
-
夜遊び夜遊び
-
お水お水
-
ホストホスト
-
風俗風俗
-
ビューティビューティ
-
ファッションファッション
-
悩み相談悩み相談
-
モデルモデル
-
芸能芸能
-
雑談雑談
-
食べ物・グルメグルメ
-
生活生活
-
恋恋
-
インターネット・ゲームネット・ゲーム
-
ギャンブルギャンブル
-
過去ログ倉庫過去ログ倉庫
-
運営運営
KADOKAWA元社長・佐藤辰男×『ロードス島戦記』水野良 対談。異例の小説家デビューを果たす佐藤氏“70歳の処女作”は『もしドラ』のような自己啓発エンタメ小説を目指している…!?(電ファミニコゲーマ

-
KADOKAWAの元社長・佐藤辰男氏が自ら小説家としてデビューする。そんなニュースに思わず耳を疑った方も多いのではないだろうか。だがこれは紛れも無い事実であり、そのデビュー作『怠惰な俺が謎のJCと出会って副業を株式上場させちゃった話』はついに12月21日(水)に発売された。
『怠惰な俺が謎のJCと出会って副業を株式上場させちゃった話』画像・動画ギャラリー
佐藤氏はパソコン誌の黎明期において雑誌「コンプティーク」の創刊を手がけ、ライトノベルの一大潮流となったメディアワークス社や電撃ブランドの創立にも携わってきた。まさに現代のライトノベル文化シーンを作り上げた、キーパーソンのひとりと言える人物だ。
2018年にカドカワグループの役員を退任し、コーエーテクモホールディングスの社外取締役に就任……と思いきや、突如として小説家デビュー。そのうえ、作品にはコーエーテクモホールディングスの襟川恵子・陽一夫妻、フロム・ソフトウェアの宮崎英高氏、そして元白泉社顧問であり「少年ジャンプ」にて『Dr.スランプ』や『ドラゴンボール』などの名作を送り出してきた伝説の編集者・鳥嶋和彦氏からの推薦文が寄せられるという豪華ぶりである。
しかしなぜ、長年出版業界に務めてきた佐藤氏がいきなり小説を自ら書くことを選んだのか? そしてなぜライトノベルの作風なのか? そうした疑問を解消すべく、電ファミニコゲーマー編集部ではあの『ロードス島戦記』の作者であり、佐藤氏とも親交がある水野良氏との対談の場を用意させていただいた。
『怠惰な俺が謎のJCと出会って副業を株式上場させちゃった話』にて編集を務められた三木一馬氏、工藤裕一氏も交えた4名での対談は、出版業界のこれまでと今、そしてこれからを考えさせられる非常に奥深い内容となっている。佐藤氏が作品に込めた思いはもちろん、先輩作家という立場から寄せられた水野氏の感想も語られているため、ぜひ最後まで目を通していただければ幸いだ。
聞き手/TAITAI
文/久田晴
撮影/佐々木秀二
■KADOKAWA得意のメディアミックス戦略の原点とも言える『ロードス島戦記』
──佐藤辰男さんが『怠惰な俺が謎のJCと出会って副業を株式上場させちゃった話』にて小説家デビューを飾るにあたり、今回『ロードス島戦記』の水野良さんとの対談の場をご用意させていただきました。みなさん、本日はよろしくお願いいたします。
佐藤辰男氏(以下、佐藤氏):
よろしくお願いします。
水野良氏(以下、水野氏):
はい、よろしくお願いいたします。
三木一馬氏(以下、三木氏):
『怠惰な俺が謎のJCと出会って副業を株式上場させちゃった話』のディレクションに関わらせていただきました。本日は同席させていただいております。
工藤裕一氏(以下、工藤氏):
同じく『怠惰な俺が謎のJCと出会って副業を株式上場させちゃった話』の編集を担当しました。本日はよろしくお願いいたします。
──以前、佐藤さんは水野さんとご一緒に『ロードス島戦記』の舞台か何かをご覧になったことがあるとお聞きしました。
水野氏:
そうですね。そのとき僕がいろいろと悩んでいることをお話しさせていただいたのですが、佐藤さんは「作家さんって大変なんだなぁ、俺には分からないなぁ」みたいなことを仰っていたんです。
その佐藤さんが作家としてデビューされたわけですが……『怠惰な俺が……』、書かれてみていかがでしたか? 苦しかったですか?
佐藤氏:
えーっとね。全然苦しくなかった(笑)。
作家の苦しみが分かるとか、分からないとかいうレベルでさえないというか。まず締切もないし、何より『ロードス島戦記』でデビューしたころの水野さんみたいな人生のかけ方はできないんですよ。僕はもう70歳ですから。
当時の水野さんはまだ20代でしたよね? サラリーマンをおやりになっていたのをやめてまで、この世界に入られた覚悟は相当なものだったんじゃないでしょうか。
水野さんは『ロードス島戦記』でいきなり大ヒットを飛ばして、その後も継続的にRPGから作品を生み出す手法を続けていましたけど、同時にSFの世界に入ったりと、いろいろ苦悩を経験されたと思います。でも僕は70歳で書き始めている人間なのでまったくもってそういう切迫した思いはないんですね。
しかも締切も無いものだから、実に楽しく書くことができました。昔、川端康成が、誰かに「先生の作品は何であんなに繊細ですばらしいんですか?」と聞かれて「僕は、作品を手元に置いていくらでも直すようにしているからあんな風な作品が出来たんです」みたいに答えていて。手元に置いていくらでも直せるんだったら俺にもできるかな、締め切りもないことだし、と。そんなふうにして70歳の処女作が生まれました(笑)。
水野氏:
締め切りがないのに書けるというところが素晴らしいです。僕なんかは締切がないと、なかなか書けません。楽しんで書かれたのだろうな、というのは作品からもすごく伝わってきました。
──佐藤さんが作家デビューすると聞いたとき、水野さんはどんな感想を抱かれましたか?
水野氏:
「は?」という感じでしたね。「佐藤さん、なにをはじめたんやろ?」と(笑)。セカンドキャリアとして作家を目指すというのは決して珍しいことではないと思うのですが、これまで嫌というほど出版に関わって、僕以上に地獄を見られてきた佐藤さんがなぜわざわざ作家業を選ぶのだろう、と疑問には思いました(笑)。
佐藤氏:
僕は内館牧子さんの『終わった人』(講談社)という小説を読んで、この小説の主人公みたいにはなりたくないな、と衝撃を受けたんです。その小説は銀行に勤めた東大出のエリートが引退するシーンから始まるんですが、要するにひとつ目の人生が終わって、しかも出世しきれなかったという挫折感もあって、昼間から酒を飲んだり、借金を作ったりとだんだんダメになっていってしまう主人公の話なんですね。
内館牧子さんってすごくビビッドに時代を写し取る作家さんで、2年くらいにわたって僕と同じような立場と年代の人を取材して『終わった人』を書いているんです。だからものすごく身につまされるんですよね(笑)。それが、KADOKAWAを辞めても仕事を続けようと思ったきっかけになっています。
あと角川歴彦さんからお声掛けいただいた社史の仕事も一因としてありました。あれも国会図書館へ通って出版月報や年鑑とかを調べて書いたりと、およそ3年ほど時間をかけさせてもらって進めて。なおかつ出版業界の苦境の時代の話も書けたので、書き終わったときにはとても満足感があったんですけど、同時にまだ書いてみたい、という欲望もあったんです。
水野氏:
社史では僕の『ロードス島戦記』のことを大きく取り上げていただいてありがとうございました。本当に嬉しかったです。
佐藤氏:
そうそう。あれはKADOKAWAの次のステージのきっかけになった作品だから、そういう部分を書けと盛んに言われてましてね。作品の土壌として雑誌『コンプティーク』があり、そこからデビューして「誌上ライブ」というタイトルで連載が始まって、それが小説になっていくという。
で、今のKADOKAWAまで受け継がれている「映画化によって文庫が売れる」メディアミックスの次世代の大元になった。その原点に『ロードス島戦記』がある、という思いが強いみたいです。
水野氏:
『ロードス島戦記』は本当にいろいろなメディアで展開していただきました。KADOKAWAさんのメディアミックス戦略の先駆けになったとしたら嬉しいですね。
佐藤氏:
今振り返ってみると、当時はファミコンが生まれ、『ドラゴンクエスト』が生まれ、時代が『ロードス島戦記』を求めていたという感じがしますね。
あと水野さんの小説の作り方として、「まず世界を作る」というのがあるじゃないですか。その世界の中で文化や風土、経済、歴史などといったものを全部作って、そこからシナリオが生まれてくる。あれは小説家の皆さんの間ではポピュラーな作り方なんでしょうか?
水野氏:
いや、少数派みたいですね。この前、Twitterでは「そんな作り方したらダメ」みたいなことが思いっきり書かれていて(笑)。『指輪物語』や『DUNE』など世界設定がしっかりしている作品では、設定のほうが先に作られていると思うのですが。
佐藤氏:
でも小説って、手法としてそういうやり方を使っていなくても、どこか世界を創造したり、世界に意味を持たせたり、あるいは新しい自分を書いている内に発見するようなことってありますよね。僕も今回、自分で書いてみてはじめてそれに気づいた。
水野氏:
僕も長く作家を続けている内に、自分の中でモヤモヤとしていた感情が小説を書くことによって言語化されて整理されていくような経験はありますね。
■読み物系コンテンツの充実で「コンプティーク」は新たなプラットフォームになった
水野氏:
それで『ロードス島戦記』が掲載された『コンプティーク』という雑誌なんですが、僕が参加する前というか、佐藤さんがメディアワークスを立ち上げられた経緯のようなものをお伺いしてみたいなと。恐らく『怠惰な俺が……』にも関係している部分があるかと思いますので。
佐藤氏:
きっかけというのは、ある人が角川歴彦さんを紹介してくれたことに始まります。KADOKAWAが新しくパソコン雑誌を作りたいと言っている、と。「君はファミコンやパソコンゲームを記者として7年も追いかけてきたわけだから、ちょっと企画書を書いてみてよ」と言われたので、ゲーム攻略を中心とした企画書を書いて持っていったんですね。そうしたら「いいね、やろうよ」とすぐOKの返事をしてくれました。
実はもともと角川さん的には『Oh! PC』とか『マイコンBASICマガジン』とか『月刊ASCII』とか、カタログ誌的なものを想定していたみたいなんです。なのにゲーム攻略という全然違う類のものを持ち込んで、しかもそれが即決で通ってしまったという(笑)。
ただKADOKAWAに直接入れるわけにはいかないから、といってコンプティークという会社に入社して準備を始めたんです。そこから1年くらいの準備を経て創刊しちゃいました。
水野氏:
準備期間はかなり短かったのですね。もちろん、創刊後に雑誌としての方向性は変化していったと思うんですが。
佐藤氏:
最初はむちゃくちゃ売れなかったですよ。当時すでにパソコンゲームを扱う『LOGiN』をはじめ、50誌くらいの競合する雑誌がありましたからね。それでみんなで違う方向を模索する中で生まれたひとつが『ロードス島戦記』の企画だったんです。
そのほかにも麻宮騎亜さんのマンガ『神星記ヴァグランツ』とか、松枝蔵人さんの小説『聖エルザクルセイダーズ』とか、いろいろな試みが取り入れられていた時代でしたね。そうした読み物的コンテンツが人気を獲得して、『コンプティーク』ならではのカラーになっていったんです。
水野氏:
それで他雑誌との差別化に成功して、新しいコンテンツのプラットフォームになることができたという感じでしたね。当時は実売で30万部くらいでしたっけ? 今考えたら奇跡ですよ。それほどの雑誌に載せていただいたありがたみ、というのは今になってものすごく実感するところです。
佐藤氏:
連載スタート時にはまだ全然その部数には達していなかったと思いますが、『ロードス島戦記』のような作品が雑誌から生まれる幸福な時代でした。
社史を書いていると、こうした黄金時代の話もたくさん書けるんですが、それが終わるとだんだん悲しい時代の話を書かなくてはいけなくなってしまって……やっぱり辛かったですね。
最初に少子高齢化によって雑誌の売れ行きが悪くなり、さらにインターネットの発展で情報が無料で手に入るようになってしまうわけです。それまで雑誌の重要なコンテンツだったゲームの攻略なんかもインターネット上でやり取りされてしまうので、無料で情報が手に入ってしまう。
水野氏:
しかも即時的というか、情報を掲載するまでのスピードが違いすぎますしね。
佐藤氏:
そしてスマホゲームやSNSといった新しい娯楽がデジタルの世界に次々と現れてきて、それらにどうやって対抗するか、というのが2000年代のテーマでした。そんな現実を見てきたからこそ、時代の流れにやられる一方ではなく、「のんきに出版業界に入っていく若者をテーマにしたら面白いんじゃないか?」 というアイデアから生まれたのが『怠惰な俺が謎のJCと出会って副業を株式上場させちゃった話』の怠惰な主人公「アオヤマ」君です。
■佐藤氏だからこその“ドラマ”を描けるよう小説の形を選んだ
水野氏:
その『怠惰な俺が……』を読ませていただいて……儀礼的には「面白かったです!」というのが筋なんですが、率直な感想としては「なんじゃこりゃ?」という感じでしたね。
言葉にしにくいのですが、「ビジネス書として読みはじめて、小説として読み終えた」というのが、いちばん近いのかな、と。
それで佐藤さんが来られる前に編集者の方々と少しお話したのですが、目指すものとして挙げられた名前が『もしドラ』や『ビリギャル』だったのですよね。自己啓発書でありながら小説である、そういう作品を狙っているとうかがったのですが?
佐藤氏:
最初はビジネス書としてスタートしたんですよ。もともとはIPO(上場)を目指すビジネス書を書くんだ、という弁護士さんがいて、しかも「若い人のために小説形式で書きたい」と仰っていたんですね。それでお手つだいのような雰囲気で簡単な校正のようなことをしていました。
そうしていたら「もっと嚙み砕いたものを書いてみたいな」となりまして。それで書き始めたというのが誕生の経緯です。特に4章から5章にかけてはかなり真面目な動機でハウツー的な部分に力を入れていました。その上で三木さんに持ち込んだら小説的なアドバイスをずいぶん受けることができて、その新鮮な指導のお陰でそちら側がどんどん膨らんでいってしまった(笑)。
水野氏:
佐藤さんは長く編集者として出版物に向き合ってこられたわけじゃないですか。メインは雑誌の編集で、小説の編集をどのくらいされたかというのはちょっと存じ上げないのですが、編集長という立場に立つ以上はすべての作品に間接的には関わっていたと思うのですね。それが今回、作家という立場に……言うなれば“逆転”したわけで、これまでの編集としての経歴というのは役に立ったのでしょうか?
佐藤氏:
そうですね……おっしゃる通り僕の編集経歴って新聞記者と雑誌が主で、書籍の編集ってほとんどやっていないんですよ。それこそ水野さんが連載しているのは間近で見ていましたし、電撃文庫の小説賞の審査員も長くやったので小説はかなり読み込んでこそいるものの、直接誰かを担当したような経験はありませんでした。
それでここにもいる三木さんと工藤さんのふたりに指導していただきながら進めていって。なんだか、あらためて「本の編集者が作家を育てていく」というプロセスを初めて知ったような感触でした。ものすごく新鮮だったし、嬉しかったですね。
水野氏:
なるほど。担当編集者と作家のやり取りという部分はご存知なかったのですね。それを今回は作家として体験する形になったと。
三木氏:
ちょっと補足させていただきますと、さきほど佐藤さんからもお伺いしたように4章や5章のハウツー部分を書きたいというお話があったんですが、僕はそのご提案をそのまま出したら単なる経済書になってしまうんじゃないかなと。それならばすでにプロフェッショナルの方が出している経済書がたくさんあるんですよね。
でも僕は佐藤さんとメディアワークス時代からずっとお付き合いさせていただいていて。それで電撃小説大賞の選考委員をやっているときも、人一倍創作や物語、作家さんに愛と情熱を持たれていた方だったので、「そこを読ませるためにも、ドラマを作らないといけないですよ」というお話をさせていただきました。
佐藤氏:
そんな感じです。結果としてドラマがすごく盛り上がって、エンタメのウェイトが増えて本懐までなかなかたどりつかなくなってしまった(笑)。
水野氏:
なるほど、4章、5章は普通にビジネス書でしたね。3章までは小説ふうでしたが、余分な情報は削ぎ取っているという印象は受けました。その後に4章、5章がありましたので、これはビジネス書として読めばいいのかな……? と、捉え方に戸惑った部分はあります。
あと佐藤さんご自身が会社を立ち上げられた実体験もお有りですし、ある種の回顧録的な意味もあるのかなと思いましたね。僕自身、佐藤さんのことはある程度知っていますし、周りにいらっしゃった方というのもそれなりに知っているから、このキャラクターには誰かモデルがいるのかな、なんてあれこれ想像しながら読みました。
まあ、主人公のアオヤマくんに関しては佐藤さんご本人以外ありえないなと感じたんですが(笑)。
佐藤氏:
バレた?(笑)。
水野氏:
あのMっぷりは佐藤さん以外ありえないです。
佐藤氏:
ちょっと、やめてそれ(笑)。
水野氏:
ぶっちゃければ、どちらとしても読めると思いますし、どう捉えるかは読者次第だなと感じましたね。個人的には4章、5章のビジネスパートはクリティカルに参考になりましたし。僕は今、とある会社の監査役をやっていますので。
佐藤氏:
あのあたりはそうですね、メディアワークスを作るときに角川書店から分かれて立ち上げたじゃないですか。その際、作家の皆さんには大いに迷惑をおかけしてしまって、申し訳なかったなという思いは今でもあるんです。ただ同時に角川書店から離れて、みんなでお金を出し合って上場しよう、という志もあったんですね。結果としてはまたKADOKAWAと一緒になったんですけど。
水野氏:
立ち上げの時の経緯は僕も知っていますし、横で見ていたのですけど、急にあれだけの規模の会社って作れるのだなと感心しました。雑誌の創刊にくわえて電撃文庫も立ち上げてらっしゃいましたよね。
佐藤氏:
はい。今までみんながやっていた仕事を「ダメだ」って言ってしまうと事きれちゃうじゃないですか。あの当時はみんなギリギリで生きていたから「君はやらなくていいよ」と言ってしまうとそのまま沈没してしまうような危機感がありました。会社が変わっても、次の仕事をやってもらう環境をつくるのが最大のテーマだったので、もう、今までやっていたことは全部やるって言っていたんですね。
雑誌で言えば『マル勝ファミコン』は『電撃ファミコン』に、『マル勝PCエンジン』は『電撃PCエンジン』に、という具合にね。アドベンチャーゲームの雑誌はアドベンチャーゲームの雑誌として、マンガ雑誌はマンガ雑誌として、全部継続してやるよ、というのがみんなの支えだったんです。だからやらざるを得なかった。
もっと少ない人数でいちから立ち上げられれば、それはそれでひとつの選択肢としてあったのかもしれませんけどね。規模が大きいまま継続すると決めてしまっていたので。一番大変だったのはやっぱりお金を集めるところでした。本来ならば5人や10人で小さな出版社から始めよう、って今持っているお金にあわせてスタートするべきだったんですが……。
水野氏:
いきなり70人でのスタートだったのですよね。ただ、メディアワークスさんが設立時に目指したことを実現するには、それくらいのスタッフがいないとできなかったことですしね。多数の雑誌で一気にスタートするためにはそれに応じたスタッフも要るし、お金もかかるという。
佐藤氏:
その通りです。「みんなついて来てね!」と言ってしまったので……「やっぱりいらない」とは言えなかった(笑)。
水野氏:
それは言っちゃダメですね(笑)。あの当時、「集めたお金がみるみる溶けていくのは怖いよ」とお話しされていたのはよく覚えています。僕はローリスクで作品だけを提供していた立場だったから、そうだろうなあとは思いつつ知らないふりをしていました。作品が売れることで応援できたらいいなあ、とは考えていましたが。
佐藤氏:
いやいや、本当にありがたかったですよ。
水野氏:
一応『クリスタニア』のTRPGリプレイを「電撃王」さんで掲載していただいていて、その小説を初期のラインナップに送り出せたかな、と。たしか1巻が30万部ぐらいだったので、無理をして刷っていただいていたのじゃないかと、すこし不安でした。
『ロードス島戦記』とか角川書店でやっていた既存のタイトルは残すけど、新規タイトルについては労力やエネルギーをかけてメディアワークスさんで頑張りたいな……と思ってはいたのですけど。
佐藤氏:
水野さんにも大変なご苦労をおかけしました。角川書店で当時やっていたものは新しい会社にもっていくわけにはいかないと、それでも新しい作品を提供してくださったわけですから。単純計算でお仕事も2倍になってしまって申し訳なかった(笑)。
水野氏:
2倍ほどは頑張れませんでしたが(笑)。ただ、間に立つしんどさは、やはりありましたね。あのころの僕はそれなりに影響力があったので、現場レベルでは双方のケンカが激しくならないように気を遣いました。
■『怠惰な俺が』は現状に閉塞感を持っている社会人に向けたエール
工藤氏:
『もしドラ』も『ビリギャル』もそうなんですが、自己啓発系小説って他人事じゃなくて「読者自身の話」だとアピールできると売れるんですよね。それで『KADOKAWAのメディアミックス全史』が日本書紀なら、『怠惰な俺が謎のJCと出会って副業を株式上場させちゃった話』は古事記だと思っているんですね。
この小説はもちろんKADOKAWAの歴史を語るものではないフィクションなんですが、裏ストーリーとしてKADOKAWAがどういう思想で今の状態にいたったのか、という物語が見えてくる話でもあるんです。分かりやすく言うと「今は君の理解者は少ないかもしれないけど、その熱は将来のビッグビジネスになるかもよ」というメッセージが込められているんじゃないかなと。
水野さんが書かれた『ロードス島戦記』も元をたどれば『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(D&D)という(当時の日本では)すごくマニアックな遊びのリプレイから始まったものですが、そこから派生していく形でラノベやアニメが生まれ、今のKADOKAWAの成長につながったわけですよね。そうしたことを今度は、今この本を読んでいる君がやるんだぞって。
水野氏:
おっしゃる通りだと思うんですが、僕はこの作品を企画書としても読めると思うんですよ。ちょっとうがった見方になるんですけど。
佐藤さんご自身が「俺がもし若かったらこんな新しい出版社を作りたいんだ」というようにも読める。その夢の設計図とでも言えばいいのですかね。だから、ご自分では70歳だからなんて何度もおっしゃっていますけど、まだまだ仕事する気があるのだろうなという(笑)。
佐藤氏:
やっぱり小説を書くとき、どこか自分を投影してしまう部分が出てくるんですね。さっきもメディアワークスを作ったときには上場する計画があった、みたいな話をしましたが、やっぱり上場したかったです。
結果的にはKADOKAWAと合流してよかったと思っているんですけど、それもまたひとつの選択肢として、ね。本の中で書いた起業や上場、M&A、IPOというのは僕自身がやりたかったことと、やったことが混在しているんです。
水野氏:
あとこの小説は後半部分、6章以降からいきなり謎のフェイズに突入するのですよね。ちょっとネタバレになるので細かいことはお話しできないのですが、ここからがめちゃくちゃ面白いです。鳥嶋さん【※】とお会いする機会があり、この作品についての話を伺ったのですが、同じような感想でした。
佐藤氏:
ありがとう(笑)。
水野氏:
もしかしてこの作品はミステリだったのか? と思ったくらいです。『そして誰もいなくなった』(早川書房)の巻末にある謎解きパートがいきなり展開されたような、そんな衝撃がありました。
面白いし、ぐいぐい読めてしまう。それまでどちらかといえば記号的に書かれていた女子中学生(JC)の「五虎退」(ごこたい)ちゃんが人間としてしっかり描きだされてゆく。どうしてああいった内容になったのでしょうか?
──そもそも、誰向けに書かれたイメージなんでしょう?
佐藤氏:
これは現状にすごく閉塞感を覚えているようなサラリーマンとか、社会人に読んでもらえるといいなって思っています。僕の周囲にいる30代や40代の方でもそうですが、多くの方にとって、生活を維持するのはかなり厳しい時代じゃないですか。満足できる収入を得て、結婚して、子どもと家をもって、という1960年代に始まり90年代半ばまでなら当たり前にできたことがなかなかできなくなってしまった。
そんな中でも、自分で一歩勇気をもって踏み出すと、実は誰かが支えてくれたり、共感して手伝ってくれたりすることが起こり得る。特に好きなこと、ゲームでもプログラムでも何でもいいんだけど、デジタルの恩恵を受けて楽しみながらやっている人は、それを貫くと周囲を巻き込んでの面白い変化が起こるかもしれないよ、と。今を生きる人が一歩踏み出すきっかけになるような小説を書きたかったんです。
水野氏:
3章までは小説ふうとはいいながら、キャラクターの内面描写は抑えられていますよね。一人称なので主人公はまあ書かれていますが、ところが6章以降でごこたいちゃんをはじめ、各キャラの内面にグッと踏み込んでゆくじゃないですか。
それで勝手に妄想して、これはビジネス書というスタイルに見せかけ、実はミステリとしての新しいスタイルを狙ったんじゃないかと(笑)。妄想はさておき、6章以降は純粋に小説として楽しませていただきました。
佐藤氏:
嬉しいですね、今のコメントで読者に最後まで読んでもらえそう(笑)。
水野氏:
あと、ごこたいちゃんは佐藤さんがお好きそうなキャラクターかなと思いました(笑)。
佐藤氏:
僕は高校生のつもりだったんですけど、三木さんが中学生にしろと。
三木氏:
中学生が大の大人に「お前ぜんぜん会社運営分かってねえな」とキレていたら面白いかなと思いまして(笑)。エンタメとして、「こんな子が教えられるわけないじゃん!」と思わせるキャラクターに仕上げた方が良いと考えたんです。それを意図するのであれば高校生だと少し中途半端かなと。
水野氏:
カバーイラストにいとうのいぢさんを起用されたのはさすがだなと思いましたよ。ごこたいちゃんには「涼宮ハルヒ」のイメージを感じたので。指を突きつけて、ビシッと言ってくるみたいな。すごく失礼な言い方になってしまいますが、これだけ魅力的なキャラクターを書けるのですから、佐藤さんは作家に向いていますよ。
佐藤氏:
本当ですか?(笑)。実は次回作も書き始めていまして、60歳の女性を主人公にした物語を書こうと思っています。だから読者層とかはまったく変わってしまうんですけど、やっぱり同世代の人に読んでもらえるような小説も書いてみたいなと思ったので。
水野氏:
佐藤さんが刺激を受けたという『終わった人』のようなお話も読んでみたいと思いましたが。
佐藤氏:
ただ『終わった人』で描かれた人物像って僕では無いかなと。元エリートなのでプライドが高くて、その地位を失ったことに虚無感を覚えている主人公なんですよね。そういう要素はどうも僕には無さそうかなと。
水野氏:
確かに、佐藤さんにそういうイメージはまったくないですね(笑)。新作の狙いとしてはエンタメ的なものなんですか? それとも文学より?
佐藤氏:
エンタメですね、ある種のファンタジーかな。メインとなるキャラクターは主人公と近所に住む母子家庭の親子と、それから山岳救助隊の青年。それぞれ別の人生を歩んでいるキャラクターたちが、ちょっとした超自然的な存在によって結び付けられていくようなイメージです。本来であれば彼らは不幸に陥る運命だったのが、その存在によって少しずつ捻じ曲げられて違う人生を歩んでいくような……。
水野氏:
……すみません、今の話だけではイメージを共有できませんでした。やはり、小説というものは書いてこそですよね。ぜひ読んでみたいと思います。どちらかといえば文学よりのほうで(笑)。
僕も自分のキャリアは終盤に入っていると感じていて、今持っている仕事はもちろん片付けるつもりですが、それが終わったら仕事に関係なく好きな話を書こうかなと考えています。今はどこでも作品を発表できる時代ですしね。
佐藤氏:
水野さんは作家になられて40年ほどでしたよね。大きな壁にぶち当たって……みたいな経験もされてきたんじゃないでしょうか。
水野氏:
それは何度もありました。『ロードス島戦記』だって当時は時代の波に乗ってミリオンセラーも達成しましたが、僕としては『ロードス島伝説』を書いたあたりからシリーズの人気というか、時代が変わりつつあるのは感じていたんですね。
そのころ富士見ファンタジア文庫さんの方でライトファンタジーが全盛期だったので、それに『魔法戦士リウイ』という作品で乗っかって。その後にも『スターシップ・オペレーターズ』や『グランクレスト戦記』をアニメ化していただいたりと、それなりのヒットみたいなものを続けることができましたが、やはりロードス島戦記を超える作品は生み出せなかった。
佐藤氏:
『ロードス』から『リウイ』への転換は今おっしゃったようにライトファンタジーのブームが背景にあったと思うんですけど。『スターシップ』に関してはSFだったじゃないですか。あの時代には『銀河英雄伝説』とかありましたが、そういう流れに乗っていこうという意図だったんでしょうか?
水野氏:
あの作品は『銀英伝』の逆張りですね。大艦隊のぶつかりあいではなく1対1の駆け引きを書いてみたかった。それからも『ブレイドライン』とか自分としては挑戦的な作品を書きつつ、王道も継続していくというスタイルで仕事を続けてきました。おかげさまで優しい読者さんと編集者さんに支えられて、なんとかかんとかやってこれました。
佐藤氏:
冒頭で「作家の苦しみ」みたいなお話が出ましたけど、水野さんはやっぱりさんざんそういう思いをなさってきたんじゃないでしょうか。
水野氏:
ないわけではありませんが、僕は「幸せな作家」なので(笑)。『ロードス島戦記』というデビュー作が大ヒットになって、KADOKAWAグループが常にバックアップしてくれて、これで苦労とか言っちゃダメですよね(笑)。
そもそも、本当の作家の苦しみって実は贅沢なものだと思っています。
佐藤氏:
贅沢、ですか。
水野氏:
「俺、もっと書けるんじゃね?」みたいなどこか欲張りな気持ちがあって、ところが目の前にある自分の原稿はぜんぜん理想に足りていない。どう書けば理想に近づくかでいつも苦しみます。苦しいけれど、それはとても贅沢なことだと。
完璧な作品なんて書けないって分かっているんですけどね……。特に年を取ってくるとどんどん手離れが悪くなってしまって、いろいろな方にご迷惑をおかけしています。
■作品を読み、作家へのリスペクトを持つことが編集者としての成長の第1歩
三木氏:
僕もいろいろなライトノベル作家さんとお付き合いをさせていただくなかで、どこか衝動的なものに動かされて書いている作家さんが多いなと思っていて。小説を書くということが自分の生命活動みたいな。佐藤さんとして今回執筆されている2作品はどのようなモチベーションで書かれているんでしょうか?
佐藤氏:
やっぱり僕はずっと本が好きだったから。30代や40代、50代でも書いてみようと思ったことは何度もあったんですよ。途中まで書いたものもあったんですが、最後まで書き終えた経験はなくて、それで『KADOKAWAのメディアミックス全史』を書き終わったときにものすごいカタルシスを得られたんです。
水野氏:
なるほど、成功体験ですね。作品って書き上げるまでものすごくしんどいんですけど、一度書き切る成功体験を得たら次も書けそうな気になりますよね。
ちなみに、本を書き切ったときの喜びと、できあがった本を見たときの喜びとどちらが大きかったですか?
佐藤氏:
それはやっぱり書いた後です。できあがったものも嬉しくなかったと言えばうそになりますが、書いた直後に比べればそんなにですね。
水野氏:
それはすごく作家的なものを感じますね。
佐藤氏:
そう、書き上げたときの達成感で、本として完成する前に今書いているものが案として浮かび上がってきて書き始めたので。自分で本を書けた! というのが嬉しくて今書いている次のものも進めている感じですね。
──KADOKAWAの社長という立場で出版社を引っ張る中、自分が本を書き切れないことにコンプレックスのようなものを持たれていたんでしょうか。
佐藤氏:
持っていましたね。「書籍の編集をやったことがない」というのも、コンプレックスでした。なので、水野さんも三木さんも輝いて見えますよ。
水野氏:
少し巻き込んでしまって申し訳ないんですが、三木さんってたしか小説を書かれていましたよね。あれはなぜなんでしょうか?
三木氏:
よくご存じで(汗)、恐縮です。あれは、僕自身が本当に疑り深い人間なので、作家さんと打ち合わせしているときに「じゃあお前が書けよ」って心の中でムカつかれているんだろうな……とか常に考えてしまう人間でして……。
実際、自分が考えた作品なのにどうして他人に手を入れられなくちゃいけないんだ、って感じる作家さんもいると思うんですね。「じゃあお前が書けよ」は編集と作家の永遠の対立テーマだと思ったんです。ですので、ならば、作家さんがそういう感覚を抱かれるのであれば、僕自身も一度書いてみようかなと思って、書いたという。
水野氏:
作品を書いていて、「これ、自分以外の誰かが書いた方がぜったいに面白くなるな」と思ったことはありますが(笑) 作家のムカつきを共有するために書いたわけではないですよね?
三木氏:
ひとつはバッターボックスに立たないと空振りもできない、みたいなところがあってトライしたんですけど、書いてみると水野さんのおっしゃる通り「これ鎌池和馬だったら絶対めちゃくちゃ面白くなる」「川原礫だったら俺の100倍うまく書く」という思考が襲いかかって来て、すごい重圧を感じました(笑)。
そういう経験を経て僕の中では勝手に勉強になっていて、作家さんとの打ち合わせの時も「あ、このとき作家さんは恐らくこう思うだろうな」みたいな部分をいっそう判断できるようになったかなと思います。
水野氏:
それで実際に書かれてみて……すみません、僕はその作品は読んでいないのですが、それまでに三木さんが担当された作家さんからはどのようなリアクションがありましたか?
三木氏:
みなさん、どちらかというと好意的な反応だったと思いますね。
水野氏:
それはあまり良くないというか、恐らく「勝ったな」と思われているんじゃないかなと……(笑)。
三木氏:
それは絶対にありますね(笑)。ただ、これは僕の研究論なのですが、作家さんって「他の作家さんに対して編集者として立つことは難しい」と思ったケースがいくつかありまして。それは作家同士だから、生みの苦しみを知ってるから、悪い意味で尊重しあってきつく指摘できないというか……。今回も、僕が自ら書いたとなったときに、作家さんが僕のことを「作家のひとり」としてちょっとゾーンの中に入れてくれたのかな、と図々しくも考えています。
やはりほかの人が頑張って書いた作品をけなすって、自分にも返ってくることじゃないですか。だから作家さん同士は悪く言えないのかなと、そういうことを思いました。
佐藤氏:
僕はね、勝手なイメージなんだけど小説の編集者って小説をたくさん読んでいないといけないと思うんだよね。でも作家の側は別に読んでいなくても良いんじゃないかな、と思うんだよ。例えばジャン・ジュネ【※】みたいな作家の読書体験って想像しにくい。
水野氏:
僕自身もあまり読みませんね。特にデビューしてからは読まなくなりました。引っ張られてしまうのも怖いので。
佐藤氏:
編集者として成長するための流れとして、作品をいっぱい読んで、それで自分にはこんな作品は書けないと感じる。それ故に作家にリスペクトを持つ、というプロセスがある気がするんですね。
その昔、吉行淳之介【※】という作家が「麻雀やってるのが作家で、それを見てるのが批評家だ」っていったんですね。要するにプレイヤーと見ている人という構図を表現したかったんだと思うけど、これが直感的にすごく分かる。それでいうと編集者ってやっぱり、”寄り添う人”ってことになるんでしょうね。
水野氏:
佐藤さんは以前に「作家を諦めた人が良い編集者になるかもしれない」と話されていて、同じようなことを鳥嶋さんもおっしゃっていた気がするので印象に残っていますね。
昔はたしかに作家になりたくてもなれなくて、それで編集者になったような人って多かったと思うんですよ。そうすると編集者の中にも若干ルサンチマン的な部分もあって、そのあたりが作家との関係を築くうえで良くも悪くも作用していたんじゃないかなとちょっと思ったりもしたんですけども。
佐藤氏:
実は僕は自分がそんなことを言ったのをあんまり覚えてないんだけどね(笑)。まあ、とにかく編集者は絶対に本を読まなきゃいけない。
水野氏:
最近の編集者ってどうなんでしょう? 本を読むことによって感性が平均化されていって、感性よりも知識の方が増していくというパターンもあるじゃないですか。
自分の言葉より借りてきた言葉を使う方が楽なのは当然として、すでに最適化された言葉を引っ張ってきて文章を作ったとき、それは果たして自分の文章なのかな? って思う部分もあるんですよね。
佐藤氏:
今の編集者とか古い編集者とかというレベルではちょっと分からないけど、僕は小説を書いてみて、編集をしてくださったふたりの存在はものすごくありがたかったですよ。
水野氏:
それはもちろんです。判断に迷ったときジャッジを下してくれたり、アイデアに詰まっているときに新しい発想をくれたり、ロジックのよじれを整理してくれたり、校正をやってくださるのもそうですね。
佐藤氏:
作家さんにもいろんなタイプがいるだろうから、中にはアイデアを出してくる編集者はいらない、という人もいるのかもしれないね。
水野氏:
そのあたりは個人の感覚によるところが大きいですからね。佐藤さんは作家の立場になってみて、三木さんあたりに腹立ったりしたことはありませんでしたか?
佐藤氏:
なかったね。人の言うことを聞くのが好きだから(笑)。
三木氏:
ちなみに佐藤さんは、僕が新卒のときの最終選考の面接官ですからね? そんな人が僕の指摘を「はい!」って従順に直す。こんなに気持ちのいいことはありませんよ(笑)。
──ちなみに佐藤さんを作家として見た場合、どのような印象を持たれましたか?
三木氏:
僕はここは担当編集としてシビアになるので、先に褒める方からお願いします(笑)。
工藤氏:
ひとつは若い編集者がついても直せる柔軟さがあるというところで、作家さん的な資質がおありだと感じました。新人賞とかの選考をしたとき、「この人は結構書けるからこう直したらもっといいのに」みたいなことを思ってリテイクを出します。
でもその時点で止まっちゃって、一歩も進めなくなる方もいるんですよ。そういう人はやっぱりプロの作家、エンタメ系の職業作家には向いていないと思うんですが、佐藤さんは主人公のアオヤマ君そのものなので、言ったことをちゃんと考えて書き直してくださる。
編集者としてはやはり、リテイクを要求したときに見違えるように良くなって返ってくる著者さんこそがエンタメの世界では伸びるし、作家としてやっていけるんじゃないかなという感じがしますね。
三木氏:
では僕からは厳しい方を。佐藤さんのお話を聞くと、記念出版のようなイメージでは無くて、将来的にずっと書いていきたいという方向なんですね。だとすると、それを前提で考えなければならない。これは佐藤さんご自身にもお伝えしているんですが、佐藤さんは当然、文章力がむちゃくちゃに高い新人作家ではないです。新人賞を潜り抜けてきた猛者でもないですので。なので、「文章力で売ろう、胸を張ろうとは思わないでください」と言ってきました。「文章下手で上等、ただ想いに嘘はつかないでください」でお願いします、と。
その前提で、あとは元KADOKAWA社長の佐藤さんが書いた、というバリューがあれば、市場からは絶対にリアクションがあり、感想があり、KADOKAWAさんに赤字を噛ませないで済むくらいは本は売れるんじゃないかな、と思ってます。そして、出してダメージが無ければ新刊も出せるわけです。これが記念出版だったり、1冊にすべてを込めるのであれば、また別のアプローチかもしれませんが、そういうわけではない。
僕はこのプロジェクトをペナントレースだと思っているので、今の佐藤さんが今の筆力でベストを尽くされたこのタイミングで本書を出して、頂いた感想やフィードバックの反省材料を活かしていければという判断です。あとから「この1作目もまあまあよかったね」「頑張れてたね」と過去を思い返すことができれば成功だと思います。
なので1冊目としては普通の作家さんに比べると構成が稚拙だったりとか、文章力が弱い部分もあるかもしれません。でも僕はそういう「頑張って書いた」個性的な本があってもいいんじゃないかな、と考えています。
水野氏:
でも長期的な展開を考えるのであれば、佐藤さんというネームバリュー以外の何か強力な魅力が必要になるじゃないですか。文章力や構成力が足りないというならば、僕がさきほど妄想したビジネス書とミステリの融合のような新しいスタイルを確立するとか。もちろん空論ですし、過去にまったく類を見ないスタイルかと言われると自信はありませんが。
三木氏:
分かります。ベストは絶対にそれで、今回は僕がそこまで作品の内容にうまく介入できてはいません。ただ、これから確実に必要になってくることだと思います。それがいわゆる、作家さんの個性、となるのかなと。
水野氏:
そうですね。ここまで書けるのなら、佐藤さんならではの作品というものが読みたいです。『怠惰な俺が……』にはいろいろな可能性を感じましたから。佐藤さんが送られてきたご自分の人生の中から生まれた物語、佐藤さんからしか生まれないオンリーワンの小説が読みたい、と高望みをしたくなります(笑)。
佐藤氏:
なんだかすごくプレッシャーですね(笑)。
水野氏:
せっかくセカンドキャリアで作家業を選ばれたのですから、大きな花火を打ち上げていただきたいですね。
■現在の安定を守ること自体が将来的なリスクになってしまう時代
工藤氏:
もうひとつ軽くご質問をさせていただくと、佐藤さんをよくご存じの方が本書を読むと、各キャラクターにモデルがいて、実際の知り合いを想起させるなど、いろいろなオマージュに気づかれると思うんですね。それで水野さんにうかがいたいのが、『ロードス島戦記』でも『D&D』で遊んだプレイヤーのキャラクターが、ある意味で作中のキャラクターに乗り移っているわけじゃないですか。
こうした作り方でベストセラーを出した後に、まったく架空のキャラクターを造形する方向に転換されていった――その際、何か心境やテクニック面での変化はおありだったのでしょうか?
水野氏:
あまり変わっていない気がします。僕はまず世界設定から作り、次にストーリーを考え、キャラクターを配置しますから。ただ、そのあとキャラクターをどう魅力的に見せるかは徹底的に考えますね。
キャラクターに魅力が無かったら売れませんから。努力はしているんですが、それでも「パーン」【※】や「ナシェル」【※】を超えるキャラクターを書いたかと言われると……。
工藤氏:
創作クラスタの人にはそういった葛藤やアプローチの違いというのは少し面白いかなと思います。
水野氏:
確かに小説投稿サイトが生まれたことで作家になるハードル自体はものすごく低くなったと思いますけど、同時に作品作りのスタイルというのは非常に特化してきている気もしますね。
佐藤氏:
ちょっと話はズレてしまいますけど、ウェブトゥーン(縦スクロールコミック)みたいなものももっと大きな波が来るのかな? と思いますね。
水野氏:
ウェブトゥーンは重々しくないところが秘訣なんじゃないかなとも思いますね。あそこから重厚な作品が出てきたら、それはウェブトゥーンではないんじゃないかとも思ったり。
三木氏:
読者層が紙のマンガを読む人たちとは明確に違って、スマホでムダ時間を解消したいというユーザーさんが対象ですからね。
水野氏:
僕はここ数年間YouTubeのコミックを追っていたんですけど、だいたいは短くてシナリオのパターンがどれも似ていたりで。でもこれが求められているのかな? と思いました。
とあるチャンネルで僕がすごくハマった作品があって、その作者の方はすごくオリジナリティのある作品を書かれているんですよ。それで登録者数も再生数も伸びたんですけど、その路線を続けていたら数字がどんどん下がっていったらしく、最近、軌道修正されました。
ウェブトゥーンもおそらく求められているものが普通のコミックとはまったく違うのだろうな、と。
工藤氏:
それこそ『怠惰な俺が謎のJCと出会って副業を株式上場させちゃった話』を読んだ人が次に成功するとなると、そのあたりの世代を捉えた存在になると思いますね。水野さんはそうした方向で何か考えられていることはあるんですか?
水野氏:
僕はしませんね。一応研究はして、向いてるか向いていないか、できるかできないかと自分に問いかけた結論が「できないし、俺がやらなくてもいい」だったので。もちろん時代がどう変化していくかという流れは見ますよ。ただ、同時にもう新しい若い子たちが己の感性でやっていけばいいんじゃないのかなって。
『怠惰な俺が……』でもVRを使った小説のアイデアみたいなものがあって、これも割りとみんな考えそうで意外とないんですよね。小説とVRって明らかに相性が悪いというか接点がないメディアで。可能性自体は感じるのですが……。
佐藤氏:
最初はVR小説をやろうという話をしていたんだけど、TAITAIさんの話とかを聞いていて「このままじゃダメかな?」と思ったんだよね。それで途中からゲームを開発する流れに変えました。
──はじめにVR会社をテーマにしたというお話を聞いて、なぜVR会社なんだろうな? と思ったんです。VR会社が上場するのってリアリティあると思う? とそういう相談をいただいていて。あまりないんじゃないかなと。
ただ今日のお話を聞いていて「ニッチかもしれないけど熱量があるもの」の象徴として現れてきたのがVRだったのではないかと感じましたね。
水野氏:
VRって現状はなかなかうまくいっていないんですよね。SFではひとつ理想の未来みたいに描かれているのに、現実では意外と普及しないなと感じています。
工藤氏:
そういう理解者が少ない“オタクの熱”みたいなものをKADOKAWAはプッシュして大きくなってきたと思うんですよね……それはまだこれからも有効だぞ、というのが本作のメッセージでもあります。
水野氏:
皆さんね、日常の業務に追われてそういう野心とか夢とかを失っていかれるんですよ。目の光を失った企業戦士の目になっていく(笑)
佐藤氏:
加えて、今社会人をやっている子の多くは、このまま会社人生を続けていいものかと、思っていますよね。個人の金融資産を増やすという観点に立てば、リスクをとる必要も出てくる。
水野氏:
とはいえ、成功している方も失敗した大量の人の上に立っているわけで。起業に向いている人と向いていない人がいるわけだから、万人にすすめるのはいかがなものかなと思いますよ。
佐藤氏:
確かに。であれば、起業やIPOに限らず個人の金融資産をどう増やすか、しかも自分の好きな道で、という観点はあっていいと思います。ぼくは、そのあたりは橘玲さんの『幸福の「資本」論』という本が大いに役に立った。お勧めします。
■今は日が当たらない場所で頑張っている「オタク」が新時代を担うかもしれない
──書籍の話に戻りますが、佐藤さんとしてラノベ的なものを書くことに抵抗はなかったんでしょうか? ビジネス書として企画して、届けるための文脈としてエンタメにするというところまでは分かるんですが、そこで70歳の佐藤さんにラノベを書かせるというのはちょっと乖離しているんじゃないかなと。
佐藤氏:
いや、最初から僕はラノベ的に書きたかったんですよ。だから最初から「いとうのいぢさんをお願いね」って図々しく持ちかけたんだけど(笑)。
工藤氏:
編集者からお願いした企画というわけではなく、佐藤さんが最初に書いて、三木さんに持ち込まれたという流れでした。
──佐藤さんはなぜラノベで行こうと思ったのでしょう?
佐藤氏:
『もしドラ』をやりたかったんだよね。ああいった類のものなら、自分の経験を活かして新しくてオリジナリティのあるものを書けると思ったので。あとやっぱり売れ線をやってみたかった(笑)。
水野氏:
閉塞感を持っている人がごこたいちゃんのような女子中学生に叱られ、その閉塞感を打破する……という流れはサラリーマンにとってひとつのファンタジーなのですごく魅力的だと思います。ただ、主人公のアオヤマ君ってそこまで閉塞感はないですよね(笑)?
三木氏:
僕も20代や30代のメディアワークス時代にはだんだん経理部さんの体制が整ってきて、書類申請が厳しくなっていくのを肌で感じていました。当時はできるだけリソースを編集業に注ぎ込んでいきたかったんですが、今となっては佐藤さんの気持ちが分かりますね。編集者と経営者、両方の視点を持たないとダメだなと。
水野氏:
あとは、作品を作家と一緒に作る編集者と、すでに「小説家になろう」とかで成功して読者を持っている作品を引っ張ってくる場合とで、求められる編集の質も変わるんじゃないかな。でもやっぱり、僕も割と初期のころから危惧していたんですが、編集部が自分たちの作品、要するに新人を育成できない、売り出せないような状況にどんどんなっていったじゃないですか。
だから「このライトノベルがすごい!」とかドラゴンマガジンさんの「龍皇杯」で取り上げられた作品を押すとかになってしまっている。ああいった手法が編集者や編集部としてのプロダクション能力を落としていった遠因じゃないのかなと。そう思うと同時に、やはり時代の変化として仕方が無かった面もあるとは思うんですけどね。
ライトノベルは苦しい時期もありましたが、うまい具合にパラ
提供元:Yahooニュース

