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過去のパーツを現代に埋め込んだマッドサイエンティストの奇想(レビュー)(Book Bang)

 メアリー・シェリーが『フランケンシュタイン』の物語を書いたのは、夫で詩人のシェリー、継妹のクレア、クレアの愛人でやはり詩人のバイロン卿、主治医のジョン・ポリドリの五人が一緒にいるとき、バイロンがそれぞれ怪奇譚を創作し披露しあおうと提案したからで、このときポリドリが書いたのが『吸血鬼』。その場限りのお遊びが奇跡を生んだ。

 死者のさまざまなパーツを寄せ集めて怪物がつくり上げられたように、『フランキスシュタイン』という小説にもさまざまなパーツが埋め込まれている。メアリーの視点による、『フランケンシュタイン』創作にかかわる史実にもとづく物語と、小説『フランケンシュタイン』。さらに、セックス(ロ)ボットや人体冷凍保存施設をめぐる現代のリアルな物語もちりばめられている。

 十九世紀の登場人物と対応する名前の人物が、人工知能をめぐる現代の物語にも登場する。医師でトランスジェンダーのライ(メアリーの略)、セックスボットを販売するロン・ロード、雑誌記者のポリー・D、展示会の案内役クレア。夫のシェリーに対応する人物はいないかわりに、メアリーの小説の博士と同じ、ヴィクターという名の謎めいた人工知能研究者が出てくる。

 過去と現在を往還しながら小説は進行する。時代が変わっても、人の心の動きにそれほど違いはない。わが子を亡くしたメアリーの悲しみが、不死者の物語を紡ぎ出した。メアリーが書いた『フランケンシュタイン』の作中人物が、現実の人間のように動き始めて、過去にもう一つの時間が流れる。物語は現実を侵食し始める。

 セックスボットをめぐるおかしな物語が語られていた現在も、いつのまにかマッドサイエンティストの奇想に飲み込まれていく。過去と現在、二つの時空をつなぐトンネルがうがたれる瞬間があり、後には人類の夢の痕跡だけが残される。

[レビュアー]佐久間文子(文芸ジャーナリスト)

新潮社 週刊新潮 2022年9月29日号 掲載

提供元:Yahooニュース
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