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川本三郎「私が選んだベスト5」(レビュー)(Book Bang)

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日本人には共通の故郷のイメージがある。清流の流れる緑豊かな里山。自分の生まれたところではないのに不思議と懐しい。
浅田次郎『母の待つ里』は、この日本の原風景としての故郷を描いている。
六〇歳前後の東京で暮す人間たち―、大企業の社長、定年退職し熟年離婚したビジネスマン、独身の女性の医師が、里の風景が残る東北の村に帰る。「故郷」では「母」が優しく出迎えてくれる。
この「里」と「母」のもてなしは実はある企業が企画運営した仮想現実だった。
夢物語だが、老いが深まると、こういう作られた故郷に帰りたくなる。 松浦寿輝『無月の譜』は将棋をめぐる物語だが、勝ち負けではなく、駒が主役になっているのが新鮮で実に面白い。
プロの棋士になることに挫折した現代の若者が、太平洋戦争で若くして戦死した大叔父が将棋の駒を作る駒師だったことを知る。
そこで大叔父の短い人生を辿り、書体を「無月」と名づけられた幻の駒の行方を探る旅に出る。
探索譚である。最後、思いがけずニューヨークの将棋クラブで大叔父の作った駒を見出すくだりは感動的。
駒は使われてこその道具なのか、それとも、工芸品のように美しいものなのか。
駒(美)をめぐる葛藤が深い隠し味になっている。
西洋人は未知の土地へ冒険に出る。日本人は先人が歩いた場所を辿る。 そう考えさせるのは、高橋真名子『東海道五十三次いまむかし歩き旅』。四十代の女性が東海道を二〇一〇年から一一年にかけて東京から京都まで歩いた記録。そのあと復路も歩いたというから健脚に驚く。
冒険の旅ではない。あくまでも辿る旅。日本人らしい。昔、東海道を歩いた先人たちのあとを追っている。
現代の東海道を歩いては遠い過去に思いを馳せる。忘れられていた寺社が、古典文学を愛する著者によってよみがえってくる。 二〇一八年に癌が見つかったという長谷川櫂の『俳句と人間』は、一度、死を意識した俳人による俳句論で厳しさがある。
俳句というと、つい人生や時代を達観した余裕の文学と考えてしまうが、そうではない。
むしろ俳句は時代の空気を反映している。正岡子規や夏目漱石の俳句を、著者はその観点で読み直してゆく。大病を患った経験が俳句論に生かされている。
資本主義社会の基本は私有にある。人は家も車も日常空間も自分のものにしないと気がすまない。
そんな「私有」に対して「共有」を大事にする。そして新しい生き方を求める。
提供元:Yahooニュース

