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家事・家計よりもっと根源的な夫婦の「フェアな関係」を同人誌出身の新鋭が描き出す(レビュー)(Book Bang)

 最近は新人賞を経由しないと小説家デビューは難しくなったが、かつては同人誌で研鑽を積み、そこで見出されるというパターンが多かった。近年では、昨年急逝した西村賢太はこの伝だし、前回の芥川賞受賞者、高瀬隼子も同人誌出身だという。

 私は、文学の退潮の一因は、ともかく他人と違うことを求めて実験に走りすぎることにあると思うが、その点、同人誌経験者は読者を意識しているのでリーダブルだ。

 新人賞を経由しない作家・兼桝綾のこの第一小説集には、とりたてて突飛なテーマも先鋭的実験もないが、既に小説家として鍛えられた目が光っている。それは、作者に詩誌「骨おりダンスっ」での同人としての経験があるからだろう。ここには、今を生きる読者の誰もが関わりを持たずにはいられない日々の問題が詰まっている。

 表題の「フェアな関係」三部作で問題にされるのは、夫婦間の家事や家計におけるフェアネスよりもある意味もっと根源的なことである。三十代のセックスレスカップルを描く。妻はしたいが子は欲しくない。夫は子が欲しいがそのための行為には積極的でない。このような場合、どのようにして「フェアな関係」を築くことができるのか。

 男女逆の話なら今までもよくあったかもしれないが、これは女性の側から、その内面をあけすけに語るものである。しかも語り手は、たんに周囲を非難することで自身の不満を解消しようとするのでなく、他者の立場をも慮る。だからこそ悩みを深めてしまうところもあるが、この態度は、作者が読者の視点をも意識することと同型だ。

 語り手の子を持つことへの思いは、出産・育児が障害となる女性の働き方の問題とも連動している。つまりは社会の誰しもに通ずるものだ。

 大上段に振りかぶることなく、日常の細部を炙り出す作家の今後と、新人賞に拠らずとも彼女に続く者たちの登場を期待したい。

[レビュアー]伊藤氏貴(明治大学文学部准教授、文芸評論家)

新潮社 週刊新潮 2023年1月19日号 掲載

提供元:Yahooニュース
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