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河瀬直美さんの在野精神はどこへ…アーティストは未来の評価を気にかけるべきだ(三枝成彰)(日刊ゲンダイDIGITAL)

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河瀬直美さんが総監督を務めた東京五輪の記録映画撮影に密着したNHKの番組が波風を起こしている。
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番組では開催反対のデモに参加したとされる男性の映像に「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という字幕が付けられていたが、その後NHKは事実が不確かなまま放送したと謝罪した。
確かにそれは問題だが、もうひとつ、強く感じたことがある。「アーティストは未来の評価を気にかけるべきだ」ということだ。河瀬さんは才能があり、インディペンデントな立場で映画を撮り続けている人だと思っていたが、番組での発言を見ると“在野の精神”から離れてしまった気がした。
彼女は「国際社会からオリンピックを7年前に招致したのは私たちです」とし、「そしてそれを喜んだし、ここ数年の状況をみんなは喜んだはず」だと言った。もちろんその意見は尊重されるべきだが、五輪招致を誰もが「喜んだはず」とするのは、大ざっぱすぎるだろう。
今回の話で思い出すのは、1936年のベルリン五輪だ。世界各国がナチスのユダヤ人迫害を知りながら参加したことへの疑問や悔恨の念はいまだにある。世界中がナチスにNOを突きつけボイコットしていたら、ホロコーストも違った結果になったのではないか、と。このとき記録映画「オリンピア」(「民族の祭典」「美の祭典」)を撮ったのは女性の映画監督レニ・リーフェンシュタールだが、戦後は米仏両軍からナチスへの協力のかどで逮捕された。
ナチスの将校と恋愛関係にあったデザイナー、ココ・シャネルも不遇な晩年を過ごした。
仏ファッション界に多大な貢献をした彼女のお墓はパリになく、スイスにある。オペラ「カバレリア・ルスティカーナ」で知られる作曲家マスカーニはムソリーニ政権に協力して、戦後に全財産を没収された。
考えてみてほしい。ピカソが評価されるのは「ゲルニカ」で戦争の悲惨さを描いたからだ。モーツァルトは王侯貴族(ハプスブルク家)を顧客に持ちながら、「フィガロの結婚」「ドン・ジョバンニ」などのオペラで腐敗した貴族社会を皮肉をもって描き出した。ベートーベンの「第九」には「王様も乞食も生まれながらに平等だ」という強烈なメッセージがある。歌詞の“歓喜(フロイデ)”を“自由(フライハイト)”に置き換えてみればいい。
このメッセージを伝えるために、交響曲に声楽を入れるというサッカーで手を使うがごときルール違反まで犯している。おかげで危険思想の産物としてドイツ本国で再演されるまで初演から22年もかかった。ジョン・レノンは「イマジン」で争いの無益さを訴えたことで、ベトナム戦争をやめさせた。
彼らへの評価はいずれも、心まで権力に売り渡さず、批判精神を持ち続け、メッセージのある作品を残したことによる。槙原敬之さんの「世界に一つだけの花」も、性的マイノリティーの人たちも含めて、すべての人が互いの個性を尊重しようというメッセージソングだ。
河瀬さんが批判精神を忘れたと言うつもりはないが、反対の声も多かった五輪招致をみんなが「喜んだ」と言い、2025年の関西万博のプロデューサーにも就任したことを知ると、体制にべったりのように見えてしまう。
私も“お上”の仕事を請け負うことはある。腰抜けと言われても仕方ないが、それでも体制への批判精神を忘れることはない。アーティストが体制から恩恵を受けていたら、やがて創作の自由は奪われる。結局は表現者としての未来を歪めてしまうことになるのだ。
権力に同調してプロパガンダに手を貸すことだけは、したくない。
(三枝成彰/作曲家)
提供元:Yahooニュース

