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【「窓辺にて」評論】稲垣吾郎を照らす陽光が静かに心を包み込んでくれるようなラブストーリー(映画.com)

 やはり今泉力哉監督作品は、オリジナル脚本でこそより深く味わうことができることを改めて感じた。独特な会話劇、他者との間、物語世界を照らす陽光や抑制された生活音、そしてなんとも繊細な主人公の苦悩と恋人たちの心の揺らぎなどが、今泉的“リアルな恋愛観”で巧みに描かれる。

【フォトギャラリー】稲垣吾郎の撮り下ろしカット

 17作目となる完全オリジナルストーリーの本作は、妻について“ある悩み”を持つフリーライターが主人公。今回は稲垣吾郎を主演に迎え、今まで以上に“好きという感情”について深く掘り下げた、どこか可笑しくて、ちょっと哀しい大人のラブストーリーとなっている。今泉ワールドでありつつ、稲垣を得たことで、その世界がこれまでとはまた違った輝きを放つ。

 編集者である妻が人気若手作家と浮気していることに気づいても「怒りがわいてこない」という主人公の市川。よくあるお決まりのドロドロ不倫劇に向かうことなく、妻のことは好きなのに“なぜ、怒りがわかないのか”という市川の苦悩が主軸となって、物語は淡々と展開していく。この主人公の感情を最初は理解できない、共感できない人は多いかもしれない。

 しかし、今泉監督はそういう感情の男(夫)がいて当然とでも言うかのように主人公に据え、稲垣が演じるそんな市川にしばらく寄り添って見ていくうちに違和感は薄らいでいき、「怒りがわいてこない」という感情に興味がわいてくることだろう。あまりにもショックで思考が停止してしまったのではないか、いや強がっているだけだろうと勘繰りたくなるが、どうもそうではないらしい。

 市川は、親子ほど年の差のある女子高生作家との出会いと、彼女が執筆した小説の登場人物に興味を持つ。そのモデルとなった人たちと話をし、彼らの感情も受け止めていくことで、自身の心と対峙し探求していくことになるのだ。自分の感情の乏しさが怖くなり、正直であることで誰かを傷つけてしまう自分がいる。怒りがわかないのは自分が傷つきたくないからではないのか。妻を好きという気持ちは本当なのに、裏切られて悲しいという気持ちもわいてこないのはなぜなのか―。

 まるで異世界からやってきたかのようにも見える、渦巻く複雑な心を持った市川に、稲垣がその佇まいと眼差し、台詞の繊細な言いまわしによって説得力を与えている。そして今泉監督が紡ぎだす言葉や、カフェの窓辺や公園などで登場人物たちの顔や手を照らす陽光が、目に映らないものや、市川が見ているこの世界の空気感を表現してみせる。人にはどこか欠落している部分があるもので、それで悩み苦しむこともあるが、それでもいいじゃないかと、静かに見る人の心を包み込んでくれるような作品だ。

(和田隆)

提供元:Yahooニュース
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