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中江有里「私が選んだベスト5」(レビュー)(Book Bang)

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佐藤厚志『象の皮膚』。書店員の凛は、幼いころから重度のアトピー性皮膚炎に悩まされている。
皮膚炎は本人のせいではないのに、周囲から人格ごと疎まれ、嫌われもする。症状を隠しても定められた運命のごとく、将来まで続くのを予感させる。あまりの理不尽さに、こちらも苦しくなった。
加えて非正規雇用の不条理が凛を襲う。数々のカスタマーハラスメントを、自動販売機のごとく無になり、自分に蓋をしてやり過ごしている。そんなある日、東日本大震災が起こり、日常が変化する。ラストの凛の行動は、人間の本質的な欲望の発露ではないだろうか。 高瀬隼子『水たまりで息をする』。突然風呂に入らなくなった夫に戸惑う妻。
「水が臭い」と風呂を拒み、雨水を浴びるようになるが、彼から発せられる体臭は職場でも問題になっていく。
入浴は個人の習慣でありながら、社会的な良俗へ関わってくる。異臭を放つようになった夫と暮らす妻は、やがて故郷への移住を決める。人目がない地方で、髪をそり上げ、川で水浴びする夫の姿は、原始の人間への回帰を思わせる。
『象の皮膚』同様、体臭という個人の体質(考え)を描くが、前者は先天的な皮膚炎、後者は入浴拒否という不可思議な理由から。事情は違うが、社会の価値観になじまないことにまつわる差別、偏見はどこにも潜んでいる、と感じる。『Arc アーク ベスト・オブ・ケン・リュウ』は現代SF作家の珠玉の作品集。映画化された表題作は人類初、永遠の命を手に入れた女性が主人公。女性は若さを保ったまま、周囲の人々は老いていく。愛する人、取り巻く環境や時代も変わり続ける中、永遠の命を得た先に何があるのか。「紙の動物園」は折り紙に込めた親子愛が描かれる。日常から派生したSFはどこか抒情的で、切なさと無常観を漂わせる。 カマラ・ハリス『私たちの真実』は女性初のアメリカ合衆国副大統領となった著者の自伝。黒人初、インド系アメリカ人初とその属性が注目されるが、インドから進学の為にアメリカへ来て、結婚を機に移住を決意した母の存在は特に大きい。
「あなたが何者であるかをほかの誰かに決めさせてはならない。決めるのはあなた自身だ」
母のこの言葉とともに行動し、立場の弱い女性や有色人種を救うには外側から訴えるのではなく、意思決定がなされる内側にいることが重要だと政治家を目指す。ガラスの天井を破った著者の内面を知るだけでなく、現代アメリカの問題にも触れられる。 児玉博『堤清二 罪と業 最後の「告白」』は辻井喬として作家活動も行なった財界人・堤清二のインタビューを中心に構成される。父が築き上げた西武王国の崩壊と堤家の内情。歌人の母・操と妹・邦子への想いに涙した。
[レビュアー]中江有里(女優・作家)
なかえ・ゆり
新潮社 週刊新潮 2021年8月12・19日夏季特大号 掲載
提供元:Yahooニュース

