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情に脆く、尾行に失敗 “へっぽこ探偵”なのに、悩める依頼人はみな救われるって、一体どんな探偵?(Book Bang)

 ひょんなことから探偵をすることになった主人公は、ハウツー本を頼りに調査を行うが、尾行がバレたり、調査対象と友達になってしまったり、依頼人に説教をしたりなど、とても“へっぽこ”。けれども、そんな「プロじゃない探偵」だからこそ築ける依頼人との関係性があり、関わる人はみな救われていく――。

 一筋縄ではいかない事件の末に、じんわりと胸が温まり、悩める依頼人達の心を救う「新感覚の探偵小説」! 本書の読みどころを、書評家の細谷正充さんが解説する。

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 俊英・桜井鈴茂は、人と人のかかわりから生まれるドラマと感情を描き続けている。これはミステリーでも変わらない。2016年に双葉文庫から刊行された『どうしてこんなところに』は、成り行きで妻を殺して逃亡犯になった主人公が、各地の人たちと交流する物語であった。そして最新刊となる本書は、成り行きで私立探偵になった主人公が、なぜか事件の関係者と交流してしまう連作集である。

 権藤研作はバツ二の中年男。会社を解雇され、友人や知人の家や部屋を泊まり歩いて暮らしていたところ、旧知のカゲヤマとバッタリ再会。編集プロダクション兼広告制作会社社長のカゲヤマにライターとして雇われ、住処も世話された。以後、真面目に働いている。

 ところがテレビドラマ『探偵物語』が好きだというカゲヤマは、権藤に私立探偵になることを命じる。ノリノリのカゲヤマは、探偵事務所を開設し、権藤の名刺を、高円寺の〈シオン〉を始めとする夜の店にバラまいた。

 という笑える展開で、イヤイヤ私立探偵になった権藤。第1話では、癌で余命一年の可能性が高い岩澤めぐみから、浅沼裕嗣という、かつての不倫相手を捜してほしいと頼まれる。めぐみは裕嗣に、あやまりたいことがあるらしい。この依頼を引き受けた権藤は、裕嗣の足跡を追う。

 カゲヤマが愛読していた『決定版・探偵術入門』を頼りにした権藤の行動は、きわめてオーソドックスだ。関係者の話を聞き、地道に対象に迫っていく。だが調査そのものは一筋縄ではいかない。浮気調査をする第2話、ニートの行動を見張る第3話、過去の友人を捜すよう依頼される第4話と、どれもストーリーは意外な方向に転がっていく。それは権藤が探偵らしくない選択をするからだ。でもそこから、主人公と依頼の関係者とのかかわりが生まれ、物語は温かな場所に着地する。この読み味が心地よい。

 そして、権藤の仕事に協力してきた、〈シオン〉のリサコが依頼人となる第5話を経て、第六話でめぐみの依頼に戻る。カゲヤマやリサコまで加わった騒動の果てに迎えたラストは、やはり温かなものであった。連作としての完成度は、非常に高いのだ。

 さらに各話を通じて、徐々に露わになっていく主人公の人間性も読みどころ。軽薄なようで真面目。他人の人生に踏み込む探偵という仕事により、自分の人生にも踏み込んでしまう。そんな権藤の不器用な生き方に、魅了されてしまうのである。

[レビュアー]細谷正充(文芸評論家)
1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。

小説推理 2021年7月号 掲載

提供元:Yahooニュース
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