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フランケンシュタインをめぐる世界的に話題の傑作がついに邦訳 『フランキスシュタイン』ジャネット・ウィンターソン(レビュー)(Book Bang)

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本書のテーマを哲学の問題意識のもとで表現するなら、個人の人格(パーソン)は情報からできているか、というものになる。もしこの問いにイエスと答えるならば、死後でも情報を再現することでその人を甦らせることができるし、適切に情報を構築すれば私たちは新しい人格を作り出すことも原理的には可能だ。人の同一性の問題が、この作品では「人とプログラムに本質的な違いはあるか」というかたちでさまざまに変奏される。その中心となるのが一九世紀イギリスの作家メアリ・シェリーの物語であるのは納得のいくところだろう。彼女が一八一八年に発表した小説『フランケンシュタイン』は、科学者による生命創造が主題の一つだからである。本書の舞台は二一世紀にも及び、現代版のメアリ・シェリーに相当する人物は、トランスヒューマンの実践を試みる科学者に遺体を提供する医師ライ・シェリーである。本書で特に目を引くのは「プログラムと人間には本質的な違いはない」という主張が、言語が愛を表現する可能性と接続していくところだ。フィクションならではの反実仮想の楽しさを体験させてくれる箇所であり、記号の連なりである詩の中に、愛する男性の美を残そうとしたシェイクスピアのソネット六三番を自然と読者に連想させる仕掛けにもなっている。
同時に、本書に興味を惹かれた読者に向けて注意喚起しておきたいこともある。二一世紀編主人公とも呼べるライはトランスジェンダーだ。ジェンダーアイデンティティが流動的で固定しない自分を「ハイブリッド」と言い表し、ノンバイナリーでマスキュリンなジェンダー表現の人物として描かれている。ライのジェンダーの感覚や内面はおおむね繊細に描かれているのだが、物語中では頻繁に不躾な質問を受け、身体の状態を詮索され、レイプされる。トランスの仲間も、支援者も登場しない。これらが読み手のフラッシュバックのトリガーになったり、居心地の悪さを覚える原因になってもおかしくはないだろう。特にトランスマスキュリンな人々が経験する不正な社会のリアリティを描いているとも解釈できるのだが、本書を手に取る際には、事前にこの点を検討してほしいと思う。
さらに、人と人ならざるものの境界に言及する作品であるのに、セックスボットの描写が「人間の不完全な代替物」というステレオタイプを脱していないのは残念である。作中では「AI搭載型のロボットを真剣な配慮の対象にできるのは、情報の蓄積、すなわち記憶に基づいて行動をとるときだ」という発想が読み取れるが、ここには人工物がどれだけ人間に似ているかという評価の観点しかなく「人は人工物を人工物として愛する」という観点が抜け落ちている。あくまで本書のテーマが「人間とは何か」に限られている点も付言しておきたい。
[レビュアー]西條玲奈(分析哲学者)
河出書房新社 文藝 2022年秋季号 掲載
提供元:Yahooニュース

