。

    2006-07-01 19:27:00
  • 22:

    「客単価が大きければ、ナンバー入れるんでしょうけど、
     それだけ目的にお客を煽ってもね・・・。
     長く続かないでしょ?」
    「まあ、それはそうだけどな。」
    「自分のやり方で最善を尽くして出た結果ですから。」
    ナツロウは椅子の上で軽く伸びをした。

    2006-07-01 19:42:00
  • 23:

    こいつはいつもマイペースだ。
    闘争心って物があまりないんだろうな。
    そのゆるりとした感じが、俺には心地よくて、
    こいつにはついつい何でも話したくなる。
    これがきっとナツロウの魅力なんだろうな。

    2006-07-01 19:47:00
  • 24:

    しかし、まあ、こいつの場合客数は結構なもんだ。
    煽らず、色使わずでここまで売れてんだから、すげえよな。
    「一真さんは今月も入りそうなんでしょ?」
    「まあ、なんとかな。・・・お、そろそろだな。」
    開店の時間になった。

    2006-07-01 20:54:00
  • 25:

    開店直後の店内は、まだのんびりしている。
    数時間後には満席だけどな。
    「いっらっしゃいませ!」
    新規客が来店。俺は席に案内する。
    料金システムを説明し、担当決めの為に、アルバムを渡す。
    「気になるスタッフは、何人でも構いませんので、
     遠慮なく仰って下さい。お席まで参りますので。
     最終的に担当を一人決めていただく事になります。」

    2006-07-01 23:44:00
  • 26:

    今までに何千回と繰り返した台詞。
    最初はかみまくってたけど、今じゃ流暢なもんだ。
    お客は目を輝かせてアルバムに見入る。
    アルバムって言うか、カタログ?メニューだよな。
    俺達の顔写真、簡単なプロフィールが載せてある。
    ドリンクやフードのメニューと同じようなもんだ。
    俺達はここの商品だからな。

    2006-07-02 00:02:00
  • 27:

    昔でこそ、勢いでお客に色かけたり、煽ったりもあったけど、
    25歳くらいになって、「俺、何やってんだ?」って、
    気恥ずかしくなってな。
    少しずつ軌道修正して、今のキャラクターに落ち着いた。
    お客の入れ替わりはあったけど、無理なく仕事が出来るようになったよ。

    2006-07-02 17:24:00
  • 28:

    そうするには結構な努力も必要だったけどな。
    ただ甘い言葉と、笑えるだけの話だけじゃ、成り立たないと思ったからな。
    自分自身の幅を広げようと思った。
    歳相応の接客ができなきゃと、自分を律したよ。
    まあ、それでも今もシャンパンコールになると、はしゃいじゃうけどな。

    2006-07-02 17:38:00
  • 29:

    役職の肩書きも頂いて、フロアー全体に目を配り、
    新人の教育にも力を入れなきゃならんくなった。
    自分の営業成績だけ考えてる訳にもいかんしな。
    そろそろ若いもんに、道を譲らにゃならん時期なんだろう。
    それでも、ナンバー入りしてる俺を、
    俺は自分で褒めてんだけどな。自画自賛。

    2006-07-02 17:50:00
  • 30:

    「ねえ、一真、あのヘルプ感じは悪くないけど、
     全然喋らないのよね。」
    3年来の馴染み客が俺にこぼした。
    「そりゃ悪い事したな。ごめんな。」
    「ううん、いいんだけどさ、礼儀正しいし、見た目も悪くないじゃん?
     素材いいのにもったいないよ。」

    2006-07-02 18:12:00
  • 31:

    お客のこう言ったストレートな意見は、俺にとって非常にありがたい。
    なんだかんだ言って、新人に目が届かない時は、多々あるからな。
    それにお客の意見はシビアだ。
    あまりにややこしい事を言われると、聞き流す事もあるが、
    大抵はありがたく心に留める。

    2006-07-02 18:22:00
  • 32:

    今回駄目だしをくらった新人君は、
    入店3ヶ月目の那智だ。
    お客が言う様に、礼儀正しいし、テーブルマナーも会得して、
    無愛想な訳でもない。ルックスもいい。
    ただ、しゃべれない。
    この間、ナツロウとも話してたんだけどな。

    2006-07-02 18:33:00
  • 33:

    ナツロウからもアドバイスを受け、那智はそれを実践しているらしい。
    普段から、無口な訳でもないらしい。
    で、二人の予想は、羞恥心が邪魔するんじゃないか?って事だった。
    さて、どうしたものか。
    とりあえず、「帰りヒマ?」と、那智を営業終了後、メシに誘った。

    2006-07-02 18:40:00
  • 34:

    「お疲れさん。」「お疲れ様です。」
    行き付けの飯屋に入り、ビールで乾杯した。
    那智は向かい側で、背筋を正して座っている。
    説教食らうと、身構えてんだろうな。
    「お前もっとリラックスしろよ。俺まで緊張しちゃうよ。」
    「はい、すいません。」

    2006-07-02 18:54:00
  • 35:

    「お前いくつだっけ?」
    「20歳っス。」
    ・・・若ぇな、オイ。
    「前職はバーテンダーだって?」
    「はい、3年弱っスけど。」

    2006-07-02 19:06:00
  • 36:

    「へえ、また何でホストに?」
    俺の質問に、那智は躊躇いがちに口を開いた。
    「金、貯めたかったんス。・・・自分の店開く資金の為に。」
    へえ・・・。俺は本心から感心した。
    「お前、ちゃんと目標持ってんだな。」
    「あ、そんな甘いもんじゃないって、分かってんスけど・・・。」

    2006-07-03 22:46:00
  • 37:

    「いや、俺がお前の歳の頃は、全然将来のビジョンなんてなかったよ。」
    那智は俺のグラスにビールを注ぐ。
    「そうっスか?」
    「うん。な〜んも考えないで、だらだら大学行ってたよ。
     別に、夢ってもんもなかったなあ。」
    俺は那智のグラスに、ビールを注ぎ返してやった。
    「あ、ありがとうございます。」

    2006-07-03 22:52:00
  • 38:

    こいつすげえ輝いてるよ。眩しいよな。
    「酒の勉強はしてるのか?」
    「はい!今も休みの日は色んなバーに行きますし、
     家でも、カクテルの研究してますね。ツレに飲んでもらったり。」
    「今度さ、店で俺にも何か作ってくれよ。
     そんで、酒の事皆にも色々教えてやってくれ。」
    「はい!」

    2006-07-03 23:05:00
  • 39:

    「それとさ、今みたいに楽しそうに、
     店でもお客さんに話してみろよ。」
    那智の動きが止まった。
    「・・・そうっスよね・・。」
    「俺の客がな、お前の事褒めてたよ。いい仕事が出来るはずだって。」
    「・・・そうっスか?」

    2006-07-03 23:09:00
  • 40:

    あ〜あ〜、すっかり凹んでやがる。
    「実際俺もそう思うし、ナツロウも同じ気持ちだぞ。」
    「はい・・・。あの・・・。」
    「うん?何だ?」
    「俺の話なんて、おもしろいって思ってもらえますかね?」
    何と!やっぱそうか・・・。

    2006-07-03 23:12:00
  • 41:

    俺は出来るだけ穏やかな口調で話した。
    「あのな、お前がどう思われるか、じゃなくて、
     どうしたら、お客さんが楽しんでくれるかって考えろよ。」
    那智はまた、背筋を伸ばして、真っ直ぐ俺を見る。
    「こいつおもしろくない、って思われたら格好悪いとか思うなよ。
     格好悪くてもいいじゃねえか。
     一所懸命お客さんに楽しんでもらおうと頑張ってる方が
     俺は、全然格好いいと思うぞ。話が滑ってもいいじゃねえか。」

    2006-07-03 23:25:00
  • 42:

    「それにな、俺は今お前の話し聞いてて、すげえおもしろかったぞ。
     なんかさ、気持ちが熱くなったよ。
     それはさ、きっとお前が好きなこと、楽しそうに話してるからだと思うぞ。」
    「はい。」
    「まずさ、お客さんと話すって事を楽しんでみろよ。好きになれよ。
     怖がらなくていいんだよ。俺達もフォローするじゃねえかよ。」
    「はい。」

    2006-07-03 23:38:00
  • 43:

    「お前さ、場の空気もよく読めてると思うよ。
     それは、バーテンダーにも必要な事だろうしな。
     身に付いてるって思うしな。後は、少しの勇気だよ。」
    那智は目を潤ませる。おいおい、俺が苛めてるみたいじゃねえか。
    「ありがとうございます!俺、頑張ります!」
    ・・・声がでかいよ・・・。でも、いい返事だ。

    2006-07-03 23:43:00
  • 44:

    那智と飯屋の前で別れ、俺はマンションに帰ってきた。
    スーツを脱ぐと、スウェットに着替え一先ず眠る。
    数時間眠ると、ゆりが帰ってくる少し前に一度起きる。
    仕事を片付けながら、ゆりの帰りを待つ。
    一緒に暮らし始めて、一年が経つが、
    いつの間にか、こんな生活サイクルになっていた。

    2006-07-05 18:51:00
  • 45:

    ゆりとであったのは2年くらい前だな。
    その頃あいつはまだ大学生で、本屋でバイトしていた。
    ある日俺は読みたい小説を探して、その本屋に入った。
    文庫本コーナーをくまなく探したが、どうも見当たらない。
    近くにいた店員に聞いてみる事にした。
    「あの〜。」

    2006-07-05 19:01:00
  • 46:

    「はい!何かお探しですか!?」
    やけに明るい店員だった。少し面食らうほどだったよ。
    「えっとですね、道頓堀川っていう小説を探してるんですが・・。」
    俺の言葉に店員の笑顔は、更に輝いた。
    「ああ!宮本輝さんの小説ですね!あれすっごくおもしろいですよね!!」
    いやいや、俺まだ読んだ事ないんだって。

    2006-07-05 19:09:00
  • 47:

    店員は嬉しそうに書棚を探しながら、話し続けた。
    「道頓堀川はね、映画にもなりましたよね〜。
     あ、私は残念ながらまだ観た事ないんですけどね〜。」
    そうなんだ・・・。
    「後ね、幻の光っていう小説もね、あ、宮本さんのですけどね、」
    宮本さんって・・・知り合いかよ。
    「あれも、映画になりましたね〜。・・・。」

    2006-07-05 19:57:00
  • 48:

    おいおい、何だ?急に黙り込んだぞ・・・。
    「すいません!お客様!」
    「え?」
    眉毛を八の字にして、店員は俺に向き直った。
    「探したんですけど、どうも品切れみたいなんです・・・。」
    ああ、何だ、それだけかよ。大げさだな・・・。

    2006-07-05 20:01:00
  • 49:

    「お時間おありでしたら、カウンターまで来て頂けますか?
     お取り寄せしますので・・・。」
    いやいや、本屋は他にもあるしな。
    「いやあ・・・そうですねえ・・・。」
    「ほんとおもしろいんですよ!
     登場人物達の孤独や葛藤が美しく描かれてるんです!」

    2006-07-05 20:11:00
  • 50:

    何だこの子・・・。そう思った瞬間俺は笑い出していた。
    「あの・・・。」
    俺はうんうんと頷いて、カウンターを指差した。
    「是非読みたくなったよ。取り寄せてもらおうかな。」
    店員はパッと表情を明るくさせて、
    「ありがとうございます!」
    と、俺をレジカウンターに誘導した。

    2006-07-05 20:17:00
  • 51:

    俺は注文書に名前と電話番号を書いて、店員に渡した。
    「ありがとうございます。恐らく3日ほどで入荷いたしますので、
     入り次第すぐにご連絡差し上げますね。」
    店員は控え書を綺麗に折りたたんで俺に渡した。
    その時名札に目が行った。「北山」が彼女の名前だった。
    「じゃあ、頼んだよ。北山さん。」
    「え?あ、はい!ありがとうございました!」
    俺は北山さんに見送られて本屋を後にした。

    2006-07-05 20:24:00
  • 52:

    ちょうど3日後に、俺の携帯にメッセージが入っていた。
    「OO書店です。先日はご来店ありがとうございました。
     ご注文の本が入荷致しましたので、ご連絡差し上げました。
     お待ちしております。」
    北山さんの声だった。
    俺はなぜかメッセージを何度も繰り返して聞いた。
    ・・・何やってんだ?俺。

    2006-07-05 21:25:00
  • 53:

    仕事が終わると、俺はその足で北山さんの本屋へ向かった。
    店内に入ると、北山さんの姿はなく、
    カウンターにはおっさんが一人いた。
    「すいません、これ・・・。」
    と、俺は控え書を差し出した。
    「ぇえ〜っと・・・。あ、はい、ありがとうございます。」

    2006-07-05 21:54:00
  • 54:

    おっさんはカウンターの背後にある棚から、注文した本を出した。
    「はい、こちらですね。」
    「はい。・・・あの・・・。」
    おっさんはレジから顔を上げて、俺を見た。
    「はい。何でしょう?」
    「今日は北山さんはお休みですか?」

    2006-07-05 21:58:00
  • 55:

    おっさんは何故か、心強い微笑で
    「今日は北山は休みですよ。」
    と答えた。
    「ああ・・・。」
    「彼女は土日祝日しか出勤してきませんよ。」
    「そうですか。」

    2006-07-05 22:03:00
  • 56:

    「あ、それと夕方から来る時もありますね。たまにですけどね。」
    「あ・・・分かりました。どうも。」
    俺は会計をして外に出た。
    家に帰ってすぐに、本を読みふけった。
    確かに北山さんの言うように、おもしろい小説だった。
    俺は小説の世界に吸い込まれていた。

    2006-07-05 22:29:00
  • 57:

    道頓堀川を読み終えて、俺は北山さんの言う、
    「美しい孤独と葛藤」
    の意味が分かったような気がした。
    登場人物達は、それぞれに影を引きずりながらも、
    光を求めて、あがき、純粋に生きている様に俺は思った。
    そして、俺はその事を、北山さんに伝えたくなった。

    2006-07-06 16:10:00
  • 58:

    「一真さん、何読んでるんですか?」
    ナツロウが横から覗き込んだ。
    「うわっ!お前脅かすなよ!」
    事務所のデスクで、本に没頭していて、
    ナツロウが入ってきた事にも気が付かなかった。
    「それ、何の本ですか?」

    2006-07-06 19:19:00
  • 59:

    俺は、本を閉じると表紙を見せた。
    「・・・幻の光?ああ。」
    「ああって、お前知ってんのか?」
    ナツロウは受信したメールを確認しながら答えた。
    「読んだ事はないですけどね。映画は観ましたよ。」
    素早い指技でナツロウは返信を終えると、携帯をポケットに仕舞った。
    「へえ。映画どうだった?」

    2006-07-06 19:26:00
  • 60:

    少し難しい顔をして、ナツロウは言葉を探していた。
    「う〜ん・・・静かな映画でしたね。
     映像が綺麗だった事しか覚えてないんですよ。」
    ストーリー関係ないじゃねえかよ。
    「あまり面白くなかってことか?」
    ナツロウは苦笑いすると、首を縦に振った。

    2006-07-06 19:33:00
  • 61:

    「でもね、主人公の女が、辛い過去を受け入れて、
     それでもその過去と共に生きていく姿は良かったですね。」
    「・・・そうか。」
    「原作と映画は少し違うかも知れないですけどね。」
    そう言ってナツロウは事務所を出て行った。
    ナツロウの感想を踏まえて読んでみるとするか。

    2006-07-06 19:40:00
  • 62:

    「あ、いらっしゃいませ!」
    北山さんは、俺の顔を見るなり笑って挨拶した。
    「幻の光はもう読み終わられましたか?」
    「うん。」
    あれから俺は日曜日のたびに、この本屋へ通う様になった。
    そして少しだけ北山さんと立ち話をした。
    そうしていく内にだ、俺は彼女ともっとゆっくり話がしたくなったんだよ。

    2006-07-06 21:28:00
  • 63:

    「北山さん、バイト何時まで?」
    「え?今日は6時までですけど・・・。」
    彼女は俺が今日選んだ文庫本にカバーを掛ながら、不思議そうな顔をした。
    「良かったら、終わったら食事にでも・・・。」
    俺は声のトーンを落としてそう言うと、メモを渡した。
    メモを準備してるあたりが、かわいいよな、俺。

    2006-07-06 21:35:00
  • 64:

    照れくさくなって俺は、本を掴むと、さっさと店を出た。
    北山さんの表情を確認する余裕もなかったな。
    メモには俺のアドレスと番号が書いてあった。
    連絡もらえるか分からんが、俺はとりあえず喫茶店に入って、待機する事にした。
    時間は4時30分だった。本を読んでりゃすぐに6時になるだろう。

    2006-07-06 21:39:00
  • 65:

    ところが待ってる時間って、長く感じるもんだな。
    俺は本よりも、時計が気になって仕方なかった。
    文章に集中出来なくて、5分おき位に時間を確認したよ。
    やけにソワソワして、傍から見りゃ、挙動不審者だ。
    「頼む!かかって来い!」
    携帯様に拝みたくなったよ。

    2006-07-06 21:48:00
  • 66:

    6:45。携帯様が光を放つ。
    見知らぬ番号。多分北山さんだ。
    「はい!」
    「あの・・・北山ですけど。」
    来たっ!俺は心の中で拳を握り締める。
    「はい。えっと今どこにいる?」

    2006-07-07 18:56:00
  • 67:

    「バイト先を出たとこなんですけど、
     せっかくですけど、私家に帰らなきゃいけなくて。」
    俺は落胆を押し殺して、つとめて明るく振舞った。
    「そうかあ〜。残念だな〜。」
    「ごめんなさい。」
    北山さんは申し訳なさそうに謝った。

    2006-07-07 19:05:00
  • 68:

    「いやいや、急に誘って悪かったよ。
     そしたら、今度時間ある時に食事に行かないか?」
    電話口から戸惑う北山さんの様子が伺えた。
    「え・・・あの・・・。」
    ここで引いちゃ、男がすたる。俺はここ一番押してみる事にした。
    「俺さ、北山さんから、色々面白い本を教えてもらいたいんだよ。
     俺の感想とか、聞いてもらいたいしさ。要するに・・・。」

    2006-07-07 19:10:00
  • 69:

    俺は一旦息を継いで続けた。
    「俺は北山さんともっと話がしたいんだよ。
     駄目かな?」
    北山さんは少し警戒心を解いた様だった。
    「はい。分かりました。ありがとうございます。」
    俺はメールを送ってもらうように頼んだ。
    そして、近いうちに会おうという事になった。
    頑張ったよな。俺。

    2006-07-07 19:15:00
  • 70:

    しかしだ。俺にはどうしても言い出せない一言があったんだよな。
    それは仕事の事だよ。
    「俺、ホストなんだよ。」
    この一言だけが喉の奥に詰まって言葉にできなかったんだよ。
    夜の仕事だとは言ってあったが、詳しくは話していなかった。
    彼女の反応が怖かったんだよな。俺って小心者だよな。

    2006-07-17 22:32:00
  • 71:

    なんかさ、ホストっていう職業に苦手意識を持ってる人って多いじゃないか。
    女を騙して・・・とかさ。
    でも、俺はこの仕事、プライドもってやってるつもりだよ。
    どんな形であれ、真剣に打ち込んでれば、胸張っていいんだよな。
    俺なりに葛藤してた訳だ。

    2006-07-17 22:44:00
  • 72:

    メール、電話を繰り返して半月。
    ようやく北山さんと食事に行く約束に漕ぎ着けた。
    俺は決心した。
    その日が勝負だ。
    引かれてもいいから、俺の仕事を明かそう。
    なんかさ、フェアじゃないじゃないか。

    2006-07-17 22:53:00
  • 73:

    世の中には「嘘も方便」っていう言葉もあるように、
    ついておいたほうがいい嘘もあるらしい。
    それは多分相手の為の嘘なんだろうな。
    でも、おれの仕事に関してはその定義には全く当てはまらないよな。
    それっきりになっても構わないから、
    ちゃんと「俺」を知ってもらおう。
    それが、俺の誠意の見せ方だ。

    2006-07-17 23:01:00
  • 74:

    「一真さん、すいません。ちょっと。」
    ナツロウがキャッシャーの前で俺を呼び止めた。
    お客がさっき外に出て行った。
    そういえば、さっきそのお客の卓が、何だか尋常じゃない雰囲気だったな。
    「どうした?ナツロウ。」
    ナツロウは平静を装っていたが、表情が強張っていた。

    2006-07-17 23:46:00
  • 75:

    「すいませんけど、5番卓、未収にしておいてもらえますか?」
    伝票を確認すると、かなりの金額になっていた。
    「大丈夫か?」
    ナツロウは少し表情を曇らせた。
    「はい。もしもの時は、ちゃんと俺が責任持ちますんで。」
    「分かった。」
    ナツロウは「すいません。」と頭を下げると、外に出て行った。

    2006-07-17 23:51:00
  • 76:

    ひと悶着ありそうだな・・・。
    ナツロウはお客の愚痴を漏らすことはほとんどないが、
    あのお客に関しては、最近ぽつりとこぼした事があった。
    「すごく、悪い予感がするんですよ。」って。
    とりあえず、今のところナツロウのお客はいないから、
    様子を見る事にしよう。
    しかし、俺はあいつが戻ってくるまで、気が気じゃなかったよ。

    2006-07-18 22:35:00
  • 77:

    1時間近く経っただろうか?
    さすがにまずいと思い、俺が外に出ようかと扉を開けると、
    赤い目をしたナツロウが立っていた。
    「おい・・・お前・・・。」
    「すみません。長い時間・・・。」
    人目に付かないように、俺はバックヤードにナツロウを連れて行った。

    2006-07-20 00:30:00
  • 78:

    「大丈夫かよ?」
    「ほんとすみません。あの・・・、
     携帯を取りに来たお客さんが、店前で待ってるんで・・。」
    俺は事務所に置いてある、忘れ物を思い出した。
    「ああ、お前のお客のやつだな。
     俺が渡してくるから、お前ここで待ってろ。」
    「すいません。お願いします。よろしく伝えておいて下さい。」
    「ああ、分かったよ。」

    2006-07-20 00:37:00
  • 79:

    バックヤードに戻ると、ナツロウは姿勢を正して俺に頭を下げた。
    「一真さん、ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。」
    「大丈夫なのか?」
    「はい、未収が回収できなければ、俺・・・」
    俺はナツロウの肩を掴んだ。
    「そんな事じゃねえよ、お前の気持ちの事言ってんだ。」

    2006-07-20 00:45:00
  • 80:

    俺の言葉にナツロウは笑って答えた。
    「大丈夫です。ありがとうございます。」
    「吐き出したい事があるなら、いくらでも聞くよ。
     溜め込むんじゃねえぞ。」
    「はい。ありがとございます。」
    「よし。じゃあ、顔洗って来い!」
    「はい!」

    2006-07-20 00:51:00
  • 81:

    その後ナツロウは何事もなかった様に、いつもと変わらない様子で接客を続けていた。
    あいつは多分泣いたんだろうな。
    営業終了後に、俺はあいつを食事に誘った。
    あいつは微笑んで「是非。」と答えた。
    何で笑っていられるんだろうな。

    2006-07-25 21:54:00
  • 82:

    「で、何があったんだ?」
    俺が単刀直入に切り出すと、ナツロウは少し黙った。
    「興味本位とか、そんなんで聞いてんじゃないからな。それは分かってるだろ?」
    「それは、もちろん分かってます。」
    「俺は、一応役職だ。トラブルに関しては把握しておきたいからな。」
    ビールにも手を付けず、俺達は話し込んだ。

    2006-07-25 22:00:00
  • 83:

    ナツロウの話は、直引きを客から申し出られたとの事だった。
    要するにツバメだな。
    ナツロウがはっきりと断ると、そのお客はキレたらしい。
    「一真さん、俺達は金をもらえれば、
     何でも仰せのままに・・・って思われるんですよね。」
    ナツロウは目を伏せて呟いた。初めて見るあいつの表情だった。

    2006-07-25 22:06:00
  • 84:

    「そんな風に思われてしまうのは、仕方ないことだよ。
     お前もそれくらいのリスクは覚悟で、ホストになったんだろ?」
    俺はぬるくなったビールを飲み干した。
    「お前がそんな事が出来ない奴だって俺は分かってるよ。
     普段からガツガツしてないしな。
     そんなお前が良いって客はたくさんいるよ。」

    2006-07-27 15:24:00
  • 85:

    ナツロウは俺のグラスにビールを注ぐと口を開いた。
    「リスクは覚悟していました。
     でも、やっぱそれをぶつけられると、きついですね。」
    ナツロウは苦笑いした。
    「まあ、綺麗事だけで通る世界じゃないからな。
     金が欲しいのは本当だしな。」

    2006-07-27 15:31:00
  • 86:

    「なあ、今一番何が心に引っ掛かってるんだ?」
    ナツロウは首を傾げて、少し考えた。
    「・・・それがね、特にないんですよ。
     バンスを被る事も、あの客が切れる事も、怖くはないですね。」
    「まあ、金はこれから働きゃ、どうにでもなるしな。
     じゃあさ、潰しとかは不安じゃないのか?」
     

    2006-07-27 15:39:00
  • 87:

    ナツロウは大きく笑った。
    「ああ、それがありましたね。」
    「怖いからなあ、俺も他人事じゃないからな。」
    ナツロウはようやくビールに口を付けた。
    「例えば、掲示板の書き込み?ですか?
     それも覚悟しとかなきゃいけないでしょうね。」

    2006-07-27 15:45:00
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