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人気作家の描く伝統と土着のチャイニーズ・マジックリアリズム(レビュー)(Book Bang)

 河南省延津に伝わる、夢の中に現れては笑い話をせがむ美しい仙女・花二娘。死んで幽霊になった女。市井の人々。「一日三秋」という門額を掛けた店。などなど、亡き叔父が生前に描き、全部焼かれてなくなってしまった絵をつなげて小説にする。嘘か誠か、作者によるそんな宣言で幕を開けるのが、中国の人気作家・劉震雲の『一日三秋』だ。

 まず登場するのが、伝統演劇の役者だった陳長傑&桜桃夫妻と李延生。夫婦げんかの末、首を吊って死んでしまった桜桃が李延生に取り憑き、陳長傑に言いたいことがあるので、彼が再婚相手と暮らす武漢に連れていってほしいと頼むところから、物語は大きく動き出す。

 李延生が何とか算段をつけて武漢に到着して以降、スポットライトが当たるのは、陳長傑と桜桃の6歳になる息子・明亮だ。桜桃は、自分の存在に気づいた息子に今度は取り憑くのだけれど、母子の睦まじい日々は長くは続かず、陳長傑の再婚相手の奸計によって、桜桃は明亮から引き離されてしまう。生まれ故郷の延津に家出をした明亮が、李延生の家に寄宿して成長し、豚足が名物の店で修業をして、やがて結婚。妻の過去が明るみに出ることで延津にはいられなくなり、西安で豚足の店を出し、成功するまでの年月を描くこの第三部はビルドゥングスロマンとして読みごたえがある。

 しかも、最後まで読み通せば、作者が宣言したとおり、亡き叔父の絵に描かれた生者と死者と花二娘にまつわるエピソードは全部、ちゃんと小説の中に登場することがわかるのだ。巧みなストーリーテリングと、その中に盛り込まれる笑い、つらい出来事とそれを覆す温かな人情噺。「一日三秋」の意味がわかる頃には、この物語世界に魅了されてしまっている自分に気づくはずだ。伝統と土着を物語る声に奇想を溶け込ませるチャイニーズ・マジックリアリズムの逸品としておすすめする。

[レビュアー]豊崎由美(書評家・ライター)

新潮社 週刊新潮 2023年2月2日号 掲載

提供元:Yahooニュース
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