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『BEASTARS』板垣巴留×『戦場のフーガ』松山洋 ケモノ対談 ――「理性」と「野生」のせめぎ合いから生まれる創作の極意(電ファミニコゲーマー)

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2021年7月29日にリリースされたドラマティックシミュレーションRPG『戦場のフーガ』。この作品は、イヌヒトやネコヒトが暮らすケモノ世界を描いた「リトルテイルブロンクス」シリーズの最新作だ。
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本作を生み出したサイバーコネクトツーにとって「リトルテイルブロンクス」シリーズは、これまでに『テイルコンチェンルト』や『Solatorobo それからCODAへ』といったゲームでも共通する世界観として描かれてきた、同社にとって非常に重要なものだ。それは『戦場のフーガ』が、サイバーコネクトツー初の自社パブリッシングタイトルであることからも伺える。ちなみに、「リトルテイルブロンクス」やケモノジャンルに対する同社のこだわりは、こちらの記事でも詳しく語られている。
ところでケモノジャンルと言えば、2010年代後半に突如として現れた衝撃的なコミックを思い浮かべる人も多いだろう。2016年~2020年に『週刊少年チャンピオン』誌上で連載されて、2018年のマンガ大賞をはじめとする数々の賞を受賞した、板垣巴留氏の『BEASTARS』だ。同作は2019年と2021年にTVアニメが放送されたほか、今後はNetflixでアニメシリーズ新章の配信が予定されている。
全寮制のチューリントン学園で、アルパカのテムが何者かによって「食殺」されたことから、『BEASTARS』の物語は始まる。それは肉食獣と草食獣が共存するこの世界において、最大のタブーであった……。
板垣巴留氏が描き出す『BEASTARS』の世界は、一見すると愛らしいケモノたちが共に暮らす楽園のように見える。だがそこには、ケモノ世界ならでの歪さや苦悩が隠れている。ケモノの世界を通して人間の本質を描き出す『BEASTARS』の手法は、獣人の子どもたちが巨大戦車を操縦することで、時には生命をも犠牲にしなければならない戦争の本質と向き合う『戦場のフーガ』の手法とも、相通じるものがある。
そこで電ファミニコゲーマーでは、『BEASTARS』の作者である板垣巴留氏と、サイバーコネクトツー代表取締役社長であり、『戦場のフーガ』の製作総指揮を担当した松山洋氏による対談を企画した。オンラインによるリモート会議で行われたこの対談には、『週刊少年チャンピオン』編集部の担当編集者にもご同席をいただいた。
ケモノ世界を通して人間社会を描くという共通点から企画されたこの対談だが、そこは「ゲーム業界でナンバーワンのマンガ好き」を自称する松山氏だけに、話題は『BEASTARS』やケモノ世界だけに留まらず、板垣巴留氏の最新作『SANDA』や創作そのものについての話題など、幅広い内容に及んでいる。ゲームファンのみならず、コミックファンにとっても必読だ。
聞き手/TAITAI・クリモトコウダイ
文/伊藤誠之介
編集/クリモトコウダイ
■『BEASTARS』の第1話で「食殺」という言葉を見て、雷に打たれたような衝撃を受けた
松山氏:
まず最初によろしいですか……。ふだんインタビューとかに出られる時は、マスクで顔を隠しておられたので、素顔を存じ上げなかったんですけど、巴留先生ってこんなにお若い方だったんですか!?
板垣氏:
今年で28歳ですね。
松山氏:
えっ! (あまりにも見た目がお若くて)大学生かと思いました。『BEASTARS』はいつ頃から連載を始められたんですか?
板垣氏:
大学を卒業してすぐ、って感じですね。
松山氏:
スイマセン、いきなり驚いてるおじさんで(笑)。勝手ながらイメージとぜんぜん違ったので、驚愕しております。
板垣氏:
いやいやいや。
松山氏:
今回ウチは『戦場のフーガ』というケモノの世界のゲームを作りました。それで何かゲームを盛り上げる企画をやりたいと考えていたら、電ファミさんから「ケモノつながりで『BEASTARS』の板垣巴留先生と対談するのはどうですか?」と言われて。「そんなご褒美ある!?」と思ったんですよ(笑)。なので、おかしなテンションになっていたらスイマセン。
遅ればせながら『BEASTARS』は大好きですし、新連載の『SANDA』の最新話もめっちゃ良かったです。
板垣氏:
ありがとうございます。
松山氏:
『BEASTARS』は衝撃でしたね。ケモノ系の作品ってこれまでにも、ないわけではなかったんですけど。でも『BEASTARS』の連載が本格的に始まった時は、とんでもない切り口の作品が出てきたなと思って。だって「食殺」という言葉が、すべてを物語っているじゃないですか。
──「食殺」って言葉のインパクトがすごいですよね。
松山氏:
ケモノ系の作品で、絶対にやったらアカンところじゃないですか。草食獣と肉食獣が一緒の学園に通っていて、横にいるヤツにいつ食われるかわからんという世界観をぶっ込んでくる時点で、作品として狂ってる(笑)。「『チャンピオン』ってこういうトコあるよね」って、マンガ好き界隈の仲間たちと語り合っていたんですけど。
板垣氏:
(笑)。
松山氏:
今回我々が作った『戦場のフーガ』の始まりは、25年前に作った『テイルコンチェルト』というゲームなんです。この2作と、それから10年前に作った『Solatorobo それからCODAへ』というゲームは同一のケモノの世界観で作っているんです。
それで我々が動物モチーフの世界観を作る時にまず最初に決めたのは、この世界には「イヌヒト」と「ネコヒト」という2種類の種族しか基本的にはいませんと。そうやって種族を絞らないと、「ケモノ同士が恋に落ちて結婚したら、どっちの子どもが生まれるの?」みたいな話に必ずなるじゃないですか。
ちなみにこれは、人間が生まれる時に最初は男の子か女の子か分からないのと同じで、イヌヒトとネコヒト、どっちの血を引くのかは分かりません、ということになっているんですけど。
──あと、彼らは何を食べるんだと。
松山氏:
そう。「自分たちはイヌヒトやネコヒトなのに牛を食うの?」とか。「野菜や木の実ばっかり食べるの? そんなことないよね」というところから、「ギウ」っていう家畜用の動物がいて、それを食べているだとか。あとはイヌヒトのほうが人口が多くて、ネコヒトのほうが少なくて元々の出自も違っていて、そのためにちょっと差別的な扱いを受けているっていう、歪な世界観になっているだとか。
それって要は、実際の人間社会でも起きることじゃないですか。そういうものを動物キャラで図式化することによって、ゲームを遊ぶ子どもたちや大人たちがなるべく世界観に入りやすいようにする。「動物キャラなのになんでこんなに感情移入できるんだろう」というのをデザインすることで伝えようという戦略でやっていて。
ちょっと自分たちの世界観の説明が長くなりましたけど、要するにケモノの世界観でもデリケートな部分がいっぱいあるじゃないですか。なので、そこはいろいろ考えて世界観を作っていったんです。でも我々の中で「絶対にやったらアカン」と言っていたのが、まさに『BEASTARS』で言うところの「食殺」ですよ。あれってスゴイ言葉だと思うんです。
板垣氏:
そうですね(笑)。
松山氏:
あの言葉を見た瞬間に雷を受けたようになって(笑)。『BEASTARS』が始まった時に「とんでもないものが来たぞ」と思ったんです。だってケモノの世界観で肉食と草食の生き死にを、しかも絶妙に見えない描き方をされるじゃないですか。これって、いちばんいやらしいやり方だと思うんですよ(笑)。だって「殺人事件」と言えば聞こえはいいですけど、食うてますからね!
なので、お伺いしたいんですけど、あの世界の謎とか事件の中心に「食殺」というものを置こうと言ったのは、巴留先生なんですか? それとも編集部から「もうちょっと踏み込んだほうがいい」と言われたとか、そのあたりのさじ加減ってどうでした?
板垣氏:
どうだったかなぁ……。とにかく、この動物の世界で絶対に起きちゃいけないことをまず1話目に起こすことで、それが世界の説明にもなると思って。
ただ私としては、食殺事件自体をこの物語の縦軸にしようとは、あんまり考えていなかったんですよ。後々になって担当さんから「犯人は誰なの?」と聞かれて、「あっ、それを決めなきゃいけないんだ」と思って。
松山氏:
そりゃそうですよね(笑)。
板垣氏:
私自身、マンガの描き方をあんまり分かんないまま始めたので。それが逆にナチュラルな感じになったのかなと。
松山氏:
そんな感じなんですか!?
板垣氏:
そうですね。
──『BEASTARS』の独特な視点が生まれた背景には、巴留先生が日常的に感じる違和感とか、そういうものがあるんじゃないかと思うのですが。
板垣氏
そもそも『BEASTARS』の世界は、学生時代、それこそ中学・高校時代からなんとなく頭の中にあったものなんです。
子どもの頃に、周りの友達が動物の世界の絵やアニメを見て「犬のキャラクターが犬を散歩させてるのっておかしいよね」とか、そういう指摘をしていて。それって子どもが自分を賢く見せたくなる年頃に、そういう指摘をするんだと思うんですけど。私はそういうのを見ていて「つまんない指摘をするなぁ」と思っていたんです。それで「子どもにつまらない指摘をされないような動物の話を描ければいいな」と考えていたものが、今の『BEASTARS』の世界になったんです。
私の中では「納得感」というのが大事なテーマなので、そういう気持ちでやっていましたね。
──ちなみに巴留先生は、ディズニーの『ズートピア』【※】ってご覧になりました?
板垣氏:
見ました。ちょうど『BEASTARS』の連載が始まるのと同じ時期に公開されたんですよ。それでかなり警戒した気持ちで見たんですけど(笑)。あれはあれで大勢の人が作っているだけあって、作り込みがスゴかったですね。ただ、最後はやっぱりディズニーだから……っていう展開になっちゃったな、とも思いましたね。動物だから起きたというよりは、人間が起こした展開というか。
──そういう意味での「納得感」として、『BEASTARS』はすごく腑に落ちますね。
板垣氏:
でも『ズートピア』はその結果、大勢の人に見てもらえるものになっているわけですから。あれはあれで素晴らしい作品だと思います。
■とにかく「毎週毎週の連載を楽しく読んでもらう」のが目的
松山氏:
少年マンガって普通「お父さんに会いたい」とか、それこそ「海賊王になりたい」とか、そういう目標があるじゃないですか。その目標を達成するために、主人公の成長を描いていくというのが多いと思うんです。でも『少年チャンピオン』の場合は、そういう目標を提示していない作品が意外と多くて。
板垣氏:
たしかに。
松山氏:
『BEASTARS』も主人公のレゴシに、明確な獲得目標とか夢とかいったものが、最初は定められていないじゃないですか。
板垣氏:
そうですね、なかったですね。
松山氏:
でも全部終わって振り返ってみると、ちゃんと少年マンガになっているんですよ。
──目的を提示しないというのは、何か理由があるんですか?
板垣氏:
どうなんだろう。
松山氏:
両方あると思うんですよ。少年マンガは目的を宣言するのが必要というのは、おそらく『少年ジャンプ』的な思考で。
『ジャンプ』って第1話で人気を取らないと、その後絶対に続かないので。だから、この主人公は何がしたくて、何が欲しくて、何のためにがんばるのかを第1話で宣言するというのが、ほぼ『ジャンプ』のテンプレになっていると思うんです。でも一方で、主人公が事件に巻き込まれてしまってこの後どうなるんだろうってドキドキワクワクする物語のパターンも、もちろんありますから。巴留先生の場合はそういう感覚なのかなって思うんですけど。
板垣氏:
そうですね。私の場合はとにかく毎週毎週を楽しく読んでもらいたい、というのが目的なので。あんまり遠いゴールを決めてしまっても、それに自分ががんじがらめになってしまうと思うんです。主人公の目標が見つかった時は、それはめでたくみんなに宣言するんですけど、それまではとにかく毎週毎週、ってやり方なんですよね。
松山氏:
ちなみに、単行本の区切りは意識されていますか?
板垣氏:
1巻は意識しますね。2巻以降は意識しないですけど。
松山氏:
あっ、そうなんですか。改めて単行本で読み直しても、絶妙な区切り方をされていると思って。
板垣氏:
一応毎週、引きを作るようにしているので、どこで切れても大丈夫なようにはしていますから。
松山氏:
編集部的にはどうなんですか?
担当編集:
一応、お伝えはしています。ウチの単行本はだいたい9話入るのが基本なので、その3話前ぐらいから「この話数で2巻の終わりになる予定です」ぐらいしか、お伝えしてはいなかったかなと思うんですけど。
板垣氏:
「ここが単行本の引きだから」って描いちゃうと、その前の回が助走みたいになったりするかもしれないので、それはいちばん避けなきゃいけないな、って思うんです。あくまで「その場その場を全力で」って感じですよね。
松山氏:
じつはこの対談に合わせて『BEASTARS』を全巻また読み直して、すごく計算されて作られているなと思っていたんです。もちろん走りながら作っているライブ感も感じるんですけど、後半の展開とか、「これはどこまで計算してやってるんだろう?」と思いましたね。
特に序盤は、読みながらさすがに「ない」とは思っていたけど、それでもまだ「食殺事件の犯人が、主人公のレゴシである可能性はぬぐいされない!」と考えていましたから。レゴシもなんだかんだで血の匂いにフラッとなったりしてるし。「主人公がその部分を出したらアカン!」っていう危うさを、ずっと持っていたじゃないですか。もう毎週毎週、夢中になって読んでいましたね。
板垣氏:
ありがとうございます。
松山氏:
『少年チャンピオン』の編集部的には、大きいうねりとかをどれぐらい相談された感じなんですか?
担当編集:
僕は12巻から『BEASTARS』を担当しているんですけど、先生にはチョコチョコと「こういうのが見たいですね」という話をさせていただいていたんです。それこそ初代の担当が「食殺事件の犯人って誰なんですか?」と聞いたみたいに、読んでいて気になったところや疑問に思ったところを先生にぶつけていって、そこに向かってやっていただく、みたいな感じだったと思います。なので、あんまり先の話を先生と話したりはしなかったですね。
板垣氏:
そうですね、ぜんぜんしなかったですね(笑)。
担当編集:
組み立てというよりは大まかに「こういうのが見たい」とか、「こういう方向に行くのが良いのではないでしょうか」ぐらいの感覚で、打ち合わせをさせていただいておりました。
松山氏:
ある種、理想の形みたいな感じじゃないですか。作家性を中心に据えつつ、適切な距離で。
板垣氏:
そうですね。本当に好きなように描かせてもらったので。マズイ描写の時はアドバイスをくれたりするし、理想的だったと思います。
担当編集:
唯一先生にお願いしたのは、先生から突然「もうすぐ連載が終わります」と言われて、「アニメもあるので、せめてあとこれぐらいはやってください」とお願いしたぐらいですね。結果的に、先生が想定していた巻数より1巻、2巻は多くやってもらったかなと。
松山氏:
急にビジネスマンになってる(笑)。でもあのクライマックスは、最初から想定されていたのかと思うぐらい、ぜんぜんムダな要素を感じさせなかったですけどね。
板垣氏:
ありがとうございます。
■ひとりの脳みそから生み出されたものだから、不思議と矛盾なくつながっている
──チームや組織でモノを作ると、みんなで話し合うじゃないですか。みんなが納得するものってどうしても、ちょっとずつ妥協したものになるというか。誰かひとりがやると100パーセント振り切ったものになるかもしれないけど、チームでやるとみんなで80点みたいなところに収束しがちになる課題というか、問題があると思っていて。
映画もアニメもゲームも、集団で作るクリエイティブは、そこをいかに突破するかがずっとつきまとう課題だと思うんです。そこでたまに、宮崎駿さんみたいな超絶個性の人が突破してくる現象も起きたりするんでしょうけど。
それで言うと、マンガは編集の方と打ち合わせもしますけど、基本的には個人で描かれるものなので、ひとりでやるがゆえの純度の高さがあるような気がするんです。巴留先生としては、どういったところにマンガを描くことの良さを感じていますか?
板垣氏:
海外ドラマとかを見ていると、本当によく練り込まれたストーリーで、矛盾もなくて伏線もキッチリ回収するっていう、そういう気持ち良さがあるんですけど。でも一方で、ひとりの脳みそからひり出したものって、またそれとは違う刺激があると思うんです。
私であれば『BEASTARS』で「急に部員の腕がちぎれて、そこから犯人が分かるんです」みたいなアイデアって、やっぱりひとりの脳みそからしか出てこない感じがしていて。そういうひとりのひらめきに頼るからこそ、労力は大きいけどものすごく価値がある気はしますね。
──逆に、チームで作ることへの憧れみたいなものはありますか?
板垣氏:
たまにひとりで弱り切っている時には「私だって大勢で考えたいよ」って思う時もありますけど(笑)。でも結局、担当さんと2人で一晩かけて考えたアイデアより、作家が一瞬でひらめいたアイデアのほうが、ものすごくおもしろいものだったりするっていう、残酷な現実もあるので。そこはもう、頼れないですね。
──ゲーム会社の社長である松山さんとしては、このへんの話はいかがです?
松山氏:
結局は同じことなのかなって思いますね。だからゲームも映画もアニメも「監督」という立場の人がいて、この人が王様で全部決めることになっているので。
ただゲームは要素が多すぎて、監督が全部に手を入れられるかというと、そんなことはできないので。だから各パートごとは担当のスタッフに預けるしかないし。その1個1個を紐解いていくと、60点や80点のところがあるかもしれないけど、ゲームも映画もトータルのパッケージとして見た時に、監督が「これはオレの中の100点だ」と言えるものになっているかどうかだと思うので。
それをいちばん少ない人数でやっているのが漫画制作だと思うんですね。
板垣氏:
そうですね。
──そういう意味では今回の『戦場のフーガ』は、もちろんチーム制作ではあるんだけど、プロジェクトのサイズ的にはかなり「尖り」が出やすい態勢になっていると思うんです。
松山氏:
お預かりしている版権でキャラクターゲームを作る際は、当たり前ですけど製作委員会だったり原作の版元さんだったり、いろんな大人たちの考えや事情や都合が入ってきて、その中での最適解を作らなきゃいけないというのがあるんです。それが今回、全部自分たちでゼロから決められるというのは、「嬉しい」「自由だ」という反面、「何をとっかかりにして決めればいいんだろう?」というのも出てくるんですよね。可能性が無限大すぎて「なんだっていい」になってしまうので、「これって正解は何ですかね?」ってみんな悩むんですよ。
でも結局のところ、いちばん俯瞰して全体を見ているのは監督なので。その監督が「これはこうだからやれ」と決める。これはある種、個人の好みとも言えるんですけど、それで決めていくしかないので。そこのスピード感は、パートナーさんと一緒にやっているお仕事とは決定的に違うかなと思いますね。
私自身、『戦場のフーガ』ぐらいの規模感は、自分でマンガを作っている時ぐらいの感覚はありました。その時その時、一瞬のアイデアで勝負しているみたいな。人数が少ないし期間は短いしで、悩んでるヒマなんかないですから。
──巴留先生が先ほど「毎回毎回その話を楽しく読んでもらいたい」というお話をされていましたけど。それは週刊連載というフォーマットもあると思うんですけど、やっぱり紙芝居の延長線上にある文化というか、ライブ感を重要視する文化だなぁと感じるんです。そういう「週刊連載のライブ感」って何なんだろう? という素朴な疑問があって。
板垣氏:
たしかに週刊連載ってかなり特殊だと思うんです。毎週締切が来る状態って。
話のつなぎとか伏線とか矛盾のなさとか、物語に必要なものはいろいろあるんですけど、でもそういうものに囚われてつまんなくなる作品って、たくさんあると思うので。私は初代の担当さんから「とにかくおもしろければいい」と教えられて(笑)。
松山氏:
力強いなぁ(笑)。
板垣氏:
「とにかく毎週おもしろければそれでいい」と。週刊連載はそれだけですね。
──でも松山さんが言っていたように、『BEASTARS』は「区切りがいい」とか、「全部読み返すとキッチリ仕組まれている」というものになっているじゃないですか。それはどうしてなんですか?
板垣氏:
毎週おもしろく、誠実な気持ちでやっていれば、結局はひとりの脳みそから作られたものなので、なんかつながっていたり、矛盾がなかったりするんですよね、不思議と(笑)。「ここ、上手くやれるじゃん」とか。
投げやりな気持ちでやっていたりすると、つながらない点とかが出てくるのかもしれませんけど、作品に誠実であれば、そこはやっていけるような感じはします。
──「毎週おもしろければいい」と言いつつも、「さすがにこれはおかしいな」というところも常に考えつつやっている感じですか?
板垣氏:
そうですね、何かしらはあると思います。理性の部分と野生の部分がせめぎ合っている感じで(笑)。
──クリエイティブなものとかエンターテインメントって、説明ができてしまうものはもう終わったものだと思うんですよ。まだ誰も見たことのない最先端のものは、説明ができないわけで。
板垣氏:
そうですね。
──巴留先生が今言われた「野性味」みたいな肌感が、クリエイティブの最先端なんだろうなと常々思うんですけど。
板垣氏:
それはめっちゃわかりますね。「理解できておもしろい作品より、理解できなくておもしろい作品のほうが魅力がある」という話を、たしか最初の編集さんだったと思うんですけど、聞かされたことがあって。その言葉がすごく印象に残っているんです。だから本当に、勇気を持つことの大切さというか。
──そういった「マンガにとって何が大切か」みたいな話って、最初の担当編集さんから教わるものなんですか?
板垣氏:
そうですね。本当に右も左も分からないところから始まるので。そこでメモを取らないほうがいいんですよね。自分の記憶に残った助言は、後々まですごく残りますから。
「毎週読み切りみたいな気持ちで描けばいい」とか、「よく分からないけどおもしろいものが魅力がある」とか、そういう衝撃的な助言はいつまでも覚えているものなので。
松山氏:
本当に衝撃的だなぁ(笑)。
──そういうものは作家仲間とかではなく、やっぱり編集さんから学ぶものなんですか。
板垣氏:
私の時は最初の担当さんが、すごくベテランの編集者さん【※】だったので。まるで父親のような目線でアドバイスをくれた気がします。『スター・ウォーズ』のオビ=ワン的な存在ですね。
■ベテランの漫画家になるほど、雑談の中からアイデアを拾ってくる
──担当編集さんにお聞きしたいんですけど、板垣巴留先生は漫画家のタイプとしてはどういう方なんですか?
担当編集:
私はもともと編集者のキャリアとしてはヤング誌にいて、けっこうベテランの作家さんとお仕事をしていたんですけど、巴留先生はそういうベテランの風格を感じるというか(笑)。
言い方がちょっとヘンかもしれないですけど、「おもしろくなるのもならないのも全部私のせい」みたいな強い気迫を感じるし、間違いなく天才だと思います。……巴留先生、にやつかないでください(笑)。
板垣氏:
にやつきました(笑)。
担当編集:
けっこうな人数の作家さんとおつきあいしてきましたけど、間違いなく天才の部類ですね。ネームも早いし、原稿も早いし。
驚きだったのは、ネームにOKを出して原稿も上がったのに、その仕上がりに納得がいかなくて「渡したくない」って言われたんですね。そうしたら次の週に、進行に遅れないように通常の2倍の40ページを描いてきたんです。
松山氏:
えぇーっ!
担当編集:
そういう意味では、作品作りで良くも悪くも編集者に頼っていないですね。だから打ち合わせも作品の話というよりは、最近のニュースを見てどう思った、とかのほうが多いです。
板垣氏:
雑談が多いですね(笑)。
担当編集:
ベテランの作家さんになるほど、雑談のなかからアイデアを拾うことが多いんですよ。僕の先輩編集者で、「ネームを見て頭を突き合わせている間は、おもしろいものは生まれない」と教えてくれた人がいたんです。「作家さんはもともとアンテナの質が違う。お前が普通の人間の感性で世の中のことを話した時に、向こうがどう拾って広げてくれるかが重要だから、雑談できるようになれ」というのが、僕が最初に教わった編集者から言われたことですね。
「まず他人とちゃんとしゃべれるようになりなさい」と言われて育ったので、僕は巴留先生の担当はやりやすいですし、楽しいなと思っています。そういう意味では間違いなく、自分の力でやっていくぞという作家さんですね。ベテランの作家さんに多いタイプで。
板垣氏:
(笑)。
──巴留先生のほうからは、編集者に何か期待することはあるのですか?
板垣氏:
たしかに担当さんは、止めなければ一日中ひとりでしゃべってくれる人なので(笑)。
松山氏:
教えを守ってる(笑)。
板垣氏:
そういう楽しさはあるし、私自身、他人と話したり関わったりすることに飢えてしまう仕事だから、そういう面で助かっていますけど。でも、担当さんにいちばんに求めていることは、おもしろかったかどうかを正直に言ってもらうことですね。
──編集者が最初の読者であるのは間違いないですけど、でも一方では無数にいる読者のひとりでしかないわけじゃないですか。その時に、その人が「おもしろい」と言っているのをどこまで真に受けて捉えるべきなのか。作家さんが編集者の言葉をどう捉えているのかというのに、興味があるんです。
板垣氏:
そこは打ち合わせで「こういうストーリーにします」と言った時の反応で、だいたい読者の反応も分かってくるというか。担当さんの声のトーンや目の輝きを見つつ、「これは正解を叩きだしたな」「ここはもうちょっと捻ったほうがいいな」とか、そういうバロメータになっているかもしれないですね。
──やっぱり観察力が違うんですかね。
板垣氏:
観察力がありすぎてツライ時もありますけど。敏感になりすぎる、みたいな。
松山氏:
ウチではマンガだけじゃなくてゲームのデザインとか設定とかシナリオとかでもそうなんですけど、「脚本デバッグ」と言って、マンガ制作に携わっていない人間にマンガのネームを見せたりして客観的な意見をもらう時があるんですけど。だいたい意見って2つに分かれていて。「生理的にイヤ」とか「ここは不自然」とかって言うんです。
でも、それを狙ってやっている部分でそういった反応が返ってきた時は、自信に変わるんですよね。「よし、かかった!」って。
板垣氏:
分かります。
松山氏:
逆に、こっちの想定していないところで「ここはヘンだと思います」と言われたら、100パーセント直すんですよ。そこは正直どうでもいいというか、自分たちとしてはこだわりのないところなので。こだわってるところでそう言われたら、大きいところで判断はするんですけど、だいたいは突っぱねますね(笑)。
──巴留先生は、情報のインプットはどうされているのですか? 編集者との会話が大きいんですか?
板垣氏:
あとは作業中、ずっとTBSラジオを流しながらスタッフさんとしゃべっていて。そのスタッフさんとの雑談もかなり大きいですね。けっこう語れる人が揃っていて(笑)。もちろん腕はある人たちなんですけど、腕は上がっていくものなので、それよりは価値観とか、どれほどしゃべれるかってところを、スタッフさんには重視していますね。
──しゃべれる、というのはどういうところなんですか?
板垣氏:
偏屈な人とか偏見がある人でもいいんですけど、「それを見て自分はこう思った」というのを聴けることとして語ってくれる人。性格が良いとか悪いとかじゃなくて、そこが大事ですね。むしろ偏見を持っている人のほうがおもしろいくらいかもしれないです(笑)。
──自分にはない価値観を持っている人ですか。
板垣氏:
そうですね。
──巴留先生の作中のキャラクターは、現実世界でモチーフになる人がいるのですか?
板垣氏:
いたりいなかったりですけど、「こういうヤツいるよね」というのは大事にしています。動物だからこそ、余計にリアリティが必要だったりするんで。その人そのものというよりは、この人の異常に優しい面だとか、自分に甘い面だとか、そういう側面でおもしろいところはどうしたって入っちゃうし。ときには、それが自分だったりもするし。
レゴシの友達のジャックは、完全に物語の安全圏として、私の母が一応モデルだったりするんですけど。そういう明確なモデルはやっぱり家族だったりするのが多いですね。ゴーシャは私のおじいちゃんだったり。思い入れがあるキャラはそうなったりします。
裏市も、私が小さい頃に目撃した歌舞伎町がモデルなので。私が小さい頃の歌舞伎町って、今よりもだいぶすごくて、裸丸出しの看板があったりとか(笑)。映画館に行くまでの道でそこを通らなきゃいけなくて、お母さんに「下を向いてなさい!」って言われて歩いた記憶があるので。
──そういう自分が見聞きしたものを、ちゃんとアウトプットに活かせるというか。
板垣氏:
そうですね。結局そこが大事な気がします。
■サンタクロースに、ヒーローっぽいカッコ良さを感じて惚れ込んでいた
──巴留先生が今「週刊少年チャンピオン」で連載されている『SANDA』もおもしろいですね。
松山氏:
また、っていうと怒られますけど、主人公である三田の獲得目標が提示されていないんですよ。完全に巻き込まれ型の主人公だから、物語がどこへ行くかわからないじゃないですか。
板垣氏:
そうですね。
松山氏:
巴留先生がケモノ世界ではない人間世界を描くのは、『SANDA』が初めてだと認識しているんですけど。どういった経緯で『SANDA』を描こうと思われたんですか?
板垣氏:
以前に『漫画ゴラク』さんのほうで、サンタクロースと風俗嬢の読み切りを描いたことがあって。これが自分の中で手応えがあったんです。「これは少年マンガでやったほうがいいテーマかもしれない」と思ったので、それを少年マンガで描く代わりに、『漫画ゴラク』さんのほうにはまた別の話を単行本1冊分提供するっていう、闇取引みたいなのをしたんですけど(笑)。
もともと私は狼が好きで、それでレゴシを生み出したのと同じように、サンタクロースという存在にもけっこう惚れ込んでいたんです。やっぱり自分のルーツになっている、思い入れのあるものを描きたいなと思って。
──サンタクロースのどういったところに惹かれたのですか?
板垣氏:
誰も本物を見たことがないのに、子どものあいだではまことしやかに語られていて。しかも一晩限りでメチャクチャ仕事をする大男って、なんだか任侠モノっぽいというかスパイ映画というか(笑)、ヒーローっぽいカッコ良さを感じていて。そういう意味ですごく好きだったんです。
松山氏:
なるほど、そこを抽出されたわけですね。
板垣氏:
そうですね。ヒーロー物としてのカッコ良さを意識しています。
あとは自分が20代後半になって、「大人になる」というのは何なのかって考えることがたくさんあって。子どもだった自分が大人になることについて、サンタクロースをモチーフにすれば描きやすいかもと。なんか、そういうタイミングが重なったんですよね。
──先ほど「納得感」のお話をされていましたけど、『SANDA』ではどういった納得感を目指しているのでしょうか?
板垣氏:
サンタクロースという存在をみんな、やがて信じなくなるじゃないですか。でも私自身、中学ぐらいまでは、たしかにクリスマスにサンタは来ていないんだけけど、それは「サンタが親に委託しているだけで、存在はしているんだ」という形で、自分の中での溜飲の下げ方をしていて。
だからサンタを信じなくなった子どもたちに向かって「信じろ!」って揺さぶるんじゃなくて、「ほら、こういうふうにやればサンタはいるんだよ」という諭し方を今、探っているような感じで描いていますね。
──どれもこちらが想像しない回答が返ってくるのがスゴイですね(笑)。編集部としては、『BEASTARS』の次にこういった連載をしたいというのを聞いて、どう思われましたか?
担当編集:
『BEASTARS』が終わる直前ぐらいから、先生からそういったお話をちょっと聞いていて。他社からも連載依頼が沢山きていることは知っていたので、また週刊少年チャンピオンで描いて頂けるのが嬉しいというのが第一にありました。
あらすじを伺ったら「それは面白そうじゃん」と感じたので、そのまま突っ走って描いてもらったという感じです。
──動物のキャラクターだとこういうことが描きやすくて、逆に人間のキャラクターだとこういうことが描きやすいというのはありますか?
板垣氏:
なんだろう……。人間って動物モチーフのキャラクターがすごく好きなんですよね。今までいろいろ語られてきた童話は動物のキャラクターがほとんどだったりするし。そういう意味ではレゴシというキャラクターに対して、造型からしてすぐに一目惚れしてくれる人がけっこういたと思うんです。
でも人間のキャラクターだと、まずその時点でみんなと同じ世界にいるというか。人間キャラでみんなに愛されるデザインというのをちゃんと考える必要があるな、という奥の深さを最近学びましたね。
松山氏:
『BEASTARS』だとケモノの特異性があったじゃないですか。「ゴマアザラシはこういうキャラでいくのね」っていう。それでキャラを覚えるというか、刻まれるところもありましたけど。だから「板垣巴留が人間を描いたらどうなるのか」と期待していたんですけど、『SANDA』もやっぱり独特の唯一無二性というか、存在感があって。
このあいだ出てきた学園長なんか、いくら整形のしすぎとはいえ、杖で顔の表情を動かしたりするなんて、普通はあり得ないじゃないですか。これだけでもう、この学園長のことを絶対に忘れない。そういった世界観の歪さと新しい登場人物の刺し方が、相変わらずスゴいなぁと思って、毎週楽しみにしております。
板垣氏:
ありがとうございます。
■世界観作りでは、受け手が納得するバランスを探る作業が楽しい
──サイバーコネクトツーとしては、ケモノ系のゲームとそれ以外のゲームで、作っている感覚が違ったりするのでしょうか?
松山氏:
やっぱり違いますね。世界観を作るのって正直、楽しいじゃないですか。ゲームの中ですべてが表現できるわけじゃないんだけど、でも設定は作っておくんです。その根拠があることで、世界観を感じ取れる部分があるので。
会社のスタッフに話しているひとつのお手本というか目安になっているのが、庵野秀明さんたちが作ったアニメ『王立宇宙軍 オネアミスの翼』【※】なんです。お話としては、とある惑星で若者たちが宇宙開発に携わってロケットを飛ばすだけなんです。でも、その世界の文化や宗教や交通や政治がどうなっているのか、作品の中ではぜんぜん説明しないんですけど、全部考えられていて。オリジナルの世界観を作る、つまり「世界を作る」とはこういうことなんだって、私はたしか10代だったと思うんですけど、この映画を観て衝撃を受けたんです。
だから自分たちでゼロからベースの世界観を作る時は、「この人たちはなんで生活できてるの?」「何を食べてるの?」「トイレはどんな形なの?」と、そこまで作るようにしていて。イヌヒトのトイレなんて、作ってもゲームの中には出てこないんですけど、でもそういうものを考えているからこそ、その架空の世界を生きるキャラクターの生活面をゲーム内で表現する時に、説得力がちょっとずつ増していくのかなと。そのひとつの目安になっているのが『王立宇宙軍』ですね。
通常の世界、たとえば『.hack』みたいなRPGの世界観を作る時にも同じような作業をやるんですけど、ケモノの世界の場合は自分たちがケモノじゃないので、想像と妄想で「きっとこうだったら根拠が生まれる」と考えるわけじゃないですか。こうすると説得力があるよね、というところから作っていくので、ケモノの世界を考えるほうがちょっと楽しいですよね(笑)。
板垣氏:
私の場合も、受け手が納得するバランスを探る作業が,けっこう楽しかったりするんですよね。
松山氏:
やっぱりそうですよね。……まぁ、『BEASTARS』の裏市はさすがにエグいですけど(笑)。裏市が最初に出てきた時は、ちょっと心に刺さりましたね。「表世界と裏世界の両方をちゃんと踏み込んで描くんだ、エグいなぁ」と思って。
本当は我々も『BEASTARS』の裏市みたいに、社会の裏側の部分も描きたいんですけど。でもゲームはマンガ以上に規制が多くて。特に最近は中国も厳しいですしね。
ゲームは今、ワールドワイドでの表現で規制が入らないことを前提として設計するしかないので。そういう裏の世界観の表現とかは、なかなかやらせてもらえないんです。
これが「日本だけでしか売りません」ってなるとだいぶラクになるんですけど、そうすると売り上げは壊滅的ですから。なのでビジネスの観点からすると、違うところの表現でがんばるしかないんですよね。
──そういった意味では、マンガはまだ表現が自由ですよね。
松山氏:
マンガ市場は日本が完全にメジャーリーガーじゃないですか。海外でもいろいろ出版されますけど、正直海外の売り上げなんか微々たるもので。売り上げの大半はもう絶対に日本じゃないですか。
なので、マンガ文化って日本の文化なので。今は韓国や中国のウェブトゥーンが伸びてきていますけど、それは正直、家庭用ゲームとソーシャルゲームぐらいビジネスが違っていますから。
■『BEASTARS』や『SANDA』は今でもフルアナログの作業で執筆されている
──板垣先生は何か、最近のエンタメの変化を感じることはありますか?
板垣氏:
そうですね、私自身がすごく古風な漫画家で。原稿も今のところはフルアナログで、ペンもスクリーントーンも全部手先の作業でやっていて。
そのことをインタビューでもよく聞かれるんですけど、最初そこから始まったものをまだ変えていないだけで、そんなにこだわりはなかったんですけど。でも、みんなから「フルアナログの漫画家」って言われるようになると、「まだ続けていたほうがいいのかな?」って思い始めています(笑)。
松山氏:
完全にレアケースではありますよね。デジタルにも2種類あって、フルデジタルの方と、下描きとペン入れまではアナログでやって仕上げは全部デジタルという方がいらっしゃいますけど。
板垣氏:
やっぱりコロナもあるし、世界的にも在宅仕事がスタンダードになっているならそっちに移ったほうがいいんだろうなとは思いつつ、やっぱり手でやる作業が好きで。でも時代的な作業の変化になかなか追いつけていないツラさというか、その葛藤はありますね。一方では、原画展ができるといった楽しさもあって。
松山氏:
アナログだと原画展ができますからね。私もマンガの生原稿が好きで、いろんな作家さんの原画展に足を運ぶんですけど、やっぱり生原稿の迫力はぜんぜん違いますから。
板垣氏:
そうですよね。雑誌に印刷された時のアナログとデジタルの違いって、読んでる側は分かんないと思われがちなんですけど、意外と分かるというか。
私はスタジオジブリのアニメだと、圧倒的に『もののけ姫』が好きで。それで『千と千尋の神隠し』の画面を見るとなんとなく、「ちょっと違ったものになってしまったな」と思った時があったんです。調べたらやっぱり、この作品でデジタルの作画を導入し始めたと分かったので。これはやっぱり、自分もアナログを続ける価値があるのかなと思いました。分かる人は分かるんだなと。
松山氏:
『週刊少年チャンピオン』でも、アナログの作家さんは数えるほどしかいないんじゃないですか?
担当編集:
そうですね。現連載陣だと巴留先生を入れて3人ですね。
板垣氏:
3人って、『弱虫ペダル』の渡辺航先生と……
担当編集:
『バキ』です。
板垣氏:
あっ、そうか(笑)。
松山氏:
昔はゲームも全部パッケージだったんですけど、これもこの数年で変わってきていて。正直、デジタルのほうが利益率が高いし、特にゲームはデータなので絶対に劣化しないので、相性がいいっちゃいいんです。でもマンガの場合は、私は両方買っちゃうんですよね。
板垣氏:
そうなんですか?
松山氏:
えぇ、紙の本とデジタルと両方買っちゃう。
板垣氏:
いちばんありがたいお客さんですね(笑)。
松山氏:
昔は移動中にマンガを持ち歩いていたんですよ。毎回20冊ぐらい持ち歩くのもさすがにおかしな人だから、移動中はデジタルで読ませていただくようになって。でもこうやって会社にいる時だと、やっぱり紙の本で読んじゃうんですよね。
作家さんによっては電子はNGという方もいらっしゃいますけど、『チャンピオン』も今はすべて電子化されていますよね?
担当編集:
今はすべての作家さんが電子版も掲載されていますね。
松山氏:
いずれゲームもマンガも、全部電子になっていくんでしょうかね。CDも昔そうでしたけど、置く場所に困るっていう。引っ越しで段ボールに入れて運ぼうとしても、メチャメチャ重いじゃないですか。
板垣氏:
本がいちばん重いですよね。私も読むぶんにはデジタルを使っていますね。
■マンガのコマ割も、電子書籍時代に合わせて最適化する必要がある
松山氏:
『SANDA』も『BEASTARS』もそうですけど、セリフじゃなくて絵で迫力を作られるじゃないですか。それは独特な間(ま)の展開も含めてですけど。女性作家さんってどうしても少女マンガベースというか、少年マンガのいわゆる「箱で割る」コマ割ではなくて、少女マンガの「空間で展開していく」形が多いんです。でも巴留先生は、最初からちゃんと少年マンガでしたよね。
板垣氏:
あっ、そうですか。私もめちゃくちゃ少女マンガで育ったほうなんですけど。
松山氏:
そうなんですか!
板垣氏:
少女マンガと、あとはバンド・デシネ【※】みたいにカッチリとコマを割った物語も好きだったので、自分の中でいろいろと組み立てていたんだと思います。特に『BEASTARS』の序盤は独特なコマ割をしていたと、自分でも思いますね。
松山氏:
たしかに序盤はそうですけど、中盤からはコマ運びとかネームの組み立て方もそうですけど、少年マンガとして良い意味で密度が高すぎないバランスがあって。
鳥山明先生の『ドラゴンボール』って、今読んでも子どもたちが読みやすいのは、白黒のバランスがめちゃくちゃ上手いじゃないですか。でも巴留先生は、それとはまた違う答えの出し方をしているというか。今の『SANDA』もそうなんですけど、光と影のバランスが独特で、今の少年マンガとしてはすごく読みやすいなと思って。
板垣氏:
良かったです。
松山氏:
今の若い作家さんって、作画でがんばる方がすごく多くなられたじゃないですか。情報密度がすごく増えたぶん、紙のこのサイズだと読みやすいけど、電子書籍だとちょっと情報量が多すぎて読みにくい……という場合もあるんです。でも巴留先生のバランスって、紙と電子のどっちにも最適化されているのがスゴイなと。
板垣氏:
それは初めて言われましたね。嬉しいです。
松山氏:
私自身も『チェイサーゲーム』という、ゲーム業界を舞台にしたお仕事マンガを作っているんですけど、私の中のルールとして、1ページに最大5コマ、やってもいいのは3段まで。4段はやっちゃダメというのを、ひとつの目安にしているんです。
今のマンガを読む最小サイズの媒体ってスマホになっているので、それ以上増えると1ページの情報量が多くなりすぎるし、そうなると画面を拡大しなきゃいけないし。この拡大の手間が読者からすると煩わしいので。
フキダシの中のフォントサイズを最適化したのは、私の記憶ではたぶん「少年ジャンプ+」の『地獄楽』だと思うんですよ。最初は違ったんですけど、途中から1ページに最大5コマ・3段に変わって、フキダシの中に最大3行までしか入れなくなったんですよ。その代わり文字のフォントサイズが大きくなって、ものすごく見やすくなったんです。
板垣氏:
私はじつは小さい絵を描くのが苦手で、小さい頃から紙に絵が収まらなくて(笑)。そういうタイプだったので、マンガでも大きい絵を入れがちなんですね。だからこまごました絵よりも大きな絵になりがちなのかなと思いますけど。
あとは、『ONEPIECE』世代の『ジャンプ』マンガをあまり読んでこなくて。最近になってようやく、ちゃんと……というほどでもないんですけど、読むようになって。
松山氏:
えっ!? そうなんですか!
板垣氏:
だから最近のちっちゃいコマのマンガをあんまり読むことがなかったのかもしれないですね。
■ケモノ世界が世の中にバチッ!とハマる瞬間があるはずだ
松山氏:
ところで巴留先生って、ふだんゲームはプレイされるんですか?
板垣氏:
あんまりやらないんですよね。でもじつは、アシスタントのスタッフさんと親交を深めるために、最近になって『モンハン』を始めたんです。
松山氏:
ということは、Switchで『モンスターハンターライズ』をやられているんですね。
板垣氏:
はい。すごくよく出来ていてビックリしました。スタッフさんからは「『モンハン』にはゲームの要素がだいたい詰まっているので、『モンハン』ができれば立派なゲーマーです」と認められたので、良かったです(笑)。
松山氏:
お忙しいと思いますけど、ぜひ『戦場のフーガ』も遊んでいただければ。
板垣氏:
資料を拝見したんですけど、すごく興味が湧いたので、ぜひやってみたいです。
──そういえば、『戦場のフーガ』も公式のコミカライズが発表されましたね。
松山氏:
あれは『メタルファイト ベイブレード』のコミカライズをやられていた足立たかふみ先生という漫画家さんが、ゲームもお好きで、しかもケモノ系の作品も描かれていて。これもご縁があって、もうすでに制作のほうを進めていて。もうちょっとしたら正式に発表して公開できると思います。
『チェイサーゲーム』や『戦場のフーガ』の他にも、これから始めようと思って水面下で進めているマンガが複数あるんです。これは別にゲーム化しようとかそういうのではなくて、ちゃんとマンガはマンガとして勝負するというもので。
ウチはゲームを作るのが本業なんですけど、私の直下に「マンガ室」という部署があって、おもしろいマンガを作って世の中を変えられたらいいね、という人たちでやっているんです。なので我々は出版社の敵ではなくて(笑)、仲良くしていこうと思っていますので、よろしくお願いします。
──『戦場のフーガ』の反響はいかがですか?
松山氏:
おかげさまでゲームのほうは発売してまだ3週間ぐらい(※取材時)なんですけど、評判が良くて。
私としては、『BEASTARS』がまさにそうだったように、ケモノ世界がバチッ! と時代にハマる瞬間があると思っていて。ゲームでも、ケモノがいる世界でスタンダードになりたいという想いがあるんです。
ピクサーやディズニーのアニメでも、ケモノがモチーフになっている作品が定期的に出てくるじゃないですか。残念ながらケモノよりも人間で作られているもののほうが明らかに売れているので、やっぱりちょっと人を選ぶんだろうとは思うんですけど。大人からすると、ケモノキャラを見た瞬間に「ちっちゃい子ども向けのものなの?」と思われて、お客さんの絶対数が減ってしまうというのがあると思うんですね。でも、それこそミッキーマウスだって動物モチーフですから。そこは信じてやっていきたいなと。
あと、これは『BEASTARS』の影響もあったと思うんですけど、この5年、10年、特にアメリカでいわゆるケモナーと呼ばれている人たちが、すごく大きな声で騒いでくれるようになったので。
板垣氏:
分かります。
松山氏:
昔は我々がこういう作品を発信しても、みんな黙って「ありがとう」と思っているだけで、反響があまり伝わってこなかったんですよ。でも最近は発売前も発売後も、アメリカの方が多いんですけど、けっこう大騒ぎしてくれるようになったので。そこに関しては「良かった」と感じていますね。
板垣氏:
海外のNetflixで『BEASTARS』のアニメの配信が始まった瞬間に、知らないところからメッセージの大群がドワーッと来て(笑)。Twitterのフォロワーが急に増えたりしたので。
──どういった地域の反応が大きいのですか?
板垣氏:
アメリカとかヨーロッパですね。アジアよりはそちらのほうが多いです。
松山氏:
アメリカと、あとはフランスやドイツが、このへんの感性が強いですね。
担当編集:
フランスが一番ですね。あとはアメリカと、じつは中国も反応が大きかったですね。
松山氏:
やっぱり中国市場は大きいなぁ。
担当編集:
『SANDA』も反応がメチャクチャ良くて。中国は今、エンターテインメントにすごく貪欲なのかなというのは感じていますね。
松山氏:
じつは『戦場のフーガ』も、今のところ売り上げの1位はアメリカなんですけど、その次がじつは中国なんです。で、その次が日本なんですね。さらにその下に台湾がくる、みたいな感じで、ヨーロッパがまだちょっと元気がないんですよね。「パリっ子どうした?」(笑)。
それにしても中国は意外でしたね。ひょっとしたらケモノコミュニティが、中国で育っているのかもしれないですけど。
いずれにしても『戦場のフーガ』はこれから売り上げを延ばしていくだけなので。『BEASTARS』になれるようにがんばります
提供元:Yahooニュース

