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著者の年輪を感じさせる新生「大沢ハードボイルド」誕生(レビュー)(Book Bang)

 男の未練を描いた大沢在昌、新生ハードボイルド小説の傑作である。

 バブル期、“地上げの神様”と言われた二見の下で社員として働き、今では居酒屋を営んでいる円堂は、かつての同僚で現在、作家としてそこそこ成功している中村からある目撃情報を得る。それは、バブル崩壊後姿を消した二見の愛車で二〇億円の値が付くクラシックカー“カリフォルニア・スパイダー”に関するものだった。しかも車を運転していたのは、女だったという。とすればそれは円堂が心の底から愛し結婚を考えていたにもかかわらず、バブル崩壊後二見と姿を消した君香に違いない。存在すら疑わしいクラシックカーの亡霊をめぐり、バブルの亡霊達もまた動き出す。

 なにしろ三〇年も前の話である。中村と一緒に真相を追ううちに彼が悲劇に見舞われ、円堂は後に引けなくなる。だが「それをどこかで待っている自分がいた」と円堂の心情を作者は書く。が、円堂の心の中でうごめいているのは君香への執着であり、君香が何故自分を捨て、二見を選んだのか、過去に何があったのか、それを知りたい気持ちに他ならない。ある女は「円堂さんは心の一部を過去のどこかにおいてきている。人生がそれでかわってしまった」と言う。だがその円堂は「恋愛は、始まらないで終わるのが一番きれいだ」というロマンチストだ。

 人生の晩秋にあって襲いくる過去に立ち向かう孤独な男の闘いはいつ果てるのか。君香と二見は現われるのか。そして“カリフォルニア・スパイダー”の行方は。「俺はこの三十年、時間が止まっていたんだ!」と言う円堂はちょっとしたボガートであり、ラストに至るまで様々な醜態を演じつつも、雄々しく格好いい。そして四五五ページのある一言には思わず涙が出る。

 大沢在昌、ここ何年かの最高傑作であり、作者の年輪を感じさせる逸品となった。

[レビュアー]縄田一男(文芸評論家)

新潮社 週刊新潮 2022年9月22日 掲載

提供元:Yahooニュース
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