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妻の左目が義眼なのはかつて自分が作った爆弾のせいだった──綱渡りの夫婦を描く犯罪恋愛小説(レビュー)(Book Bang)

愛する妻が左目を失ったのは、かつて僕が作った爆弾のせいだった──。秘密を抱えながらの暮らしに、夫は少しずつ「真実」を明かしていくことを決める。綱渡りをするような危うい幸せの行き着く先とは? 

「小説推理」2022年11月号に掲載された書評家・大矢博子さんのレビューで、第43回小説推理新人賞受賞作『爆弾犯と殺人犯の物語』の読みどころをご紹介する。

 *** 落とし物のスマホを拾った空也。持ち主だという女性、小夜子に出会ったとき、空也は小夜子の左目の義眼に強烈に惹かれ、恋に落ちた。だがその義眼が、学生時代の爆弾事件のせいと聞いて空也は驚く。なぜならその爆弾を仕掛けたのは空也自身だったから。その秘密を胸に、ふたりは結婚。しかし小夜子もまた、ある秘密を抱えていた──。

 第43回小説推理新人賞を受賞した表題作に始まる、連作短編集である。

 この表題作単体でも抜群の完成度だ。空也の秘密の行方に加え、ひなという中学生が失踪した父親を探してふたりの前に登場したことで、小夜子の秘密もまた、かなり不穏なものであることが容易に想像できる。というかタイトルがほぼネタバレなのだから不穏も当然だ。

 ミステリの展開に引き込まれるのはもちろんだが、何よりふたりの静謐にしてどこか禍々しさを感じさせる駆け引きの描写がたまらない。互いに秘密があることを隠すでもなく、何かがバレて焦るでもなく、まるで1枚ずつカードを切っていくゲームのように、ただ淡々と思わせぶりな会話を交わす。それが読者の心にさざ波を立てる。

 純愛とは呼べない。かといって計算尽くの恋とも違う。はからずも呼び合ってしまったような、こうなる運命だったとしか思えない恋。この世界観がまず素晴らしい。

 そして第2話以降に進むわけだが……うーん、これはどこまで書いていいのか。第3話は空也と小夜子のその後の物語である、というところまでは書いておこう。表題作が新人賞応募作である以上、その先を想定していたとは思えないのに、実に鮮やかな「続き」を見せてくれる。

 第2話は交通事故で12年間眠り続けていた女性とその恋人の話。第4話は漢字好きの小学生と誘拐事件の話。そして第5話は絵を描く青年とその恋人の物語だ。

 それぞれがゆるやかにつながっていく。といっても、すべてが一つのところに収束して大逆転、というタイプの連作ではない。表題作がふたりの独特な愛の形を描いていたように、どの話も形の違う愛や恋の物語であるということがポイント。本書は確かにミステリで、その仕掛けや意外な真相もなかなかにテクニカルだが、ミステリの構造は彼らの愛の形を描くために存在していると言っていい。

 奪う愛、守る愛、執着する愛、因果の巡る愛。そして愛の優先順位。ミステリアスな事件が紡ぐ彼らの愛の形がたっぷり味わえる連作だ。

[レビュアー]大矢博子(書評家)
1964年大分県生まれ。書評家。名古屋在住。雑誌・新聞への書評や文庫解説などを多く執筆。著書に『読み出したら止まらない! 女子ミステリーマストリード100』『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』などがある。

小説推理 2022年11月号 掲載

提供元:Yahooニュース
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